【第2回】タレントマネジメントシステムの構築一から学ぶタレントマネジメント戦略(1/3 ページ)

今回は、どうやってタレントマネジメントシステムを作ればいいのか、それに対する考え方や心構えをお伝えします。

» 2013年08月29日 08時00分 公開
[森井茂夫(プライスウォーターハウスクーパース),ITmedia]

“欲しい情報”と“収集できる情報”を分ける

 タレントマネジメントシステム構築でまず検討すべきは、必要となる人材情報をどこからどうやって集めてくるか、そして、それらのデータを最新のものに更新していくかというプロセスです。

 これまでの人事管理システムは、各種の届出、法定手続きのための社員台帳、給与支払いなど基本的には人事部門のための機能や情報が中心でした。タレントマネジメントにはビジネスに直結する知識やスキル、経験など、能力、人となりを的確に把握できるようなさまざまな情報が求められます(図1)

図1 人材にかかわる情報とは(出典:プライスウォーターハウスクーパース) 図1 人材にかかわる情報とは(出典:プライスウォーターハウスクーパース)

 注意点は“欲しい情報”と“集められる情報”をきっちり区別することです。初めてこのような領域に取り組む企業では、あれもこれもと欲張りすぎてシステム構築を始めたものの、収集のプロセスの検討が十分でなかったために、結局情報が集まらず計画の修正を余儀なくされるというケースがよくあります。情報を取得するためのコストと得られる効果を吟味して、データ項目を決めるべきです。

 特にスタート時点では、「あればよい」というレベルの項目は除いておくことをお勧めします。求められているものは豊富な情報よりもシステム構築のスピードである場合が多いからです。実際に使ってみて、初めて必要な情報が何であるか明らかになることはよくあります。前回も述べましたが、初めはスピード重視で、対象人材も情報も小さく始めるのが得策でしょう。

 従来、人材情報は正確であることが必須条件であり、人事部門が社員や部門からの情報を精査して人事システムを作ってきました。そのようなアプローチではタレントマネジメントに必要な情報をタイムリーに集めることは難しいのではないかとの声もあります。

 そのような中で注目を集めているのがSNS(ソーシャル・ネットワーク・サービス)です。社員自らが成果やナレッジを発信し、それに対して他の社員からの意見や評価が登録されます。情報が正しいかどうかは人事部門が決めるのではなく、仕事がリアルに分かる現場社員です。人事部門が“集める情報”と社員自らの発信により“集まる情報”の2つをうまく組み合わせることが、これからの人材情報管理の重要なポイントです。

海外の人事情報は要注意!

 海外支社などの人材情報を扱うときに忘れてはならないのが、個人情報に関する各国法規制の対応です。日本企業では、採用時に個人情報に関する同意を得ているケースが多いですが、米国や欧州地域では個人情報に関する規制の厳しく、現地の人事が保有している情報を安易にシステムに入力することは危険です。

図2 規制の例外条件(出典:プライスウォーターハウスクーパース) 図2 規制の例外条件(出典:プライスウォーターハウスクーパース)

 最も規制が厳しいといわれているのが欧州で、EU指令の第25条には、「個人データに関する十分なレベルの保護が行われていない第三国への個人データの移動を禁じる」旨の規定があり、欧州委員会より十分なレベルの個人情報保護措置を確保していると認定されていない第三国について個人情報を移転することが原則として認められていません。日本は十分な保護措置を確保している国と認定されていないため、例えば、日本で導入したクラウドシステムをEU域内の子会社に導入する際には、このデータ移転の問題が生じます。これをクリアするには、別途規制の例外として認められる条件を満たすための対策を講じる必要があります(図2)

 一方、米国では、個人情報保護に関する包括的な法律は存在しません。領域、業種ごとに個別法、判例法または自主規制による規制が存在するため、自社の事業形態に応じた対策が必要になります。また公民権法では、人種、年齢、性別、宗教などによる雇用差別が禁じられていることから、システム導入に際してこれらの情報を管理対象とすることは係争リスクにもなり得ます。

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