お客様本位――これこそがユナイテッドアローズの原理原則ポーター賞企業に学ぶ、ライバルに差をつける競争戦略(1/4 ページ)

日本のセレクトショップとしてトップレベルの売り上げを誇るユナイテッドアローズ。その強さの源泉は何か。同社のコアコンピタンスについて、同社上席執行役員の佐川氏と一橋大学大学院の大薗教授が対談した。

» 2014年05月27日 08時00分 公開

 競争戦略理論家として知られるハーバード大学経営大学院のマイケル・E・ポーター教授をアドバイザーに、一橋大学大学院 国際企業戦略研究科が主催する「ポーター賞」。2001年に始まった同賞では、優れた競争戦略を持つ企業あるいは事業が毎年表彰されている。

 2013年度は、伊藤園、カカクコム 価格.com事業、三菱商事・ユービーエス・リアルティ インダストリアル本部・産業ファンド投資法人、ユナイテッドアローズの4社が受賞した。

 そのうちの1社、ユナイテッドアローズは、「ユナイテッドアローズ」や「クロムハーツ」などのセレクトショップを運営するアパレル小売り企業だ。ビームスを退社した重松理氏(現ユナイテッドアローズ会長)が1989年10月に設立し、2003年には東京証券取引所第1部に上場、現在は年間売上高が約1000億円、全ブランド合わせて232店舗(2014年3月末現在)に上る。同業他社と比較すると、ビームスは年商約500億円の売り上げ、シップスが約215億円であり、営業利益率は業界平均を5%以上も上回っている。このことからも、業界の中でユナイテッドアローズがずば抜けていることは明らかである。

 なぜ同社がここまで大きくビジネス成長を遂げているのか。その要因について、ポーター賞の運営委員会メンバーである一橋大学大学院 国際企業戦略研究科の大薗恵美教授が、同社上席執行役員の佐川八洋氏に聞いた。(以下、敬称略)


理念の共有がコアコンピタンスに

大薗 世界的に見ても、セレクトショップを多店舗展開する企業としてユナイテッドアローズのように成功している例は多くありません。日本においては同業他社と比べて成長性、収益性、利益率などが突出しています。

 ユナイテッドアローズのビジネスにおける特徴の1つは、自社企画品と仕入れ品の双方とも高いレベルで伸ばせる「バランス」の良さだと思います。お互いに相乗効果を生み出すような仕組みに競争戦略のコアがあるのではないでしょうか。

佐川 元々ユナイテッドアローズは仕入れ品だけを販売するショップとして創業しました。当然のように仕入れ原価は高いので、非常に収益性が低く、思い通り売り上げが伸びない時期が長らく続きました。ただし、洋服好きやファッションに敏感な消費者には高い評価を受けていました。

ユナイテッドアローズ 上席執行役員の佐川八洋氏 ユナイテッドアローズ 上席執行役員の佐川八洋氏

 そうした中で、低収益性から脱却するためにSPA(製造小売業)化に向かっていったわけです。オリジナル商品を開発するには、人材やシステムなどに対する投資が必要で、商品部門のコストは膨らみます。しかし、自社企画品を出せるようになれば粗利率は圧倒的に高くなるので、低収益モデルから高収益モデルへの転換を励みに先行投資して、現在のような仕組みを成し遂げることができました。

 セレクトショップに関しては、これまでにほかのアパレル企業も挑戦してきましたが、うまくいきませんでした。その理由の1つは、ユナイテッドアローズと異なり、元々はSPAだけで事業運営していたため、高収益から低収益に向かう発想になるからです。最初は仕入れ品を多く取り揃えて魅力的な店作りをしていても、いかんせん仕入れ品の利益率が低いのと、在庫処分のノウハウがないため、途中でバランスが破たんして、仕入れ品のシェアがどんどん下がっていきました。

 ユナイテッドアローズの場合、元々仕入れ品が多過ぎたところを、SPA化する中で利益を上げながらバランスを取っていったので、結果的に、顧客にとって最も魅力的な仕入れ品と自社企画品とのバランスが発見できたのです。

 もう1つ、ユナイテッドアローズがうまくいっているのは、社員が経営理念の下でまとまっているからです。一例として、小売業出身の社員とアパレル業出身の社員とでは考え方が大きく異なるため、組織として成り立ちにくいケースが多いのです。実際、新規参入する会社もこの点で失敗することが多々あります。ユナイテッドアローズでもそうした社員の考え方の違いはありますが、「お客様本位」という経営理念が共通しているため、組織を形作ることができ、結果的に仕入れとオリジナルのバランスが取れた商品部門が出来上がったのです。ここまで来るのに10年かかりましたけど。

大薗 このとき要になった理念について、もう少し詳しく教えていただけますか。

佐川 ユナイテッドアローズの経営理念である「私たちは、世界に通用する新しい日本の生活文化の規範となる価値観を創造し続けます」と、社是である「店はお客様のためにある」です。ありがちなものかもしれませんが、見せかけばかりでなかなかそこに向かえない企業が多い中、本気で向かっていくという情熱を我々の創業者は持っていました。社員たちも気持ちの面でこうした理念に心底同意している集団だったのでうまくいったのです。

 ユナイテッドアローズは、何よりもまず、お客様の満足があって、その結果、売り上げが伸びるという考え方を持っています。儲け主義だと最初はうまくいくかもしれませんが、次第に何のために事業をやっているか分からなくなります。

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