ハイブリッドクラウドをやめてマルチクラウドを選ぶ理由Lead Initiative 2014レポート

「全ての社内システムをパブリッククラウドへ」。そんな夢物語のようなプランを検証し、実現しようとしている流通大手の日通。同社のクラウド最先端事例を紹介。

» 2014年07月24日 10時00分 公開
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 “クラウドファースト”を標榜する企業は多い。しかし、実際にはサーバーの仮想化や、一部システムをプライベートクラウドへ移行したところで止まってしまう企業が大半だろう。そんな中、ほぼ全ての社内システムをプライベートクラウドへ移行させ、さらにパブリッククラウドへの移行を実施している企業が、流通大手の日本通運株式会社(以下、日通)だ。

 7月10日に実施されたIIJ主催イベント「Lead Initiative 2014」では、そんな日通のクラウド移行事例について、日通情報システム株式会社 システム企画部 課長 山口健治氏が講演。

 ここでは、日通がオンプレミスからプライベートクラウドへ、さらにパブリッククラウドへの全面移行を目指している経緯を紹介する。

5年間でほとんどのオンプレシステムをプライベートクラウドへ移行

山口氏写真 日通情報システム株式会社 システム企画部 課長 山口健治氏

 日通は1937年創業、77年の歴史を持つ日本有数の流通企業だ。その巨大流通網を支えるITシステムの運用構築を担うのが、山口氏が所属する日通情報システム株式会社だ。

 日通も大企業の例に漏れず、「個別最適化されたシステムが乱立し、いわゆるスパゲッティ状態だった。これを整理整頓する必要があった」(山口氏)ことから、サーバーの集約を兼ねて、VMwareを使ったサーバーの仮想化やプライベートクラウド化が2009年から始まったという。このオンプレミス環境からプライベートクラウドへの移行は着々と進み、いまではあと2システムを残すところまで来ている。

 同社のシステムは、本番環境に仮想サーバーが約2000台、災害対策用サイトに約1500台の計3500台で構成。本番環境と災害対策用サイトは同じIPアドレスが付与されており、災害時にはVMware SRMで自動的に切り替えられる仕様になっている。ストレージは合わせて約2ペタバイト規模に至る。同社では、このシステムを約30人で運用していたが、年間20〜30のペースでシステムが増え続けているため、運用の最適化を決意。課題を洗い出したところ、「監視」と「プロビジョニングに時間がかかり過ぎる」という2つの問題が浮かび上がった。

システムイメージ 日通のシステム概要図

 監視の部分では、手動メール通報の件数が膨大だったので自動メール通報のシステムを導入。プロビジョニングも手動では手間がかかりすぎていたため、RunBookAutomationツールを導入。「年々システムは増えていったが、ツールを上手く導入したことで何とか人員増をせずとも運用できる体制が作れた」(山口氏)。

 このように運用効率化を図り、一定の効果が出ていた一方で、5年間解放されない領域が3つあった。それが「調達・構築」「機器・DC管理」「リソース管理」だ。同社では、この3点にかなりの時間を費やしていたため、根本的な解決を目指し、パブリッククラウドの検討を始めた。

「パブリッククラウドは本当に使えるの?」の疑いから始まった

 パブリッククラウドを利用することで、3つの課題から解放されることが理論的には分かっていたが、セキュリティや品質の問題など、まだまだ不安も多かった。そこでまず、実際は「本当に使いモノになるのか?」という点から検討を始めたという。

 検証の際ポイントとしたのは、法規制の面から検討する「コンプライアンスの観点」、ソフトウェアサポートやスペックなどシステム要件などの「システム特性の観点」、現状の基盤サービスレベル(可用性やセキュリティ)がクラウドでも満たせるか判断する「基盤サービスレベルの観点」の3点。

 この3点をさらに細分化し、40項目に対してプライベートクラウドとパブリッククラウドで比較。その結果、国内のパブリッククラウドに限定すると、同社の独自ミドルウェアや超ハイスペック(24core以上)などを除いたほぼすべての項目で“全面的にクラウドへの移行は可能”という判断に至った。これを受けて社内では、「パブリックへの移行は可能。では、効果はどの程度でるのか?」という点に関心が移ったという。

 特に懸念していたセキュリティに関して、山口氏は「セキュリティに関しては完全に杞憂に終わった。やはり、パブリッククラウド運営事業者は一企業が対応できるセキュリティレベルをはるかに超えた高度なセキュリティを実現していた」とコメントした。

クラウドを100%利用すると40%のコスト削減、中途半端だと逆効果に

 クラウド移行が現実味を帯びてきたことで、同社ではクラウドベンダー12社に対して「RFI(Request For Information)」を実施。「IaaSとしての基本サービス、計78項目の質問」と「松竹梅の構成案、費用、課題」について情報提供を求めた。

 RFIを受けて同社では、5年間の総コスト(TCO)についてさらに精細なコストシミュレーションを実施。具体的には、2009〜2010年に構築したプライベートクラウド上で稼働しているシステムを参考に、オンプレミス更改した場合とクラウド活用した場合を比較した。

コスト削減効果 コスト削減効果を比較したところ。活用度70%だと逆効果になることが分かる

 その結果、クラウドを100%活用した場合には40%の削減効果、オンプレミスを更改した場合には30%の削減効果、クラウド活用率を70%にした場合には26%の削減効果だった。この点について山口氏は「意外だったのは、クラウド活用率70%の場合、オンプレミス更改よりも削減効果が少なかった点だ。このことからも『中途半端に移行するのは運用コストも含めて逆効果になる可能性が高い』ということがはっきり分かった」と説明。

 同社では、5年間のTCOのコスト削減効果に加え、現行課題への対応や将来的な期待も加味し、クラウド移行を決断。ベンダー選定に進んだという。「いまのパブリッククラウドの進化スピードは目を見張るものがある。プライベートクラウドでは、自分で進化させなければならないが、パブリッククラウドはベンダー側が勝手に進化してくれている。このメリットを享受できる期待値も、パブリッククラウドのメリットとして見逃せないポイントだった」(同氏)。

ハイブリッドクラウドを想定するも、2社を共存させるマルチクラウドへ

 当初候補だった12社から、RFI評価で8社へ、RFP評価で4社へ、さらに最終ベンダー評価で2社まで絞りこんだ。「本当は最後に1社に絞り込むつもりだったが、最後に残った2社が甲乙つけがたく、お互いがまったく異なる特徴だったため、両者の良い所を活かしたミックスクラウドで運用するのが、最も効果が上がることが分かった」(山口氏)。

 その結果、当初クラウド化が可能なシステムはパブリッククラウドへ移し、困難なシステムはプライベートクラウドに残す、いわゆる“ハイブリッドクラウド”を想定していたが、これでは当初の目的でもある「調達・構築スキーム」からの解放が果たせないこともあり、クラウド化が困難なシステムもオンプレと同等のクラウド基盤を用意したパブリッククラウドであるへ移行することを決断した。その結果、アプリの新規・更改の際には、AWSに合わせた開発を前提に先進性・機能性に優れた「AWS」に、単純移行のケースや対応MWの未対応があった場合などは、現行との親和性に優れた「IIJ GIO」への移行を決定した。

 日通が「IIJ GIO」へ移行を決定した主な理由は、「オンプレと同等の構成・SLA」「国内DR可能」「現行環境を維持し、移行での優位性」の3点にある。オンプレと同等の構成・SLAとは、オンプレミス環境の構成やSLAをそのまま担保できる点だ。これにより、移行のリスクやコストを大幅に削減できる点は大きい。また、IIJは関東と関西にデータセンターを持つため、DR対策が容易だ。関東をメインにし、関西のデータセンターにバックアップをとっておくだけでDRが実現可能だ。最後の現行環境を維持し、移行での優位性とは、オンプレミスと同等の環境を構築できるため移行も容易になるほか、既存アプリケーションの改修等が必要ない点だ。

新しいシステムイメージ 日通の新しいシステムイメージ図。マルチクラウド構成が特徴だ

 IIJを選んだ理由について、山口氏は「独自APIを使用していない点や、標準OSや商用ミドルウェアの利用を前提に開発がされている点など、企業内ITのニーズをよく理解し、設計段階からそれらに取り組んでいる点が大きかった。きちんと提供するサービスを考えてから設計されているので、後々になってちぐはぐにならない安心感や、専任SEを含む直販体制など、手厚いサポート体制は心強かった。何より、現行システムとの親和性の高さは非常にありがたい点だ」を挙げている。

今後の課題は“運用チームのスキルアップ”

 このマルチクラウド環境は、まずパイロット移行としてシステム更改を予定しているBIシステムを8月ころパブリッククラウド上へ移行する予定だという。その後は更改のタイミングで随時パブリッククラウドへ移行していく。最終的には、パブリッククラウドへの移行の時と同じように、約5年間かけて2019年には全システムのパブリッククラウド化をしたいとした。

 そこまでの課題として、山口氏は「まず、異なるクラウドをまたがったマルチクラウドの管理ツールが出てきてほしい。また、いまハイパーバイザーが異なる点がネックになっているので、Dockerのようなコンテナ型仮想化技術の導入も検討していきたい。最も重要なのは運用チームのスキルアップだ。AWSは非常に安く高機能だが、使い方を間違えるとコストが跳ね上がる。自分たちで運用のためのスクリプトを書いて対応するなど、その辺りもきちんとケアできる体制を作っていかなければならない」と課題を挙げつつ、パブリッククラウドの効果と進化について大いに期待していると語り、講演を締めくくった。

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アイティメディア営業企画/制作:ITmedia エンタープライズ編集部/掲載内容有効期限:2014年8月31日