つたえと小堀遊佐(こぼる ゆうざ)が話している。
「……ということは最悪、わが社の所有する技術情報の流出か。民間企業の情報とはいえ、ただでは済まないだろうな。マスコミも押し寄せるだろう。記者会見も必要だろうか」
つたえが答える。
「最悪、そうなるかもしれませんので、ご準備ください。でも、まだ詳細は調査中です」
小堀がつたえに言う。
「準備はしてある。謝罪のお辞儀の仕方だろ。こうだ」
小堀は身体を45度に傾けて言う。
「私が真ん中、あと役員2人と3人で一糸乱れぬようにお辞儀をする。記者がカメラのシャッターを切る。バシャバシャバシャ。その音が聴こえなくなるのを確認して、3人同時に頭を上げる。どうだ」
なんだか得意満面だ。「どうだと言われても」と困りつつ、つたえが苦笑いしながら答える。
「ええ、そういう準備ももちろん必要なのですが、大事なのは、事件のあらましや影響範囲を記者に正しく伝えることです。記者の中にはITやセキュリティに詳しくない人もいますので、専門用語の多用はお控えください。また、不正確な情報を伝えてしまうと、そこから尾ひれが付いて、ワイドショーなどに取り上げられた場合に、全く本来の事実とは違う内容が伝わってしまうこともあります。風評被害を避けるためにも、分かりやすく、正確にお伝えください。もちろん、原稿はこちらで用意します」
――そもそも、専門用語の多用は「やってくれ」と言われても無理だ。この点は大丈夫だな。分かりやすく、正確に伝える、というのは前にこの娘の役割だと聞いたぞ。その割には説明がよく分からないときもあるが。もう一度確認してみよう。小堀は思った。
「分かった。じゃ、いま一度、今回の事案のあらましを整理して教えてくれ」
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