CSIRT小説「側線」 第8話:全滅(前編)CSIRT小説「側線」(4/5 ページ)

» 2018年09月14日 07時00分 公開
[笹木野ミドリITmedia]

@CISO室

Photo 小堀遊佐:役員改選で新しく役員になり、いきなりCISOに任命された。総務畑出身で、何か起こったら責任を問われるCISOという役職にビクビクしている。メンバーが何を話しているのか、よく分かっていない

 つたえと小堀遊佐(こぼる ゆうざ)が話している。

 「……ということは最悪、わが社の所有する技術情報の流出か。民間企業の情報とはいえ、ただでは済まないだろうな。マスコミも押し寄せるだろう。記者会見も必要だろうか」

 つたえが答える。

 「最悪、そうなるかもしれませんので、ご準備ください。でも、まだ詳細は調査中です」

 小堀がつたえに言う。

 「準備はしてある。謝罪のお辞儀の仕方だろ。こうだ」

 小堀は身体を45度に傾けて言う。

 「私が真ん中、あと役員2人と3人で一糸乱れぬようにお辞儀をする。記者がカメラのシャッターを切る。バシャバシャバシャ。その音が聴こえなくなるのを確認して、3人同時に頭を上げる。どうだ」


 なんだか得意満面だ。「どうだと言われても」と困りつつ、つたえが苦笑いしながら答える。

 「ええ、そういう準備ももちろん必要なのですが、大事なのは、事件のあらましや影響範囲を記者に正しく伝えることです。記者の中にはITやセキュリティに詳しくない人もいますので、専門用語の多用はお控えください。また、不正確な情報を伝えてしまうと、そこから尾ひれが付いて、ワイドショーなどに取り上げられた場合に、全く本来の事実とは違う内容が伝わってしまうこともあります。風評被害を避けるためにも、分かりやすく、正確にお伝えください。もちろん、原稿はこちらで用意します」

 ――そもそも、専門用語の多用は「やってくれ」と言われても無理だ。この点は大丈夫だな。分かりやすく、正確に伝える、というのは前にこの娘の役割だと聞いたぞ。その割には説明がよく分からないときもあるが。もう一度確認してみよう。小堀は思った。

 「分かった。じゃ、いま一度、今回の事案のあらましを整理して教えてくれ」

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