多くの企業が見落としている「デジタルトランスフォーメーションの落とし穴」“ディスラプションより危機感を抱くべき問題”とは?

DX(デジタルトランスフォーメーション)のトレンドが進展し、企業の間では「AI(人工知能)などを使って、いかに新たな価値を創出するか」「いかにスピーディーに価値を提供するか」といったテーマばかりが注目されている。だが、ITサービスをビジネスとして提供し、収益やブランドの継続的向上を図るためには、「利便性とスピードの追求」だけでは十分とはいえない。むしろ、多大なリスクを背負い込むことになってしまう。ではDXトレンドが過熱する中、多くの企業が見落としている「真実」とは何か?――日本ベンダーマネジメント協会 武内烈氏、ウチダスペクトラム 取締役 常務執行役員 岡田恭介氏と、編集部との鼎談(ていだん)で明らかにした。

» 2019年09月17日 10時00分 公開
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ディスラプション以上に危機感を抱くべき「重大なリスク」

 DX(デジタルトランスフォーメーション)トレンドが進展し、ビジネスは「テクノロジーを使って価値を生み出す力」と、競合に先駆けてニーズに応える「スピード」の勝負になっている。テクノロジーを使いこなす企業が、規模や業種の壁を越えて市場を席巻し、既存の業界構造を破壊する。この「ディスラプション」に多くの経営層が危機感を抱いている。

 しかし、ディスラプション以上に危機感を抱くべき、重大なリスクもあることをご存じだろうか。それは「契約」だ。およそ全てのビジネスをITが支え、多様なIT資産を組み合わせて使うことが当たり前の今、自社のビジネスや信頼は、ソフトウェア、クラウドサービスなどのライセンス上に立脚している。しかも、そうした契約はビジネスの状況に応じて変化する。ベンダーとの契約やサービス契約を適切に管理していかなければ、自社のサービスを安全かつ安定的に提供できなくなる他、ともすれば社会的信頼失墜に直結するリスクがあるのだ。

 では、こうした契約を管理すべき主体は誰なのか? また、経営環境の変化に応じて“変わり続ける契約”を、具体的にはどう管理、コントロールしていけばよいのか?――この課題に対して、「ベンダーマネジメントオフィス」(VMO)の活用を提案しているのが、日本ベンダーマネジメント協会とウチダスペクトラムだ。日本ベンダーマネジメント協会 武内烈氏と、ウチダスペクトラム 取締役 常務執行役員 岡田恭介氏に、アイティメディア統括編集長の内野宏信が、DX時代の必須要件となる「ベンダーマネジメントのあるべき姿」を聞いた。

「ビジネス=IT」の時代、IT部門に求められる役割とは

日本ベンダーマネジメント協会 武内烈氏

内野 DXトレンドが進展する中、多くの企業がクラウドやAI(人工知能)などの活用に乗り出しています。しかし、成果を獲得できている企業は限定的な他、そもそもDXという言葉の捉え方も各社各様だと感じます。まず議論の前提として、「DXとは何か」から確認したいのですが。

武内氏 DXにはさまざまな捉え方があり、議論がかみ合わないケースも増えていると思います。参考になるのはガートナーの定義です(※)。ガートナーではDXを「企業がデジタルビジネスを実現するための改革のプロセス」としています。「デジタルビジネスを行っているからDXを実現できた」というものではなく、新たなビジネス価値の創出に向けて、既存のビジネスモデル、ビジネスプロセス、組織をどう変革していくかという取り組みがDXなのです。

※参考:Gartner IT Glossary、Digital Business Transformation

岡田氏 DXをITシステムの観点から見れば、例えば「ERP」や「コミュニケーションプラットフォーム」など“ITに閉じた話”ではなく、テクノロジーの力を使ってどう収益向上を図るかといった“攻めのITの話”になります。そのことを経営トップが認識し、DXを事業戦略そのものにリンクさせるようになりつつあります。特にDXトレンドの進展、ニーズの変化は非常に速いため、世の中の流れに乗りながらどう継続的に企業価値を高めていくかが大きな課題になっています。

 それに対する経営トップの危機意識も強いですね。例えば、ある自動車メーカーの役員会では、コネクテッドカーの話題が出ない日はないそうです。また、ある消費財メーカーではすでに新サービスのPoC(概念検証)を100本以上こなして新規ビジネスをデリバリーしようとしています。

 一方、足元を見直したときにIT部門はどうかというと、仮想化基盤、クラウド、IoT(Internet of Things)、AIなど、管理、活用すべきリソースが爆発的に増えています。各リソースの管理もままならない中で、どうすれば攻めのITに向けてプロセスや組織をトランスフォームしていけるのか、悩んでいるのが現状だと思います。

「BOMレベルでのIT管理」が必要になってくる

ウチダスペクトラム 取締役 常務執行役員 岡田恭介氏

内野 ビジネス価値を創出するために、必要なテクノロジーを迅速、柔軟に調達し、組み合わせる――つまり、ビジネスとITを密接に連動させ、主体的にコントロールすることが求められているわけですが、ITリソースの管理に手いっぱいなこともあり、「収益向上」ではなく、「コスト削減・効率化」を目的とした「守りのIT」から脱却できずにいるわけですね。また、デジタルビジネス推進室のようなDX推進の専門組織を設ける企業も増えていますが、「AIを使って何かやれ」といった具合に、DXの取り組みがコアビジネスから切り離されている例も多い。結果、実ビジネスにつながらない傾向が強いようです。

武内氏 「ITはよく分からないからIT部門で頑張れ」という風潮はいまだにありますね。これを解決するために、ビジネス側からITに人を出したり、IT側から人を出してビジネスを経験させたりする取り組みはこれまでもありました。しかし、必ずしもうまくいっているわけではないようです。

 ですから、デジタルビジネス推進室がDX推進の役割を担うとするなら、自社ビジネスと自社ITの双方を理解し、ビジネスとITの架け橋になることが必須です。一方、経営層はビジネス戦略としてIT活用を位置付け、彼らに権限や責任を持たせていくことが求められます。さらにIT部門は、コントロールすべき複数のベンダーを「戦略的なパートナー」として位置付けていくことが重要になってきます。自社のビジネス戦略に沿ったパートナー戦略をビジネス部門と一緒に考え、取り組んでいかなければなりません。

岡田氏 そうした「戦略的パートナーとのエコシステム」がDXで成果を獲得するための1つのカギになると考えます。前述のように、DXとはビジネスモデル、ビジネスプロセスの変革です。ビジネスの状況に応じて、目的に最適なITを柔軟に調達、廃棄したり、組み合わせたりしていかなければなりません。ITが「一度導入したら、ずっと使い続ける」ものではなくなっているのです。ITの調達も、従来のような資産購入型からサプスクリプション型に変わっています。従って、変化に柔軟かつ安全に対応するためには、新たなパートナーエコシステムを作っていくことが不可欠です。経営層やマネジャー層には、こうした変化についていけていない方も少なくありません。

武内氏 要するに、ITの位置付けが変わっているということだと思います。例えば製造業で言えば、「自社製品を作るためのバックオフィス」を支援するのがIT部門でした。しかしITの力で収益、ブランドの向上を狙うデジタルビジネスでは、ITは「自社製品の一部」であり、IT部門はビジネス部門の一部となります。

 また、製造業では自社製品を構成する部品をBOM(Bill of Material:部品表)できめ細かに管理、コントロールしていますが、今はそこにITが入ってくるわけです。では、BOMのレベルでITを管理できているのか、そこまでのケイパビリティを誰が持つのか、これをしっかりと考えていく必要があります。

低レベルの品質管理、サービス管理は、甚大なリスクに直結する

アイティメディア統括編集長の内野宏信

内野 確かに「社外向けのITサービス」を「自社製品」と考えると分かりやすいですね。多様なソフトウェアやクラウドサービスなどを使って「製品」を作る以上、必要な“構成部品”をスピーディーに調達、組み合わせるだけではなく、安全性、信頼性といった「品質」も担保できなければ信頼失墜に直結します。社内向けのシステムでもそれは同じです。

岡田氏 そうですね。ITサービスは複数のクラウドサービスやソフトウェアの組み合わせでできています。基盤となるクラウドも複数あれば、機能もデータ管理、認証、通知、分析などバラバラです。何か1つ落ちるとサービスとして提供できなくなりますし、例えば認証が機能していなければ情報漏えいを起こしたりする。これらは大きなリスクです。

武内氏 製造業では部品を管理して、品質を保証することは不可欠な業務です。よって前述のように、BOMを管理するなど、サプライチェーンマネジメントに取り組んでいます。DXでも、これと同様の取り組みが求められます。品質保証がないままサービスをユーザーに届けることなどあり得ません。逆に言えば、低レベルな品質保証しかないサービスはユーザーからも社会からもそっぽを向かれてしまう。

 ライセンス管理のリスクもあります。これまでIT部門はテクノロジーが専門であり、ライセンスは契約の問題になるためビジネス部門の領域という考え方でした。しかしサービスを提供するためには、全てのサービスとシステムの構成情報を管理したり、クラウドサーピスの契約状況を管理したりする必要が生じます。クラウドサービスの課金状態は事業コストに反映されますから、契約状況を管理できていなければユーザーへの提供コストすら正確に算出できません。

内野 「ITサービスという製品」で、いかに安全かつ合理的に収益を獲得していくか。いわば「ITサービスというものづくり」が求められているわけですね。当然、部品の構成情報、調達状況、ライセンスなどはIT部門とビジネス部門が連携して管理しなければなりません。一般に、サービス開発ではスピードを最優先する傾向がありますが、品質や契約の管理がおろそかになると、ビジネスとしては成立しないということですね。

武内氏 スビードを出すためには「現在の状況」を正確に把握することが重要です。品質を担保したり、資産を管理したりすることは、スピードと変化への対応力を企業として安全かつ合理的に高めるための取り組みだと考えることが大切です。

VMOの役割

内野 ではそうした課題やリスクに対応する上では、「ベンダーマネジメント」に何が求められるのでしょうか。

岡田氏 例えば、Amazon Web ServicesやMicrosoft Azureなどを使っている企業は、サービスをバラバラに契約している例が多いですよね。メールサービスのようにユーザーごとに課金されている場合、1つ1つの原価管理もやりにくい。しかし各ベンダーとの契約を統合管理できれば、無駄なコストを削減して利益率を上げることもできる。ITの面では、そうしたものを統合管理できるプラットフォームが必要です。

 組織としては、ビジネスのスピードが上がる中で、自社ではどんなITリソースを保有、利用しており、どんな契約やSLA(Service Level Agreement)になっているかを管理し、どう利益に貢献できているのかを把握することが求められます。また、サービスや機能を増やすごとにベンダーパートナーも増えていきますから、彼らをきちんとマネジメントし、バックヤードを統率していくことが求められます。これがVMOの役割です。

武内氏 今までのベンダーマネジメントは、PMBOKなどに準拠した“プロジェクトマネジメント由来のベンダーコントロール”だったと思います。プロジェクトに関連するSIerや開発事業者を一方的に管理するスタイルです。ところが今は、ソフトウェアライセンスやクラウドサービスを提供している大手のITベンダーを対象として、各ソフトウェアライセンスやサービスの契約条件などを、自社のビジネス目的を基に、主体的に、よりきめ細かな粒度でコントロールする必要があります。

 つまり、これまでは「ソフトウェアを買った」という“購買の観点”で調達していたものが、「ライセンスを利用する」という“運用の観点”から管理することが求められている。特にクラウドサービスは目的に応じて利用をコントロールしないと、多額の利用料がかかってしまいます。今使っている各種ITリソースがビジネスにどう貢献しているのか――それをしっかりと把握した上で、契約面でも最適な形にコントロールし続けるマネジメントが必要なのです。

価値提供のバリューチェーンをコントロールできるのは、IT部門しかいない

内野 従来、IT部門とビジネス部門は分断されていました。しかしITを使ってもうけていくためには、「ITサービスという製品」を状況に応じて開発、改善しなければならない。まさに先のように、サプライチェーンマネジメントと同様の仕組みが求められるのですね。

武内氏 その点において重要なのは、IT部門、ビジネス部門は、それぞれ単独で存在するのではなく、それぞれが独自の機能を提供し、他部門と連携することで「最終顧客に向けて価値を生み出すバリューチェーンを形成している」という考え方だと思います。IT部門もビジネス部門も、独自の機能を提供する“サービスプロバイダー”なのです。

 そして、このバリューチェーンに社外のベンダーも含まれるわけです。バリューチェーンを通して、いかにエンドユーザーに対して、いま求められている価値を、スピーディーに開発し、届けるか。そのためにサプライチェーンをどうマネジメントするか。これは、バリューチェーンに参加する全プレイヤーがエコシステムを醸成しながら推進していく取り組みであり、これをコントロールするのがVMOなのです。

内野 必要なものを、必要なときに、必要なだけ生産、共有するために、サプライチェーンを主体的にコントロールする――まさにトヨタ生産方式における「Just In Time」と同じ考え方ですね。では、VMOが持つべきケイパビリティは何でしょうか。

岡田氏 重要なのは契約管理です。ライセンス体系を理解し、技術と契約内容、自社が求める仕様を把握し、自社ビジネスの状況に合わせて維持、運用していく必要があります。その上で予算をコントロールする力、CIO(最高情報責任者)などトップレベルの事業戦略を理解してプラットフォームに適用していく企画能力も求められます。

武内氏 やはり製造業におけるサプライチェーンマネジメントと同様の機能は必要ですね。システムやサービスのスペックを設計して、それを形成する上で必要なものを契約、調達して、設計したスペック通りサービスが提供されているか監視する。いわば、きちんと検品して品質が変化しないようコントロールする能力です。製品全体の理解、各構成部品で要求されるスペックの理解が不可欠です。

 また、ベンダーとのやりとりでは、例えばクラウドサービスのSLAが要求に合致しているか否かをチェックすることが不可欠です。今まではベンダーがライセンスを提供し、ユーザーはコンプライアンスを担保するという一方的なものでした。しかしクラウドサービスでは、コンプライアンスは双方向のものです。99.9%の可用性が99.7%だったらベンダーにペナルティーを迫るといった姿勢も必要になってきます。では誰がこうしたコントロールをするのか。それができるのは、私はIT部門しかないと思います。

受け身ではなく、ベンダーとともに価値を追求するスタンスが大切

内野 とはいえ、冒頭での話のように、現状のリソースではVMOを置けない組織も少なくないと思うのですが。

武内氏 人材の社内育成とアウトソーシングのバランスが重要になると思います。内製化できる部分は内製化し、できない部分は社外のリソースを活用する。現場に必要なケイパビリティを理解し、組織で人材を育てていく。経営層はそうした取り組みを理解し、後押しすることが大切です。

内野 社外リソースの活用という面で、ウチダスペクトラムと日本ベンダーマネジメント協会は、それぞれどのようなサポートができるのでしょうか。

岡田氏 VMOを組織、運営するに当たって、企業自身で人的リソースやノウハウを確保することが難しいケースは少なくありません。ウチダスペクトラムでは、VMOの取り組みを総合的にサポートしています。効率を上げるためにツールや自動化といった“手段”が必要な場合、それらの提供や導入支援も含めて、VMOの運営スキルを提供するというスタンスです。また、日本ベンダーマネジメント協会と連携して、ベンダーマネジャーの教育やコンサルティングの支援も行っています。これらはメニュー立てされたソリューションとして提供しています。

武内氏 日本ベンダーマネジメント協会は2019年7月に設立された新しい組織です。協会の活動としては、ベンダーマネジメントの重要性の啓蒙(けいもう)活動や情報交換、IT資産管理の実践方法の教育、スキルアップなどを提供していきます。ベンダーマネジメントによる契約のコントロールから始めて、最終的にエコシステムのサービスバリューチェーンまでをエンドトゥエンドでコントロールできるようにすることが重要だと考えています。

 特に重視しているのが、バリューチェーンを構成するパートナーエコシステムの醸成に当たり、企業とベンダーがWin-Winの関係になることです。ITサービスはニーズの変化に応じて継続的に改善することが求められます。これは1社の力だけでは実現できません。一方で、コンプライアンスもどちらかが一方的に守るものではなく、双方向で守るものになります。ベンダーに要求したり、ベンダーからの要求に応えたりする――DX実践のカギは、エコシステムの中で合理的かつ安全に価値を追求、提供することにあると考えます。「クラウドに障害が発生してシステムが止まりました、どうしましょう」という受け身のスタンスでは立ち行かないということです。

内野 つまり、システムやサービスという“製品”の品質を担保し、価値を届けるためには、丸投げしたり、ブラックボックスのままであったりしてはならないということですね。以前から指摘され続けてきたことではありますが、ベンダーマネジメントの意義と必要性をあらためて理解できたように感じます。

岡田氏 ウチダスペクトラムでも、VMOの運営やコンサルティングの支援を行う中で、先進的な事例も多数できつつあります。2019年10月8日に開催されるアイティメディア主催のセミナー「経営層が知っておくべき『DXの絶対要件』〜ベンダーマネジメントというIT部門に期待すべき役割」でも、そのノウハウや事例を詳しくご紹介する予定です。

 2019年10月8日、アイティメディア ITmediaエンタープライズ編集部主催/ウチダスペクトラム、日本ベンダーマネジメント協会の協賛により、セミナー「経営層が知っておくべき『DXの絶対要件』〜ベンダーマネジメントというIT部門に期待すべき役割」を開催します。日本たばこ産業株式会社 IT部 CIO グローバルオフィス担当部長 引地久之氏による、DX推進とITガバナンスをテーマとする基調講演をはじめ、本稿に登場した日本ベンダーマネジメント協会 武内烈氏と、ウチダスペクトラム 取締役 常務執行役員 岡田恭介氏も登壇。本稿で議論したテーマをさらに深堀りし、いまあるべきベンダーマネジメントの在り方、IT部門の役割を具体的に明確化します。ぜひご参加ください。


上記セミナーのレポート記事はこちら


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提供:ウチダスペクトラム株式会社
アイティメディア営業企画/制作:ITmedia エンタープライズ編集部/掲載内容有効期限:2019年10月8日