緊急IT投資動向で確認できたVUCAの現実化、新しいクラウドとオンプレの関係

緊急テレワーク対応で強制的に「VUCAの時代」らしさを体験した日本企業。2020年5月に実施した調査からは多くの企業がマインドの変化とともに次に向けた施策の検討に入った状況が明らかになった。彼らが次に着手するのは何か。

» 2020年06月30日 10時00分 公開
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 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の拡大を契機に、日本企業に本格的かつ大規模なテレワーク実施の動きが広がった。準備不足の中で見切り発車せざるを得ず、戸惑った企業もあっただろうが、これをきっかけに実際に体験したことでテレワークの効果を実感したのも事実だろう。今までにない大規模なテレワークに踏み切った結果、今後の働き方改革やデジタルトランスフォーメーションが一気に進むと期待する声もある。だが同時に、テレワークを支えるには従来のITインフラがもろく、管理が複雑過ぎることを課題として再認識することになった企業もあるようだ。

 前回の記事で紹介したように、今後本格的にITを活用したBCP(事業継続計画)対策を強化するには、老朽化したサーバなどが残る古いシステムのモダナイズをしっかり検討する必要がある、と多くの企業が考え出している状況だ(詳細は「IT予算見直し続出の裏で進む日本企業のDX 緊急アンケートで読む『潮目』」を参照いただきたい)。

 本稿はDell Technologies(デル)で「PowerEdge」を担当するインフラストラクチャ・ソリューションズ統括本部データセンターコンピューティング部門が連休明けの2020年5月7〜14日に実施した調査(注1)の結果を基に、その状況を見ていく。


注1:「エンタープライズIT投資動向調査」従業員数1000人以上の日本企業4383社を対象にしたアンケートによる(調査期間:2020年5月7〜14日、有効回答数:372)。



ITインフラの考え方が短期間で大きく変化

 テレワーク環境の整備を考える際、何らかのクラウドサービスの利用が前提になることがある。メールやチャット、オンライン会議ツールなどのコミュニケーションツールや人事や経理などの汎用(はんよう)化しやすいバックオフィス業務などは、運用の手間が掛からず、社外からでも利用しやすいクラウドサービスの利用が一般化しつつある。

 一方で企業固有のプロセスで構築されがちの基幹系システムはクラウドサービスへの移行が難しい。また、基幹系システムで利用されるデータベースを置き換える場合は単にデータを移行するだけでなくSQLクエリを含むデータベースアプリケーション全体の書き換えも必要なため、高度なスキルが求められ、作業時間や人的リソースがかさむことで二の足を踏むケースもあった。

 クラウドならサーバ構築などの手間を掛けずに利用でき、最新性能のシステム基盤を採用できる。柔軟にリソースを伸縮でき、不要なリソースを停止してコストを掛けないといった運用が可能になるなど、メリットは少なくない。サーバ機器などのメンテナンスや運用の手間、コストが掛からない。何よりもオンプレミスと大きく異なるのは必要な分だけの従量課金という点だ。将来に向けた余剰リソースを事前に調達して資産として保有する必要がない。

 こうしたクラウドのメリットは多くの企業が十分に把握していたことだろう。それでも移行に踏み切れない企業があったのは、移行費用や移行をきっかけとした障害発生のリスクが大きいなどの理由が考えられる。この状況に拍車を掛けたのが慢性的なIT人材不足だ。そもそも担当する人員を確保できなければ移行プロジェクトを立ち上げられない。

 クラウドにメリットがあることは理解しつつもオンプレミスのITインフラの利点を捨てがたい場合もある。自社独自のセキュリティ対策を講じられるし、自社が所有するサーバであれば自社の全てを自社の管理下における。サーバ設置場所やインフラレベルからの独自のセキュリティ対策、不正アクセスの監視体制を自力で整備して安心・安全な運用を実現できる。

ITインフラ 現状と2020年4月以降の計画案 ITインフラ 現状と2020年4月以降の計画案(出典:デル)《クリックで拡大》

 2019年末に実施した調査(注2)と今回とを俯瞰(ふかん)して自社システムをオンプレミス中心で考える企業の割合の推移を見てみると、2020年3月まで31.50%あったのに対して、4月以降では14.96%と大きく減ったことが今回の調査で明らかになった。今までも緩やかにではあるがオンプレミスに移行する傾向はあったと考えられるが、わずか1カ月ほどの短期間でここまで大きく変化したことはないだろう。

 今回の調査結果はあくまでも「今後の計画の意向」のため、このまま実際に実現するかは別問題だが、明らかに今までと異なるトレンドといえる。多くの企業で新規のクラウド利用を検討し始め、クラウド利用を拡張する計画検討をしている様子がうかがえる。


注2:「DX動向調査」(調査期間:2019年12月1〜31日、調査対象:従業員数1000人以上の企業、調査方法:オンラインアンケート、有効回答数:479件)。



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これからのITインフラを語る際、「クラウドファースト」や「クラウド・バイ・デフォルト」などのキーワードに注目が集まっています。DXを支えるITインフラについては明確な方針はありませんでした。「その都度最適な構成を検討している」といった動きや、「試行錯誤を繰り返し決定している」といった動きが主流でした。

「シャドーIT」の浸透がもたらした組織の風土改革

 従業員1000人を超える企業の約7割ではクラウドの利用経験があることも分かっている。だが、その実態は本社IT部門が主導して構築したクラウドがほとんどで、事業部やグループ会社が抱える細かなニーズとは合致していないこともあって、不満の声も聞こえていた。

 事業部門や個人が情報システム部門の把握しないITツールを利用するケースは「シャドーIT」と呼ばれる。一般的にシャドーITは、IT資産の保有や管理、システム構築が不要なクラウドサービスを利用するケースが多いという。2019年末の調査の時点で従業員1000人以上の大手企業の約半数はシャドーITを「禁止」していた(注3)。

 ここでシャドーITを明確に禁止する企業が多かったということは、既に組織内でシャドーITが使われていたり、情報システム部門が承認した既存のシステム以外のものを使いたいとの要望が上がったりしていたことから、問題に対処するためにルールを策定したと考えるのが妥当だろう。これに加えて同じ調査でシャドーITについて「黙認」「容認」「推奨」として何らかの利用を把握しているとした回答は35.3%だった。

 これらの状況から、多くの企業がクラウドの利便性や有用性を理解していたことで今回の緊急対策以降、クラウド利用が進みやすい風土があったと考えられる。

事業部でのシャドーITに対する認識 事業部でのシャドーITに対する認識(出典:デル)《クリックで拡大》


経営層がITに積極的に関与して進んだテレワーク対応がもたらした効果

 今回、テレワーク対応への動きが早かったのは、緊急対策の指示に経営層が積極的に関与したからだと言える。一部のITリテラシーの高い経営者を除き、従来の大手企業はプラン立案から運用までの全てをIT部門に実施させることが一般的だった。

 だが、今回の事態は今まで対応したことのないものであり、事業継続に直結した問題だっただけに、経営とITが一体となって対応する必要があった。

 IT部門の立場だけでは、セキュリティポリシーの観点からクラウド利用を許容する判断は容易ではなかったと思われるが、今回の調査では「経営層が入ってどんどんスピーディーにポリシーを変更していったため、クラウド利用の方向性が一気に強まった」とのコメントも寄せられた。

 最近は事業環境や社会情勢の変化が速く予測困難な状況を指して「VUCA」(Volatility〈変動〉、Uncertainty〈不確実〉、Complexity〈複雑〉、Ambiguity〈曖昧〉)の時代などと形容することもある。こうした急激な変化に対応するにはクラウドの俊敏性やそれを素早く活用する意思決定の速さが必要になる。今回のテレワーク対応の動きをきっかけに日本企業でもクラウドの活用が進みVUCAの時代に合ったIT基盤の強化が進む可能性がある。

IT緊急対策の指示レベル IT緊急対策の指示レベル(出典:デル)《クリックで拡大》

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市場環境や顧客ニーズは目まぐるしく変化していくので、将来のビジネスへ向けて正しい意思決定をするにはデータが重要になります。データが社内でどのように扱われているか、インサイトを探りました。

まず着手するなら? 「クラウドちょい足しソリューション」がカバーする7つのシナリオ

 ここで、今の時点で「クラウド活用を緊急で検討している企業」に目を向けると、今もオンプレミスが主流の環境を利用しており、どこからクラウドに切り替えるかで迷う状況にあると考えられる。

 そこでデルはオンプレミスで稼働するシステムにクラウドの利用を「ちょい足し」してバリューアップする方法(「クラウドちょい足しソリューション」)を提案する。クラウドちょい足しソリューションは今回のような予期できない事態に対応する際にも有効な、次の7つのシナリオをカバーする。

7つのクラウドちょい足しソリューションシナリオ 7つのクラウドちょい足しソリューションの7つのシナリオ(出典:デル)《クリックで拡大》

シナリオ1:データ保全

 「Azure Backup」を使い、従来のバックアップ/リカバリー作業を楽にする。「Windows Serverバックアップ」を拡張することで、クラウドからファイルやフォルダ単位のデータ復元ができるようになる。専用線接続サービス「ExpressRoute」経由で仮想プライベートクラウドへの接続も可能だ。ランサムウェア対策としても利用できる。データ復旧テストはクラウドで完結できる。

シナリオ2:災害対策

 「Azure Site Recovery」を使って災害対策に備える。「VMware ESXi」や「Hyper-V」を使った仮想サーバの他、物理サーバにも対応する。障害発生を想定したリカバリーテストが可能で、フェイルバックでサーバを待機系に切り替えた上で障害発生前の状態に戻すことも可能だ。

シナリオ3:サーバ追加

 「Azure Virtual Machine」「Azure Virtual Network」と ExpressRouteまたはVPNを使ってオンプレミスのシステムに仮想マシンリソースを追加する。ビジネスの緊急度に合わせて必要なスペックの仮想マシンをすぐに調達できる。追加したサーバには社内ネットワーク経由でもインターネット経由でも接続できる。ビジネスニーズに応じてリソースのオートスケールも可能で、不要になればいつでも削除できる。リソースを柔軟に追加して負荷をコントロールすることで安心・安定が求められるオンプレミス環境を守る。

シナリオ4:安心な監視

 「Azure Monitor」を利用したシステムのモニタリングを実施する。現在のオンプレミス環境の利用統計情報を収集、分析できるので、管理対象サーバの監視が不要になり、管理工数を下げられる。「Azureダッシュボード」もしくは「Power BI」「Grafana」などでデータセンターの状態のレポート化も可能だ。社内システムの安心・安全を考えた監視システムを構築できる。

シナリオ5:セキュリティ

 「Azure Security Center」を利用する。クラウドの強みを生かして急速に変化するワークロードに対応した最新のセキュリティ対策を実施できる。1つのビューでセキュリティアラートを確認でき、アラートの詳細情報も確認できる。クラウドだけではなく既存のオンプレミスも監視対象にできるため、情報システム部門の工数やセキュリティスキルの不足を補える。

シナリオ6:全社サーバ

 「Azure File Sync」を利用して、社内ファイルサーバをホットキャッシュで利用したり、全てのデータをクラウドで保持したりできるようにする。Azure Backupでデータ履歴も保持できる上、クラウドを使った階層化も可能になり、本来のファイルサーバの運用をシンプルなものに切り替えられる。

シナリオ7:Webサーバ

 「Azure Web Apps」を利用して、現在利用中のWebアプリを、あまり手を加えずにクラウドに移行する。必要に応じてAzureが提供するIaaSないしPaaSを選択できる。社外からのアクセス制御もしやすく、従来通りの3階層アーキテクチャで利用できるので移行に伴う混乱が生じにくい。

Azure Web Appsを使ったちょい足しソリューションの動作イメージ Azure Web Appsを使ったちょい足しソリューションの動作イメージ(出典:デル)《クリックで拡大》

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DXをうまく進められる企業には、企業の組織風土そのものに特徴があることが大規模調査で明らかになった。6つの特徴はデジタルとは違うところにあるようだ。

ITインフラが多様化するとデジタルトランスフォーメーションも進む?

 2019年の年末に実施した「DX動向調査」では、企業のDX進捗状況を以下の5段階に分けた。

(1)デジタルリーダー(Digital Leaders) デジタルトランスフォーメーションが自社DNAに組み込まれている企業。最もDXが進んでいる

(2)デジタル導入企業(Digital Adopters) 成熟したデジタルプラン、投資、イノベーションを確立している企業

(3)デジタル評価企業(Digital Evaluators) デジタルトランスフォーメーションを徐々に採り入れ、将来に向けたプランを策定している段階の企業

(4)デジタルフォロワー(Digital Followers) デジタルへの投資はほとんど実施しておらず、取りあえず将来に向けたプラン策定に手を着けた段階の企業

(5)デジタル後進企業(Digital Laggards) デジタルプランがなく、イニシアチブや投資も限定されている企業

 各段階の企業のDXを支えるITインフラ使用状況が、「ハイブリッド主体」「オンプレミスとパブリッククラウド」「オンプレミス主体」「クラウド主体」のいずれに該当するかを調査した。その結果、デジタル化を推進する企業(デジタル推進企業)である「デジタルリーダー」と「デジタル導入企業」では、ハイブリッドクラウド主体はそれぞれ37.5%と33.3%、オンプレミスとパブリッククラウドの併用はどちらも50.0%に上り、ハイブリッドクラウド利用やオンプレミスとパブリッククラウド利用が主流であった。デジタル推進企業の8割以上が、クラウドと自社設備のコンビネーションでITインフラを使う状況が明らかになった。

DXを支えるITインフラ使用状況 DXを支えるITインフラ使用状況(出典:デル)《クリックで拡大》

 各段階の比率をみると、中間ポジションの「デジタル評価企業」は、約半数の56.4%がハイブリッドクラウド、オンプレミスとパブリッククラウドを利用しており、まさにオンプレミスからクラウドへの移行の途中段階であることが分かる。

 一方、デジタル化が遅れている「デジタルフォロワー」と「デジタル後進企業」ではハイブリッドクラウド、オンプレミスとパブリッククラウドの利用は約4割であることが分かった。この結果から、何らかのクラウドの利用が増え、システムの多様性が高まるにつれて企業のDXが進む状況があると推察できる。

 今回の調査で、緊急のテレワーク対応をきっかけにITインフラ強化の一環としてクラウドの利用を進める企業が増加したことが明らかになった。今回の緊急テレワークで企業が体験した発見やトップダウンでの素早い意思決定と行動、IT施策への気付きなどは今後のDX推進に大いに役立つだろう。

 今回の調査結果を受けて、Dell Technologies(デル)データセンターコンピューティング部門は「新型コロナウイルス感染対策を受けて企業のテレワーク環境は劇的に進んだが、それを支えるITインフラ強化の必要性を感じ予算の使途の変更を検討している。その結果、デジタルトランスフォーメーションへのステップが上がる流れとなった」と分析している。今回のITインフラ見直しの検討は、高次元の働き方改革を目指すことにつながり、企業戦略上重要なデジタルトランスフォーメーションを大きく前進できる可能性がある。このタイミングをどのように捉えるかが今後のDX推進の鍵となるだろう。

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