企業はCIOをどう“調達”している? 技術者にビジネスセンスも求められる時代到来CIO Dive

エンジニアをはじめとする技術者の給与が上昇し、企業の中で重要性が増す中、技術リーダーを誰にするかは大きな賭けとなっている。外部から採用するか、あるいは社内からの“発掘”するか――。

» 2023年06月13日 11時30分 公開
[Matt AshareCIO Dive]

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CIO Dive

 多くの企業が成長のためにIT投資を増額する中、ITへの期待と技術リーダーの役割は以前にも増して大きくなっている。誰を技術リーダーにするかは大きな賭けだ。

技術者にも「ビジネスセンス」が求められる時代 

 多くの企業では、技術者のリーダーシップが途絶えることは許されない。以前よりもIT部門はビジネスの根幹に深く関わるようになっているため、IT関連のトラブルはビジネスの中断を招く危険性があるからだ。

 人材紹介会社Korn Ferryのクレイグ・スティーブンソン氏(シニアクライアントパートナー 北米CIO《最高情報責任者》兼CTO《最高技術責任者》のマネージングディレクター)は、「特定の業務領域が優秀な技術者の指揮下にない状態では、CEO(最高経営責任者)は安心して夜も眠れないだろう」と述べている。

 DX(デジタルトランスフォーメーション)は成長と収益のための新たな挑戦だ。CIOはビジネスの中心に近づきつつある。社内からの抜てきでも外部からの採用でも、技術分野をリードする適切な人材やチームを見つけることは企業にとって欠かせない。

 企業がCIOに求めるものが増えるにつれて、CIOに支払う報酬も増えている。

 技術系人材紹介会社のDiceの年次給与レポートによると、2022年のCIO、CTO、ITバイスプレジデントの給与は前年比で8.4%増えた(注1)。2021年以降、技術系リーダーに支払われる給与の前年比成長率は2倍になっている。

 「『市場を試す意思』のあるCIOは、総報酬が30%以上アップするオファーを受けることが多い」(スティーブンソン氏)

 CIOの役割はオペレーションを中心に責任を負うことから、ビジネス戦略や製品設計、顧客体験を包括する職務へと移行しており、ビジネスセンスが重視されている。こうした役割の変化が給与上昇の大きな要因となっている。今やCIOは経営幹部に仲間入りし、CEOに近い席で仕事をする人が増えている。

 もっとも、今でもCIOが従来の位置付けにとどまっている会社も存在している。技術系人材紹介会社Harvey Nash Groupのアリスター・ロビンソン氏(エグゼクティブサーチプレジデントである)は「CIOがCFO(最高財務責任者)に報告するような会社は古い慣習を捨て切れておらず、CIOをコストセンターと認識している」と話す。

 また、ロビンソン氏は「データサイエンスとサイバーセキュリティは、インフラと現代のビジネスシステムを含む(CIOの)職務に追加された」と指摘する。技術的な知識はCIOの基礎となるものだが、ほとんどの企業ではそれだけで十分ではない。

 「戦略的思考や強いリーダーシップがなければ、技術的な能力の高さにかかわらず、CIOが経営幹部に加わるのは難しいだろう。AI(人工知能)やデータサイエンスに関する天才的な能力を“秘伝のたれ”のようにありがたがる企業に勤めていれば、ビジネスセンスがなくても経営幹部になるチャンスはあるかもしれない。しかし、より幅広いスキルセットも必要だ」(ロビンソン氏)

同じ業界からの登用が多い理由は?

 技術リーダーの内部からの登用は、継続性を確保することができる。

 この半年間で、物流・トラック運送会社のXPO(注2)や食品業界大手のTyson Foods(注3)、世界的な消費財コングロマリットであるColgate-Palmoliveが(注4)、自社の従業員から技術リーダーを任命した。企業が外部からの採用を選択する場合は、同じ業界で探すのが一般的だ。

 CIOの人材紹介会社であるExecutive Search Partnersのゲイリー・エリクソン氏(創業者、経営パートナー)は「CIOに業界知識を必要としていない企業はない」と述べる。エリクソン氏によると、優秀な候補者がいても、業界知識が欠如していれば候補から外す理由となる。

 保険会社のPacific Lifeは、2023年1月にメアリー・ベス・エッカート氏を同社初の最高情報・デジタル責任者として雇い入れた(注5)。エッカート氏はそれまでUSAAで法人・保険サービス部門のシニアバイスプレジデント兼CIOを務めていた。Pacific Lifeは同氏を通じて保険業界の理解を深めるという道を選んだことになる。

 エリクソン氏は「製造業がヘルスケア業界出身者を採用するのと、製造業に詳しい同業界の出身者を採用するのと、どちらがより良い選択だろうか。企業が他の業界からCIOを採用する割合は低くなっている」と指摘する。

 意欲的なリーダーシップとビジネスセンスに加え、業界知識と技術力を兼ね備えたCIOにはより大きな責任への扉が開かれている。

 Korn Ferryのスティーブンソン氏は、経営トップに就任する条件として技術を挙げる。「CIOやCTOのトップクラスの人材に話を聞くと、社長やCOO(最高執行責任者)、P&L(損益計算書)の責任を負う製造担当者になることに前向きな人が多い。これらの経験が将来のリーダーシップのための“パイプライン”になる」

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