デジタルトランスフォーメーション(DX)が進み、あらゆる業種で従来の事業を変革する動きが本格化している。製造業では「インダストリー4.0」の実現に向けて、工場機械やIoT機器をインターネットに接続し、データを収集・活用して製造プロセスを可視化・効率化するスマートファクトリーの動きが見られる。
だが、製造業におけるデータ活用には「本社と現場のギャップ」「データ基盤の整備」といった難題が立ちはだかる。これを解消するにはどうすればいいか。
データ活用に関して深い知見を持つウイングアーク1stの田﨑早瀬氏(Data Empowerment事業部 ビジネスディベロップメント室)と、グーグル・クラウド・ジャパンの梅川真人氏(パートナーエンジニア)が、システムのサイロ化を乗り越えてデータドリブン経営を目指す企業が進むべき道を提言した。
──日本の製造業におけるデータ活用にはどのような課題があるのでしょうか。
梅川氏 まず収集・利用できる“データ量の増加”があります。製造現場から発生するデータは爆発的に増加すると同時に複雑化しています。例を挙げると、現場の機器に取り付けたセンサーは以前よりも速いサイクルでデータを取得しており、高精度の分析を実施するには膨大な量のデータが必要です。
これらのデータを取りまとめるシステムの課題も顕在化しています。サイロ化した複数の製造システムのデータを統合するのは容易ではなく、現場のOTシステムと本社のITシステムにあるデータの連携および統合も困難です。
日本の製造業のシステムは長年にわたって進化してきました。そのため、現在は老朽化や分断という課題に直面しています。これは日本の製造業が強かったことの裏返しとも言えますが、さまざまなシステムやソフトウェアが独立して稼働している他、現場では紙のような非構造化データで重要情報を大量に保管しています。
こうした現状もあり、工場内のデータを統合するだけでも大変な労力が見込まれます。さらに、グローバル規模でデータを統合して分析するとなると、非現実的な時間とコストがかかるでしょう。そのため、サイロ化を解消できたごく一部の企業だけがデータ活用に成功しているというのが当社の導入実績からも明らかになっています。
田﨑氏 同感です。ウイングアーク1stは製造業の現場担当者と話をする機会が多く、「データを活用したいが収集が課題」という声をよく耳にします。
ただ、製造業の現場がデータを全く取得していないかというとそうではありません。梅川さんもおっしゃる通り、製造装置の状態を紙に書いた記録データや表計算ソフトで管理しているデータなど、アナログで構造化されていないデータが散在しているのが実態です。データはあってもそれらを収集/活用できていないことが大きな課題です。
梅川氏 これまでの製造業は現場の個別最適のためにデータを活用してきました。そのため、部門を横断したデータ活用によってどのような価値が生まれるのかを実感できる人が少ないのかもしれません。現場レベルで部門横断のデータ活用を進めるのは難しいため、トップのリーダーシップが必要不可欠だと思います。
──製造業が本社(IT)と工場(OT)をつないだデータ活用を実現するには、どのようなデータ基盤が理想的なのでしょうか。
梅川氏 企業におけるデータ収集の視点で考えると、個別最適を目的にサイロ化されたシステムをつなぎ、単一のプラットフォームに統合することが理想の姿であることは間違いありません。
後ほど詳述しますが、「Google Cloud」はサイロ化を解決するために「スマート アナリティクス ソリューション」を提供しています。これはさまざまなデータをリアルタイムに収集し、スキルに依存せずデータ活用できるエンド・ツー・エンドのソリューションです。その中核を担う製品がクラウドデータウェアハウス(以下、DWH)の「Google BigQuery」(以下、BigQuery)です。
田﨑氏 理想のデータ環境とは、欲しい時に欲しいデータが手に入ることを指すと弊社は考えています。それを実現するためには収集したデータを人が活用できるように加工しなければいけませんが、ここに課題があります。というのも、データは最初の1回だけ整えて終わりではなく、「整え続ける」必要があるからです。データは少しでも放っておくとすぐに“汚れて”使えなくなります。常にデータを活用できる状態に保つことが重要で、ウイングアーク1stのクラウドデータマート製品「Dr.Sum」はそれを実現するために開発されました。
データをきれいに保ち続けるためには、本社のIT部門と設備システム(OT)のデータを使う工場などの現場部門の役割分担が重要です。互いがデータ基盤の管理業務を押し付け合うのではなく、それぞれの領域でやるべきことを認識し、データ活用のためにメンテナンスし続けること、すなわち「データガバナンス」の構築が理想のデータ基盤の条件です。
梅川氏 データガバナンスの重要性は日増しに高まっています。大規模な工場を持つ企業は全社的なデータ管理専門の組織を構築し、工場にヒアリングしながらデータ整備を進めています。こうした対応も正しい経営判断であり、企業としてデータ活用にどれだけの価値を見いだしているかの表れです。
データ基盤やデータの運用方法の正解は、進めてみなければ分からないこともあります。データ活用に成功している企業はスモールスタートで成果を出しつつ範囲を拡大しているケースが多いですね。
──BigQueryは製造業に求められるデータ基盤としてどのような価値を提供できるのでしょうか。
梅川氏 BigQueryの特徴はフルマネージドで提供されるスケールアウト可能なデータ基盤ということです。数百ペタバイトまでデータ量が拡大しても問題なく高速にデータを分析できる性能を備えています。
データ基盤を構築する際、これまでは最初に「どの程度の容量や処理能力が必要か」を想定し、予算を確保する必要がありました。クラウド型のDWHも同様で、あらかじめインスタンスを見積もってから導入するのが一般的でした。BigQueryではそうした準備が一切不要です。
グーグル・クラウド・ジャパンの調査では、データ分析の担当者はデータ基盤の運用保守に多くの時間を取られており、データの分析や洞察といった業務には全体のわずか15%の時間しか使えていないという結果が出ています。簡単にスケールアウトできるBigQueryであれば、担当者は基盤の運用保守を担う必要がなく、データ分析にリソースを集中できます。
冒頭で話したように、製造業はデータ収集に課題を抱えています。そこで、グーグル・クラウド・ジャパンは製造現場のデータ収集に特化したソリューション群「Manufacturing Data Engine」(MDE)を提供しています。BigQueryを中核に構成されたMDEは、生産ラインを流れる製品の外観検査データや業界標準のFA機器が出すデータの取得、データを保存するBigQueryなど7つのスタックで構成され、データのサイロ化を解消して可視化や分析に活用できるリアルタイムなデータ収集を実現します。
収集したデータをさまざまなスキルセットを持った人が利用する分析・可視化ツールに接続できるのもBigQueryの特徴です。BIツールだけでなく、表計算ソフトやデータサイエンティスト向けの専門ツールにも対応しています。
──Dr.Sumはどのような価値を提供するのでしょうか。
田﨑氏 Dr.Sumの特徴はノンプログラミングで構築/運用できる“現場寄り”のデータベースであることです。データベースと聞くとシステムエンジニアが運用するイメージがありますが、Dr.Sumはプログラミングの知識がなくても利用できます。
当社のBIツールである「MotionBoard」をはじめとする主要なBIツールとの連携も可能で、お客さまの使い慣れたBIツールですぐにデータ活用に取り組めます。
また、データベースエンジンとして高速集計に対応しているのも特徴です。特許技術のデータベース構造により、特別なチューニングなしで高速に集計します。ただ、Dr.Sumが得意とするのは数百億件までのデータで、BigQueryがカバーする数百ペタバイト級のデータには対応していません。
両ツールの使い分けとしては、全社のデータを全て集めた分析基盤としてBigQueryを、現場部門で狙いが定まっているデータを活用する基盤としてDr.Sumを利用する形が考えられます。Dr.Sumの利用料は月額固定制なので、使えば使うほどコスパが良くなります。現場での利用促進に向いているでしょう。
梅川氏 田﨑さんが言われた「現場でデータを整え続ける」基盤の条件に、「使い勝手の良さ」があります。特に、ビジネス部門にとって使いやすいツールであることは非常に重要なファクターです。その点、Dr.Sumは日本のビジネスを知り尽くしたウイングアーク1stのノウハウが凝縮されており、現場からの支持につながっています。
田﨑氏 UIについては開発者が直接顧客の現場にうかがい、改善を重ねています。実際に顧客の要望で追加された機能も多くあります。
──Dr.SumとBigQueryを組み合わせると、どのようなメリットがあるのでしょうか。
田﨑氏 互いの良さを生かすことで、企業のニーズにマッチしたデータ基盤を構築できます。製造業が生み出す膨大なデータに対し、ガバナンスとセキュリティを確保した運用を実現するには、堅牢(けんろう)なデータ基盤が必要です。その点、BigQueryは非常に信頼性が高いサービスです。
一方、現場のデータ活用では俊敏性も求められています。BigQueryに蓄積された大量のデータから現場で必要なデータをDr.Sumに連携し、活用していくのが有効だと考えています。
2つの製品を組み合わせることで、IT部門と現場の役割分担が明確になります。IT部門がBigQueryを用いて全社のデータガバナンスをつかさどり、現場はDr.Sumも用いてデータ活用に集中できます。その結果、データドリブン経営を実現できるでしょう。
実際にDr.SumとBigQueryを組み合わせたデータ基盤で成果を挙げている製造業の事例を紹介します。海外に多くの拠点を展開するある企業は、データドリブン経営を目指して本社のIT部門主導でデータ基盤を構築しました。しかし、現場部門がそのデータ基盤を見ても欲しいデータが蓄積されていませんでした。また、IT部門は現場の要望に合わせてデータをそろえようとしましたが、リクエストの増加に伴って対応が遅れていました。結果としてこの基盤はうまく機能しませんでした。
そこで同社は現場部門の分析基盤としてDr.Sumを導入し、BigQueryと組み合わせて全社共通データと現場固有データの連携や、それぞれの役割分担を明確にしました。全社共通データはBigQueryに、現場固有のデータはDr.Sumに格納することで、現場にとって価値のあるデータを提供することを可能にしました。
梅川氏 この企業はデータ量を気にせず保存できるBigQueryの堅牢性と、現場のビジネスに即応できるDr.Sumの俊敏性を生かして成功しました。多くの製造業にとって参考になる事例です。
田﨑氏 当社はこうしたノウハウを持っており、製造業のドメイン知識とデータ活用の知識を兼ね備えたプロフェッショナルな人材がコンサルティングから運用までサポートします。国産ベンダーならではのきめ細かな対応力で、これからも現場のデータ活用を支援していきます。
──お二人とも本日はありがとうございました。
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