SAPがLeanIXの買収でユーザーに新たなAIサービスを模索 一方で“過度な期待”には注意?

SAPはLeanIXを買収した。背景にはLeanIXが企業向けのアプリケーションポートフォリオをマッピングする生成AIサービスをリリースしたことがある。この買収により、ユーザーに新たなAIに関するメリットが提供されるかもしれない。

» 2023年10月11日 08時00分 公開
[Jim O'DonnellTechTarget]

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 SAPはエンタープライズアーキテクチャツールを提供するLeanIXの買収で、エンタープライズアーキテクチャ管理(EAM)市場に本腰を入れようとしている。

 ドイツに拠点を置くLeanIXは、顧客のITアプリケーションアーキテクチャを可視化し、未使用または陳腐化したアプリケーションを特定するSaaSプロバイダーだ。このサービスは、新しいアプリケーションの設計にも貢献する。

SAPユーザーには朗報となるか LeanIXの買収で期待できる新たな可能性

 LeanIXはこれまで、「Rise with SAP」や「Grow with SAP」を構成するプロセスマイニングベンダーであるSAP Signavioと提携していた。LeanIXの買収手続きは2023年内に完了する予定だが、買収条件は明らかにされていない。

 SAPはLeanIXを買収し、LeanIXのEAM技術をSAP Signavioに生かしたい考えだ。SAPのセバスティアン・シュタインホイザー氏(CES《最高戦略責任者》)はこれについて「ユーザーの『SAP S/4HANA(以下、S/4HANA)』への移行や顧客のビジネステクノロジー構想の迅速化を支援できる」と述べている。

 「当社が意図しているのは、デジタルトランスフォーメーション(DX)に取り組んでいる『Rise with SAP』や『Grow with SAP』の顧客に対するサポートの質を向上することだ。そのためにLeanIXを買収し、SAP Signavioによって他社にはないDXスイートや、AI(人工知能)を活用したプロセス最適化の基盤を構築する。そのような意図の下で、論理的な次の一歩を踏み出そうとしている」(シュタインホイザー氏)

 LeanIXとSAPは共通の顧客が500を超えており、Rise with SAPのプロジェクトで既にLeanIXを利用している顧客が多くいる。

 「顧客の多くは複雑なIT環境を抱え、それが業務プロセスの迅速な変革を困難にしている。裏を返せば、根底にあるIT環境を変えずにプロセスを変更することはほぼ不可能だ」(シュタインホイザー氏)

 シュタインホイザー氏によると、LeanIXの生成AI機能はこうした顧客がDXに向けてITのアーキテクチャやプロセスを発見、準備するのを支援する。LeanIXは2023年8月、ITアーキテクチャの自動化を目的に、新しい「LeanIX AI Assistant」を発表した。LeanIX AI AssistantはMicrosoftとの協力で、「Azure OpenAI Service」に構築された。

 「SAPはAI技術を、顧客が自己学習やセルフオートメーション、自己最適化のプロセスに着手するのを支援したいと考えている。そのために、われわれはSAP Signavioを使って計画を練っている。この計画にLeanIXを組み合わせることで、AIを活用したプロセスとIT最適化の総合的な基盤を生み出せる」(シュタインホイザー氏)

 LeanIXのアンドレ・クリスト氏(共同創業者 CEO《最高経営責任者》)は、「LeanIXのAIは、IT環境の複雑さを組織が明らかにするのに役立つ」と述べる。

 「ITアーキテクチャにおけるアプリケーションの数が分かっていても、そこに潜む複雑さを全て把握するにはより良いツールが必要だ。生成AIは、プロセス自動化に向けた次のステップであり、LeanIXは『どういった部分でAIを活用できるか』を顧客が理解するのを支援する」(クリスト氏)

 LeanIXのEAMソフトウェアは、2022年から「SAP Store」で「SAP Endorsed Apps」として提供されており、数年前から「SAP Signavio Process Manager」と統合されている。LeanIXにはSAPと共通ではない顧客も多いが、買収後もそうした顧客へのサポートは継続する。

 「SAPはこの数年間、オープンなエコシステムへと戦略を大幅に転換してきた」とシュタインホイザー氏は話す。

いい面ばかりではない? 何が起こるかはまだ誰にも分からない

 各社のアナリストらは、「今回の買収は手堅い動きに見えるが、詳細に関しては注意深く練り上げる必要がある」との見解を示している。

 SAPの顧客は現在、S/4HANAのアップグレードを計画する中で、システムのITランドスケープを理解するのが困難になっている。Constellation Researchのホルガー・ミュラー氏(バイスプレジデント 主席アナリスト)はこれについて「LeanIXがこの解決に寄与するかもしれない。しかし、SAP傘下の企業として検討すべき詳細や期待される自動化の水準が独立系ベンダーの場合よりかなり高くなるため、それが実際にどの程度うまくいくかは分からない」と指摘する。

 Technology Evaluation Centersのプレドラグ・ヤコヴリエヴィッチ氏(主席アナリスト)も「LeanIXはSAP Signavioと統合されるかもしれないが、それによってどういう形になるのか分からない。SAP Signavioはビジネスプロセスのマイニングツールで、LeanIXはポートフォリオおよび資産の管理ツールだ。統合の可能性があるのは分かるが、その先は未確定だ」と話す。

 一方、Diginomicaのジョン・リード氏(共同創業者)は「買収の真の目的はLeanIXの生成AI機能かもしれない」と言う。

 「LeanIXは、生成AI技術を追求している。問題は私たちが各分野における生成AIの今後とどれほど役に立つかについて、いまだに理解しようとしている状態にあることだ。とはいえ、生成AIに関するSAPの取り組みが強化されることに違いはない」(リード氏)

 生成AIにデータは欠かせない。リード氏は「LeanIXのデータをパートナーとして共有するより、“社内で”保有する方が好都合かもしれない」と述べる。

 「AI競争の中では、顧客データを多く管理できればできるほどうまくいく。だからこそ、重要なデータをやりとりする方法を見つけようとするのではなく、パートナーを買収した方がいいのかもしれない」(リード氏)

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