クラウド移行させたいERPベンダーに“ノー”と言え Rimini Streetが目指す「ベンダーの言いなりにならない世界」

クラウドERPへの移行をベンダーは進めているが、本当にそれは企業に必要だろうか。時間とコストをかけたオンプレシステムを捨ててよいのだろうか。

» 2023年10月20日 08時00分 公開
[David EssexTechTarget]

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 Rimini Streetは2005年の創業以来、SAP製品とOracle製品のソフトウェアサポートおよびマネージドサービスを提供するサードパーティープロバイダーとして、オンプレミスのERPシステムを使い続ける顧客を支援する。

 同社の取り組みは、SAPとOracleにとって頭痛の種だったといえる。なぜならメーカーより迅速かつ安くテクニカルサポートを提供しているからだ。

 企業は現行システムを使い続けることでクラウドERPへの移行を先送りし、高価なアップグレードを回避できる。一方で、クラウドERPのサブスクリプションは数年経てばオンプレミスのライセンスよりも収益性が高くなるとされ、SAPとOracleはクラウドERPへの移行を積極的に推進している。

 Oracleは競争上の脅威に対応するため、以前にRimini Streetを著作権侵害で訴えていた。訴訟は米最高裁判所まで進み、Oracleに有利な判決が2019年に下された。両社は現在も下級裁判所で係争中だ。

 ERPの重要性が増す中、サードパーティーサポートプロバイダーが果たす役割は何だろうか。また、現在のRimini Streetは何に取り組んでいるのか。そして、SAPの最近の戦略をどう見ているのか。Rimini Streetでシニアバイスプレジデント兼最高技術責任者を務めるエリック・ヘルマー氏に話を聞いた。

強制的なアップグレードに“ノー”と言う

 Rimini Streetは2023年7月、「SAP S/4HANA Cloud」のサポートを追加した。SAPは時間をかけて、オンプレミスの「ERP Central Component」(ECC)から最新のERPプラットフォームである「SAP S/4HANA」(以下、S/4HANA)への移行を推進してきたが、Rimini StreetによるS/4HANA Cloudのサポートが始まったことで、一部の企業は対応を変える可能性がある。

 SAPは2021年まで顧客がオンプレミスのS/4HANAを採用するか、最新のマルチテナントSaaSであるS/4HANA Cloudを採用するかは気にしていなかった。しかし同年、S/4HANA Cloudへの移行をスムーズにするためのサービス「Rise with SAP」を導入し、移行に必要なビジネスプロセスリエンジニアリングを支援するため、AccentureやDeloitte Touche Tohmatsu、Ernst & Young、Infosysといったシステムインテグレーションパートナーをそろえた。

 最終目的地はあくまでもユーザーにS/4HANA Cloudを採用させることだが、プライベートクラウドで稼働するオンプレミスのS/4HANAやSaaSアプリケーションを追加するための拡張機能など、Rise with SAPは中間的な措置も用意している。

 直近の財務諸表によると、SAPにとってRise with SAPは稼ぎ頭になりそうだ。しかし、手の込んだブランディングとマーケティングにもかかわらず、正当な理由でオンプレミスのECCに固執する顧客を納得させることはできない可能性がある。

 なぜなら、多くの顧客は何年も費やしてカスタマイズしたサービスを抱えているからだ。オンプレミスのS/4HANAに移行した少数派にとって、これは数百万ドル規模の大きなプロジェクトだったに違いない。

 ヘルマー氏は「TechTarget」のポッドキャストで「ベンダーが押し付ける新しいクラウド製品のために、オンプレミスのERPシステムを捨てる必要はない」と話している。

 「SAPやOracleのSaaS型クラウドサービスを見ても、オンプレミスにかかった何年もの時間と数百万ドルのコストを正当化できるようなものは多くない」(ヘルマー氏)

 ERPの顧客の中には「差分」の新機能を追加するため、システムを丸ごと捨てるという間違いを犯す者もいるとヘルマー氏は指摘する。

 同氏は「新しいバーションに希望する機能がある場合、顧客は通常何らかのカスタマイズや周縁部のイノベーション、機能追加によって、同じ機能かよく似た機能を手に入れられる」と語る。Rimini Streetはそのために、別の方法を紹介したり、選択肢をモデル化したりするロードマップサービスを提供している。

 SAPとパートナー企業が提供するRise with SAPはもちろん、新規顧客や中堅・中小企業向けのプログラム「Grow with SAP」と比べても、Rimini Streetのサービスが向いている企業は多い。

 「Rise with SAPのようなプログラムを利用したら、顧客は現在のシステムの使い方を機能ごとに比較し、Rise with SAPではどうなるかをマッピングしなければならない。重要なことは『同じものもあれば違うものもあり、Rise with SAPでは全く利用できないものもある』と理解することだ」(ヘルマー氏)

 強制的なアップグレードに反対するヘルマー氏の主張は利己的に聞こえるかもしれないが、これはRimini Streetが直近の決算で年間売上高4億1000万ドル(約612億円)を達成した論拠でもある。

 SAPは2023年7月、AI(人工知能)やサステナビリティ機能といった技術はクラウド製品のみで利用でき、オンプレミスのECCやS/4HANAでは利用できないと発表した。これは当然、ユーザーから物議を醸し、Rimini Streetの立場は強まった。

 S/4HANAを導入したドイツや英国、アイルランドのユーザーグループからは「高価なオンプレミスシステムに新機能を追加し続けると信じ込まされた」と不満が噴出している。

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