内製化のニーズに対し、必要なIT人材を確保する手段としてオフショア開発が再注目されている。失敗例も多い中、成功している企業はどのようにパートナーを選定し、活用しているのか。
企業がデジタルトランスフォーメーション(DX)を推進する上で、IT人材不足という壁が立ちはだかっている。特にアプリ開発者やセキュリティエンジニアが著しく 不足している。その解決策の一つに挙げられるのが、海外企業や現地法人などに業務を委託するオフショア開発だ。だがオフショアの選定先を誤ると、思ったようなパフォーマンスは見込めない可能性もある。
では企業がオフショア先を活用する際、どのようなポイントに注意すべきなのか。2019年からオフショア開発を実施しているトビラシステムズの松原治雄氏(取締役 技術部長)と藤井智康氏(執行役員 CTO《最高技術責任者》 上席技術部長)、太田 遼氏(執行役員 プロダクト開発室 室長)に聞いた。
――オフショア開発を実施したきっかけを教えてください。
松原氏: トビラシステムズは迷惑電話をブロックする「迷惑電話フィルタ」のサービスを開発および提供しています。これは警察や自治体などから提供された迷惑電話番号情報に基づいて独自データベースを構築し、振り込め詐欺などを自動的に判別して着信拒否します。その他、大手キャリアやメーカーをはじめ、固定電話や企業で導入されているIP電話向けのサービスも開発しています。
これらのサービスの需要は年々高まっており、ビジネスが堅調に拡大した結果、2019年には東証マザーズに上場しました。
※注: トビラシステムズは2023年10月20日から東証スタンダード市場に上場している
上場当時、サービスに対する追加機能の要求が多く寄せられましたが、迅速に対応するのは難しい状況でした。われわれはオープンソースソフトウェア(以下、OSS)を利用したスピーディーな開発を得意としているのですが、リソース不足のためOSSを使った開発経験が豊富なエンジニアを十分に確保できなかったからです。
そうした状況で人材を確保するにはどうすればよいかを考えたとき、当時の選択肢として最適だったのがオフショア開発でした。2019年の秋ごろに5社ほど選定し、ベトナムのハノイを訪問して候補企業を見学しました。その中でわれわれの要件に合っていたのが、オフショアと日本のエンジニアサポートチームの両輪でラボ型開発を行うコウェルだったのです。
――オフショア開発には「品質が不安」という懸念もあるようですが。
松原氏: そうした声は聞きますね。私は前職でもベトナムの企業にオフショア開発を委託したことがあります。当時は確かに開発者1人当たりの人件費は安価だったのですが、現地企業ということもあって意思疎通には苦労しました。その点、コウェルは日本に本社を構えており、要件定義などの上流工程は日本のエンジニアが担当してくれます。
コストだけを比較すればコウェルよりも安価な企業もありましたが、サポート体制やエンジニア一人一人の技術力を総合的に判断して同社に決めました。現在は「トビラフォン Cloud」と「トビラフォン Biz」という企業向けサービスをコウェルのラボチームと開発しています。
――実際にコウェルでラボ型開発を行っていかがでしたか。
藤井氏: 結論から言うとこちらの期待以上でした。コウェルを選択した理由の一つに「開発プロセスの中でサービスのセキュリティを重視している」ことがあります。静的アプリケーションセキュリティテスト(SAST)や動的アプリケーションセキュリティテスト(DAST)を標準的に利用している他、仕様書に書かれている部分だけでなく実際の利用環境に近い状態でソフトウェアやサービスの動作を確認し、脆弱(ぜいじゃく)性が生まれる可能性がある部分まで網羅的にチェックします。
開発を担当してもらっているサービスだけでなく、われわれがリリースしている既存サービスについても日本側のスペシャリストにセキュリティチェックを依頼したこともあります。単なるオフショア開発ではここまでやってもらうのは正直難しいですよね。
太田氏: 松原が話した通り、オフショア開発の懸念の一つにコミュニケーションの難しさがありますが、コウェルではそうした懸念は全くありませんでした。基本的に、やりとりは現地のラボチームと日本側との橋渡し役を務めるBSE(ブリッジシステムエンジニア)が担当するのですが、日本語でもコミュニケーションミスは発生しません。BSE以外にもベトナム人エンジニアの中には日本語を勉強している人もいて、そうしたメンバーとは日本語で積極的にコミュニケーションしています。
太田氏: ラボチームのメンバーとの関係性は「委託側・下請け側」ではなく「トビラシステムズの開発組織の一部がコウェル社内にある」という意識です。
多くのオフショア先は委託側を「顧客」だと捉えます。だからこそ仕様書に忠実に開発し、しっかりと稼働することに重点を置きます。裏を返せば顧客の仕様書に意見することは「NG」と言えます。しかしそうした関係性ではユーザーにとってより良いサービスや機能は生まれないでしょう。
藤井氏: コウェルは仕様書から要件定義までさかのぼって「この開発は何が目的なのか」「最終的にどのようなサービスを目指しているのか」を考え、設計開発だけでなくテスト設計やセキュリティチェックも実施してくれます。
過去には「この仕様では将来的に機能を追加する上で脆弱性が生まれるため、変更した方がよいです」と指摘を受けたこともあり、脆弱性を発生させないような提案もしてくれました。
こちらでは気が付かなかった点を、立場を超えて客観的な視点で指摘してもらえることは非常にありがたいことです。コウェルはプロダクトを一緒になって作っていくビジネスパートナーのような存在です。
――対等なパートナーという意識なのですね。
太田氏: トビラシステムズのサービス利用者にはITリテラシーが高くない方もおり、エンジニア側が予期しない使い方をすることもあります。そのため、あらゆる状況を想定して不具合の可能性をつぶさなければなりません。「仕様書通りの設計で問題なく稼働するからOK」では不十分なのです。
松原氏: 重要なのは、機能を実装して製品をリリースした後の運用フェーズで安定稼働することです。一定期間運用していると、データが蓄積されて動作が重くなったり、改修を重ねた結果不具合が生じたりします。コウェルのスタッフはそうした事態を開発段階から想定して作業してくれる、非常に心強い仲間ですね。
――今後もコウェルとの関係はさらに強化されそうですね。将来的に取り組んでみたいことはありますか。
太田氏: ラボチームのメンバーとゼロから新たなサービスを開発したいですね。先述したように、われわれは「開発を外注している」という意識はありません。コウェルに「この開発に必要なスキルセットを有したメンバーをお願いしたい」というリクエストはしますが、メンバーの選定は一任しています。
藤井氏: 以前に、技術的に実現が難しかった機能をコウェルのラボチームの1人が実現してくれたことがありました。音声のトーン(強弱)を時系列で可視化する機能です。これがあれば活発に話をしている部分がすぐに分かるので、効率的に再生できます。「こんな機能があればいいね」といったアイデア出しレベルだったにもかかわらず、すぐにサンプルと仕様書を作成してくれて、実現にこぎ着けました。この機能は顧客からの評判も上々です。
――最後に、現在オフショア開発を考えている担当者にアドバイスをお願いします。
松原氏: 「オフショア開発はコストメリットを第一にやるべきではない」と言いたいですね。「開発者1人当たりの“単価”が半分になれば2倍の人数で作業できるから迅速な開発ができる」と安易に考えるのは大間違いです。開発者の人数が多くても、うまくコントロールできなければプロジェクトは失敗に終わり、結果的に発注した企業の負担は大きくなります。自社に優秀なエンジニアを採用するように、優秀なエンジニアを確保するためのものとして考えるべきですね。
太田氏: こちらが「何を作りたいのか」という最終ゴールを理解して「一緒に作業する」というマインドを持っているパートナーを選ぶことが重要だと思います。「ワンチームとしてより良いサービスを作り上げていこう」という仲間意識を持てることが大切です。
藤井氏: 技術力はもちろん、人材の調達や育成の能力が高い企業を選ぶことです。新たなサービスを確実かつ迅速にリリースするには、その開発に最適なスキルセットを持った人材配置が不可欠です。オフショアを委託する企業がそうした要求に対応できるかどうかはしっかりと見極める必要があります。
もう一つはスタッフのモチベーションです。一緒に働くことでお互いを高め合えることが重要です。コウェルのエンジニアと一緒に働くことでトビラシステムズのエンジニアも刺激を受けていますし、自分の技術レベルが海外でどのくらいなのかも分かります。実際、そうして奮起したトビラシステムズのメンバーもいます。そうした関係性を構築できるかどうかは大きなポイントになると考えています。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
提供:株式会社コウェル
アイティメディア営業企画/制作:ITmedia エンタープライズ編集部/掲載内容有効期限:2023年11月17日