「日本のエンジニアは“死ぬ気”じゃない」 広がる海外人材の活用とその魅力

IT人材不足に悩む企業は多い。そんな中、海外人材を活用したオフショア開発に注目が集まっている。

» 2023年10月12日 08時00分 公開
[関谷祥平ITmedia]

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 今では多くの企業がDX(デジタルトランスフォーメーション)に取り組んでいる。一方で「社内にIT人材が十分におらず、取り組みがなかなか進まない」という課題を抱える企業も多い。「いないならば採用すればいいじゃないか」と考えたくなるが、需要に対して供給が追い付いていないのが現状だ。実際に、経済産業省が発表している参考資料「IT人材育成の状況等について」によれば、2030年までに40〜80万人のIT人材が不足するという(注1)。

 このような状況を打破するために、あらためて注目されているのが「オフショア開発」だ。従来は主にSIerが利用するケースが多かったが、企業が直接オフショア開発を進める事例が出てきた。海外のエンジニアと協力しながらシステムを作り上げるオフショア開発は、IT人材が不足している企業の助けになるはずだが、「日本人のように業務をこなしてくれるのか分からない」などの不安も多い。

 本稿では、オフショア開発がIT人材不足の解決策になるのかどうかを、オフショア開発のサービスを提供するコウェルの寺田航平氏(代表取締役会長 寺田倉庫代表取締役社長)と、オフショア開発を活用しているトビラシステムズの明田 篤氏(代表取締役社長)に話を聞いた。

深刻なIT人材不足に対応するために

――IT人材不足が叫ばれて久しいですが、この背景にはどのような原因があるのでしょうか。

寺田航平氏

寺田氏 DXに取り組む企業は増えており、この流れは今後も強くなると予測されます。DXに取り組む中でエンジニアは欠かせませんが、エンジニアと一言で言ってもスキルや知識は異なります。これら2つを高いレベルで持ち合わせた人材を確保することは簡単ではありません。それこそ、国の教育システムなどから変革を起こし、エンジニアを育成するような取り組みができなければ、需要と供給が合うことは難しいでしょう。

 ただ、教育システムの改革といった話は中長期的な取り組みです。現状、多くの企業が今後5〜10年を見据え、すぐにでもエンジニアが欲しいと思っています。そこへの対応として、エンジニアが多い海外の人材を活用することが効果的だと思っています。

――人材不足の解決策として、リスキリングも有効だとお考えでしょうか。

寺田氏 リスキリングは重要ですが、簡単ではありません。正直に言って、30歳を超えて、まさに“働き盛り”とされる人たちが、本業とは別に勉強に時間を当てられるかというとあまり現実的ではありません。現在の企業体制は労働基準法で定められた時間単位での働き方ですが、企業はもっとタスクベースの働き方の重要性を再認識し、その中で人材を育成することにフォーカスしなければならないと思います。タスクベースであれば、そのタスクを完遂するために勉強する人材も増えるでしょう。そうなれば、そこからエンジニアを含む他の業種へのキャリアチェンジも見えてくると思います。このような取り組みを企業はサポートしなければなりません。

明田 篤氏

明田氏 エンジニアに関するリスキリングとして、以前ベトナムに行った時に感じたことがあります。それは、現在の日本におけるエンジニアの給料で、設計通りに何かを作るだけでは給与とパフォーマンスが見合っていないということです。今後、希少性が高くなるエンジニアはコミュニケーションができて、何が必要なのかを理解し、それを形にできる人材です。海外のエンジニアを見ると、モチベーションがかなり高いのです。「必要なものを考えてそれを作り出す」という思いが強いんですね。いわば「課題解決型」のエンジニアと言えます。こういう世界の勢いを目にすると、ただ設計書のシステムを作るだけではすぐに仕事がなくなると思います。そういう面で、エンジニアにもリスキリングは重要になっています。

――課題解決型のエンジニアに求められるリスキリングとは何でしょうか。

明田氏 エンジニアに求められていることの一つに“エンジニアリングの経験値”があります。私自身、エンジニアとして仕事を始めたとき「日本一のエンジニアになる」と思っていましたが、その後に「絶対に勝てない」と感じる人に会いました。ただ、自分はエンジニアリングに課題解決能力を加えて、利益を生むことが得意だと気付きました。つまり、エンジニアリングだけでなくその他の能力を伸ばし、それらを組み合わせることが自分の強みになると思います。

 もちろん、ひたすらに「エンジニアとしての技術を伸ばす」という道もあります。大事なことは中途半端にならないことです。日本のエンジニアはどっちにもならず、何となく業務を行っているケースが多い印象です。これでは世界のエンジニアとの差が広がるばかりです。

気になるオフショア開発 メリットはどこに

――オフショア開発に対してはさまざまな意見がありますが、実際に使ってみていかがでしょうか。

寺田氏 さまざまな意見がありますが、企業が最も課題だと感じているものは「言語の違い」です。海外人材と日本企業の間にしっかりとコミュニケーションを担ってくれる人がいると、彼らは100%の能力を発揮しますが、コミュニケーションがおろそかになると彼らのアウトプットのパフォーマンスは下がります。その結果、オフショア開発に対するネガティブな意見が増えます。これまで日本企業はシステム開発などをSIerなどに丸投げしてきました。そのような気持ちでオフショア開発に取り組むと、そこにはギャップがあって当然です。

明田氏 IT企業がオフショアを使うのか、非IT企業がオフショアを使うのかでは大きな違いがあります。トビラシステムズはコウェルのオフショアサービスを活用しており、多くのベトナム人エンジニアと一緒に仕事をしています。私たちは自社にもエンジニアがいるので、ベトナム人エンジニアとさまざまな会話をし、彼らのコードをレビューするなど前向きなコミュニケーションができます。このような取り組みが良いサービスにつながると思います。一方で、エンジニアがいない企業がオフショアサービスを活用しても、フィードバックができず、思ったようなパフォーマンスが出ない可能性もあります。

 つまり「一定のエンジニアを自社で抱えている」というのがオフショア開発を利用する条件かもしれません。逆に言うと、自社でレビューできる環境があれば、オフショア開発を利用しない理由はありません。日本のエンジニアよりスキルが高いということはざらにありますから。しかも海外人材の多くはかなり高いモチベーションを持っています。エンジニアとして活躍すれば、現地の平均給与の何倍ももらえたりするわけですから。このような人材は日本のエンジニアよりも積極的に多くの案を出してくれる傾向にあります。まさに“死ぬ気”で取り組んでいるんですよ。

寺田氏 設計通りにシステムを作ることは多くのエンジニアができるでしょう。コウェルが抱えるエンジニアは“ただ作る”のではなく、“何が必要で何を解決するのか”を常に考えています。それを実現できるように、スキルを日々伸ばすように努力しています。

明田氏 自社のエンジニアは常に何か業務があり、新たなサービスに迅速に取り組むのが簡単ではありません。この点、コウェルのようなオフショアサービスであれば、まずはアイデアを海外のエンジニアに伝えて、すぐに取り組みに移れます。「小さく迅速に取り組める」というのは大きなメリットです。人材採用にはコストも時間もかかりますから、オフショアを活用すれば会社としても柔軟性高く実験的に多様なことに取り組めます。

――オフショア開発を検討している企業に何かメッセージをお願いします。

寺田氏 日系企業は海外人材の活用に消極的な傾向にあります。また「小さく始める」という取り組みも多くありません。一方で、本気でオフショア開発を活用し、大きな成果をあげている企業も多くあります。ただの外注ではなく、チームメンバーとしてコミュニケーションを深めることで本当の価値を得られると思います。

明田氏 コウェルのオフショア開発を利用するまでは、やはりオフショア開発に対する不安がありました。しかし、オフショアを活用すると、うまくいかない原因はコミュニケーションなど、発注側にもあると気付きました。「オフショアは良くない」と決めつけるのではなく、まずは活用してノウハウを蓄積し、今後のDXの取り組みを推進してみてはいかがでしょうか。

――ありがとうございました。

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