SAPが「SAP S/4HANA Cloud, private edition」の最新版や「RISE with SAP」の「プレミアムプラスパッケージ」などを発表した。
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SAPは「SAP S/4HANA Cloud」(以下、S/4HANA Cloud)への移行促進を目的としたサービス「SAP S/4HANA Cloud, private edition」の2023年版を提供開始した。最新版となる2023年版では「SAP ERP Central Component」(ECC)のレガシーシステムと同等の機能が提供される予定で、SAPは「オンプレミスを利用している顧客がクラウドに移行しやすくなった」としている。
SAPはまた、S/4HANA Cloudへのさらなる移行促進を目的に「RISE with SAP」に新サービス「プレミアムプラスパッケージ」を用意しており、これにはAI(人工知能)を使った機能やサステナビリティ関連機能、財務機能が含まれる。また、S/4HANA Cloudへの移行をよりスピーディーかつ低コストに実行できるよう支援するサービスもある。
SAP Cloud ERPのエリック・ヴァン・ロッサム氏(最高マーケティング・ソリューション責任者)は「S/4HANA Cloud, private editionの2023年版は『S/4HANA CloudはECCの顧客の要求に応えるだけの十分な機能を備えているのか』という疑問を解消すべく開発された。S/4HANA CloudはECCシステムが持つ多くの機能を提供していたが、今はあらゆる機能が一つの漏れもなく備わっている」(ロッサム氏)
ロッサム氏によれば、S/4HANA Cloud, private editionは2年のリリースサイクルに従う予定で、これに加えて年に2回、アップデートと新機能がリリースされる他、メンテナンス期間は5年間から7年間に延長される。
S/4HANA Cloud, private editionは「S/4HANA Cloud, public edition」と異なり、顧客は自社に合ったペースでクラウド移行が可能で、既存のシステムに頼り続けることもできる。移行プロセスは、ECCの使用期間やレガシーシステムのカスタマイズの程度によって複数のステップが必要な場合もある。
一方、S/4HANA Cloud, public editionは細かい設定なしでアップグレードが可能だが、最初から再実装する必要があるとロッサム氏は説明する。
「顧客に選択肢を提供している。即座にパブリッククラウドに移行することも可能だが、それでは大きな混乱を伴う。複数のステップを踏んで移行するという選択肢があっている企業もある」(ロッサム氏)
ロッサム氏によれば、RISE with SAPのプレミアムプラスパッケージにはAIを活用し、S/4HANA Cloudへの移行に選択肢と柔軟性をもたらすツールが含まれている。
このパッケージには「SAP Sustainability Control Tower」や「Sustainability Footprint Management」などのサステナビリティ関連アプリケーション、最近発表されたAIアシスタント「Joule」を通じた生成AI機能、業務計画の策定や財務予測の精度向上を通じて最高財務責任者(CFO)を支援する財務機能などが搭載されている。
SAPによれば「顧客がSAP S/4HANAの移行を計画し、要件に合わせて取り組みを推進するためのサービス」も新たにRISE with SAPに追加されるという。これにはテストの自動化を支援する技術やビジネスケース構築を支援する「Signavio Process Insights」などが含まれる。
さらにRISE with SAPでは無料サービス「SAP Customer Evolution」が新たに提供される予定だ。これにはS/4HANA Cloudへの移行におけるベストな方法を評価するための、SAPの専門家による顧客との1対1のセッションが含まれる。
「顧客と共に、システムの分析や準備状況のチェックを行い、移行によって何が得られるかというバリュードライバーを明確にする。その後、顧客には移行オファーとロードマップのドキュメントが提供される」(ロッサム氏)
IDCのミッキー・ノース・リッツァ氏(エンタープライズソフトウェア部門 グループバイスプレジデント)は「S/4HANA Cloud, private editionがECCと同等の機能を持つことで、顧客が移行に踏み切る可能性はある」と話す。ただし、これにはリアルタイムのデータインサイトや調達の一元管理、顧客管理、生産計画およびスケジューリングに用いることができる最新の機能に加え、これを顧客が必要だと感じることが不可欠だ。
SAP S/4HANA, private editionはECCと同等の機能に加えて、業界の要件に対応したビジネスプロセスを備えている。「自動化やプロセス最適化のためにAIを提供し、顧客が必要とするものを細かい設定なしで容易にシステムに組み込める統合機能を備えるだろう」とリッツァ氏は指摘する。
「企業がデジタル世界にさらに踏み出す必要性を認識するにつれて、このような変化が重要になっていく。SAP ECCを使用している企業にとって、このタイミングは非常に重要だ。SAP ECCのサポート終了日に向けて動くことができることに加え、デジタル世界で成功を収める後押しになるからだ。この10年間でDX(デジタルトランスフォーメーション)は加速しているが、レガシーシステムはまだ数多く残っており、これがデジタルでアジリティとレジリエンスを備えた組織への完全な移行を阻んでいる」(リッツァ氏)
リッツァ氏によれば、時代遅れのシステムを使い続けることは、業務の非効率性の増大やイノベーションを進める能力の低下につながる。
「ECCのサポート終了日が刻々と近づいており、企業は市場の最先端に立つためだけでなく、生き残りのためにもこの移行に積極的に取り組まなければならない」(リッツァ氏)
また、リッツァ氏は「RISE with SAPのプレミアムプラスパッケージにはサステナビリティ関連アプリケーションや財務ツールなど、人気の高いコンポーネントが含まれており、顧客はこのパッケージに投資するだろう」と考えている。
「ここで注目すべきなのは、企業は今後、必要な時に必要な業務を行うのに役立つパッケージを単一の有料サービスでまとめて入手できるようになったということだ」(リッツァ氏)
リッツァ氏は新たな移行サービスについて「複雑に絡み合ったレガシーシステムをときほぐし、クラウドへの移行準備を進める助けになる」と評価した。
「いまだに整理が済んでいない多くのシステムを抱えている企業は多い。こうした企業は新しいテクノロジーをできる限り活用したいと考えており、そのために社内のシステム全体のモダン化を志向している。SAPのクラウドアプリケーションサービスは、アプリケーションの運用からイノベーションの導入に至るまで、確実な結果を得ながらコストを固定化しようとする動きを後押しする可能性がある」(リッツァ氏)
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