Microsoftを襲う怒濤の訴訟 価格にどう影響する?

クラウド市場で繰り返される訴訟合戦は、サービスの価格に大きく影響するため、ユーザー企業も注視する必要がある。Googleは、Microsoftがクラウド市場での競争を不当に制限しているとし、欧州委員会に苦情を申し立てた。

» 2024年11月12日 08時00分 公開
[Matt AshareCIO Dive]
CIO Dive

 Googleは、Microsoftがクラウド市場での競争を不当に制限しているとし、欧州委員会に苦情を申し立てた。Googleは、MicrosoftがEU(欧州連合)におけるクラウド競争を阻害しているとして、欧州委員会に正式に提訴したと2024年9月25日の発表で明らかにした(注1)。

  Microsoftは、欧州委員会に2024年6月、Microsoftが「Microsoft Teams」を企業向け生産性スイート「Office 365」と「Microsoft 365」に統合したことがEUの独占禁止法に違反すると仮決定を下されたことで、Microsoft TeamsをMicrosoft 365から切り離した。さらに、2024年7月、欧州のクラウドサービス事業者の集まりであるCloud Infrastructure Service Providers(以下、CISPE)が起こした同様の訴訟で和解した経験もある。

 クラウド市場で繰り返される訴訟合戦は、サービスの価格に大きく影響するため、ユーザー企業も注視する必要がある。今回のGoogleの訴訟はどのような結末に落ち着きそうか。

クラウド市場で繰り返される訴訟合戦

 「Microsoftのライセンス条項は、技術的な障害がないにもかかわらず、EUの顧客がMicrosoftのワークロードから競合他社のクラウドに移行することを制限している。さらに、Microsoftも認めているように4倍もの値上げをしている」とGoogleは述べている。

 Microsoftは2024年7月、欧州のクラウドサービス事業者の集まりであるCISPEが起こした同様の訴訟で和解し、EUのクラウド関連の団体に一定の範囲で譲歩する姿勢を示した(注2)。この合意の一環として、CISPEはMicrosoftに対しソフトウェアライセンスの制限を緩和し、欧州のクラウドプロバイダーが「Microsoft Azure」のさまざまなサービスを他のクラウドで提供できるようにするために9カ月の猶予を与えた。

 Microsoftは、複数の地域で競争を阻害するビジネス慣行が行われているとの非難に対して反論を続けている。

 欧州委員会は2024年6月、MicrosoftがMicrosoft TeamsをOffice 365とMicrosoft 365に統合したことがEUの独占禁止法に違反するとの仮決定を下し、同社は2024年6月に規制上の後退を強いられた(注3)。

 世界のクラウド市場のおよそ4分の1を占めるMicrosoftは、2023年1月に欧州経済地域とスイスで、そして2023年4月には全世界でコラボレーションツール「Microsoft Teams」を企業向け生産性スイート「Microsoft 365」から切り離した(注4)。

 Microsoft、AWS(Amazon Web Services)に次ぐ第3位のハイパースケーラーであるGoogleは、クラウド競争の対立に精通している。GoogleのEUに対する苦情の概要は、2023年3月に開かれたクラウド市場競争に関する連邦取引委員会の調査への回答で明らかになった(注5)。

 Googleは2023年6月に米国連邦取引委員会(FTC)に対して次のように述べている(注6)。

 「MicrosoftやOracleといった一部のレガシーなオンプレミスソフトウェアプロバイダーが、生産性ソフトウェアやサーバのOS、アプリケーション、デスクトップのOSなど、クラウド以外の市場で確固たる地位を築いていることを利用し、自社のクラウド製品に不当な優位性を与え、顧客を自社のクラウドエコシステムに囲い込んでいる」(Google)

 同様の規制上の対立は英国でも起きている。Ofcomは2023年にパブリッククラウドインフラ市場を競争市場庁(CMA)に照会し、さらなる精査を求めた(注7)。CMAは2023年5月、マルチクラウド導入の障壁となる移行料金や割引、ソフトウェアライセンスの制限などについて懸念を示した(注8)。

 AWS、Microsoft、Googleは2024年初め、一部のワークロードの移行料金を撤廃した(注9)。

 Googleは2024年9月25日の発表でMicrosoftが2019年に行ったソフトウェアライセンス変更を強く批判した。

 「『Google Cloud』やAWSといったMicrosoft Azureに最も近い競合で『Windows Server』ソフトウェアを使用したい企業に極端な金銭的ペナルティーを課した。競合他社のクラウドプラットフォーム上でWindows Serverを稼働し続けることを選択した企業に対して、Microsoftはセキュリティパッチを制限したり、その他の相互運用性の障壁を作ったりするなど、ここ数年でさらなる障害を導入した」(Google)(注10)

 2024年7月の公聴会の記録によると、Microsoftは英国のCMAに対し、同社のソフトウェアライセンス料は「競合他社のコストを実質的に引き上げるものではない」と述べている。

 同社は、新たな申し立てがEU内で支持されるとは考えていないと述べた。

 「Googleは訴訟の継続を望んでいたが、欧州のクラウドプロバイダーが提起した同様の懸念について当社は友好的に和解した。欧州企業の説得に失敗したGoogleは、同様に欧州委員会の説得にも失敗するだろうと予想している」と、Microsoftの広報担当者は2024年9月25日のメールで述べた。

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