SAPがクラウドERPへの移行を推進 ECCユーザーに残された選択肢はCIO Dive

SAPのクラウド事業が好調だ。オンプレミスのサービスからの移行支援とクラウドの機能拡張を並行することでクラウドへの誘導を強化するなど、AI時代を見据えた戦略方針がうかがえる。

» 2024年11月20日 09時45分 公開
[Matt AshareCIO Dive]

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 SAPの幹部は2024年10月21日(現地時間、以下同)の第3四半期決算説明会で、クラウドベースのERP「SAP S/4HANA Cloud」に顧客を誘導するために「Joule」のコパイロットを活用していると述べた(注1)。

 同社のクリスチャン・クライン氏(CEO)は、変革の道を歩み始めているのは同社の顧客のわずか4分の1だと語った。「SAP ECC」ユーザーに残された選択肢を振り返ろう。

SAPはECCユーザーをどのようにクラウドへ導く?

 Jouleの導入から1年後、SAPの第3四半期売上高85億ユーロの半分以上をクラウド領域のサービスが占め、前年同期比9%増となった(注2)(注3)。

 クライン氏によると、SAP S/4HANA Cloudはセグメント売上高が前年同期比34%増の36億ユーロとなり、主な成長の原動力となったという。

 「Jouleに共同AIエージェントを搭載し、強化している。Jouleには500以上の機能を追加し、2024年末までにビジネスや分析トランザクションにおいて最も使用頻度の高い機能の80%をカバーする予定だ」(クライン氏)

 AI機能は、SAPが顧客にレガシーERPのクラウドへの移行を促すために展開した誘引の一つにすぎない。

 同社は2024年初めに「RISE with SAP」の移行インセンティブプログラムを刷新し、クラウド移行コストを半額にしたことに加え、顧客の混乱を抑えるための技術サポートを提供することを約束した(注4)。同時に、カスタマーサービス&デリバリーという取締役会部門を設置した(注5)。

 クライン氏は2024年10月21日に「クラウドに関するオペレーションを一元化したのは正しい判断だった。石油会社のExxon Mobilのように、パブリッククラウドへの移行を本格化させている顧客もいる」と語った。

 SAPは、SAP S/4HANA Cloudにデータ機能とナレッジグラフ機能を追加する一方で、オンプレミスの「SAP ERP Central Component」(ECC)の保守サポートが2027年に終了することを顧客に警告するなど、“アメとムチのアプローチ”で移行を促進している(注6)(注7)。

 Gartnerの調査によると、レガシーなECC製品(ECC EHP Packages 5以前)のメインストリームサポートは2025年12月31日に終了するが、より新しいバージョンを使用している顧客は追加料金を支払うことで2030年まで契約を延長できるという。

 SAPは2024年7月の決算説明会で、移行支援を必要とする顧客それぞれに専任のエンタープライズアーキテクトを付けることを約束し、技術サポートスタッフの採用に取り組んでいる(注8)。Basis Technologies Internationalの調査によると、数万社が2027年の期限に間に合うよう急ぐ中、人材不足がボトルネックになると予想されている(注9)。

 同社のデイビッド・リーズ氏(CTO《最高技術責任者》)は「CIO Dive」の取材に対し、「現在の顧客の半数以上が目標期限を過ぎてしまう可能性がある」と述べた。

 Gartnerによると、SAPのERP売上高に占めるRISE with SAP導入の割合は2022年以降減少が続き、2023年第2四半期には67%、2024年同時期には41%まで低下したという。

 SAPは顧客数を公表していないが、2024年10月21日に2024年のクラウド売上高見通しを上方修正した。同社が今後12カ月間に計上する見込みの契約金額は、前年同期比25%増の154億ユーロに達する。

 クライン氏は、ITリーダーにクラウドソリューションの売り込みに成功していることをアピールしたが、財務部門へのアプローチには改善の余地があると認めた。

 「マーケティング面では、われわれはCIO(最高情報責任者)に興味を持ってもらうために多くの施策を実施しているが、他の購買部門にも影響を拡大できると確信している。当社が財務計画と人事計画、サプライチェーン計画をどのように連携できるかを示せば、CFO(最高財務責任者)も満足するはずだ」(クライン氏)

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