逆にデータありすぎが問題 銀行業界の「宝の持ち腐れ」を防ぐにはCIO Dive

銀行業界では、顧客体験の投資における約3割をAIと機械学習に充てるなど、DX化が加速している。一方で、データ負荷とレガシー技術が障壁となり思うように進んでいないようだ。技術を刷新するための大規模な投資に迫られている。

» 2024年11月25日 10時00分 公開
[Matt AshareITmedia]

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 コンサルティング会社Publicis Sapientの第3回グローバル・バンキング・ベンチマーク調査によると、銀行はDX(デジタルトランスフォーメーション)の過程でデータの過剰負荷と技術的負債に悩まされているという(注1)。

銀行業界の「宝の持ち腐れ」を防ぐには

 同社は2024年2月19日〜4月14日にかけて、銀行のシニア幹部1000人を対象に調査を実施した。

 AI(人工知能)機能の拡張に意欲的であるにもかかわらず、回答者の約3分の1がモダナイゼーションの障壁として予算の制約を挙げている。また2023年には、銀行はレガシー技術や規制上の課題、業務上の柔軟性の欠如によってモダナイゼーションが停滞していることも判明した。

 「従来のAIでも生成AIでも、銀行の成功事例には適切なデータの存在という共通点がある。銀行の課題は顧客データが不足していることではない。データは豊富にあるがそのデータの大半は事業部門ごとに分断されていることに問題がある」(報告書)

 銀行のDXはデータの問題に集約される。銀行がスケーラブルな生成AIを活用したビジネスソリューションを求めていることは、膨大なビジネスデータと顧客データの活用に苦労していることの証明といえる。

 Publicis Sapientのデビッド・ドノバン氏(エグゼクティブバイスプレジデント 兼 北米金融サービス部門責任者)は、次のように述べる。

 「ここ数年でデータが急増している。データはスプレッドシートや数値だけでなく、ツイートや画像、動画やチャットなどさまざまだ。これらのインプットは全て、それを処理できるアーキテクチャに送り込まれなければならない」(ドノバン氏)

 Accentureのマイケル・アボット氏(シニアマネージングディレクター 兼 グローバルバンキングリード)は、2024年3月に開催された「CIO Dive」のライブバーチャルイベントで、非構造化データは今後10年間で業界を変革する可能性があると語った(注2)。

 組織がAIの目標を達成するためにモダナイゼーションを進める一方で、リーダーはそのプロセスを容易にするためにAI技術を利用するようになっている。アボット氏によると、メインフレームの「COBOL」アプリケーションをモダナイズするためにトレーニングされた生成AIコーディングツールは、銀行が技術的負債を解消するのに役立つという(注3)。

 Publicis Sapientによると、AIとそれを支えるデータは今後3年間の銀行業務のモダナイゼーションにとって最も重要な分野だ。しかし、この変革は企業の中核から多くの事業部門にまで深く及ぶ。

 「昔からある投資銀行には平均7万5000の個別データベースがある。これらのデータベースの多くには重複データや非効率的に分類されたデータがあり、最適な表現ではないかもしれないが分散している状態だ」(ドノバン氏)

 データ資産を統合プラットフォームにまとめるには、クラウドや他の技術に大規模な投資をする必要がある。

 調査会社Evident Insightsによると、AIの研究と導入におけるリーディングカンパニーJPMorgan Chaseは2024年に170億ドルの技術投資を実施する見込みであり、2023年の155億ドルから10%増加している(注4)(注5)。同行はAI戦略の一環として、2024年9月に14万人の従業員にAIアシスタント「LLM Suite」を提供した(注6)。

 「銀行は顧客に関する情報を他のどの企業よりも多く持っている。収入や住宅ローン、車の支払い、クレジットカードの利用状況など、その気になれば日々の居場所をほぼ把握できる」(ドノバン氏)

 Publicis Sapientによると、AIデータ利用を巡る規制環境が不安定なため一部の計画が停滞しているが、銀行幹部はデジタル顧客体験に対する投資の平均29%を機械学習とAIに充てているという(注7)。

 また、銀行はクラウドでAIを拡張するための基盤を整備し始めていることが報告書で明らかになった。回答者の5人中2人近くが、今後3年間でクラウドインフラへの投資を優先すると答えている。

 「レガシー技術は限界に来ている。既存の技術では、銀行が競争力を高めるためにアクセスを要する情報量を処理し切れないだろう」(ドノバン氏)

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