新リース会計、Excel管理だと「詰んでしまう」3つの理由

2024年9月に公表された新リース会計基準によってリース会計処理の前提が大きく変わります。今回は、システムの導入は必須なのか、Excelでの対応は難しいのかについて考察していきます。

» 2024年12月19日 07時00分 公開
[藤原誠明ワークスアプリケーションズ]

この記事は会員限定です。会員登録すると全てご覧いただけます。

2027年度に新リース会計基準導入へ システム検討の進め方

2024年の9月13日に「新リース会計基準」の確定版が発表されました。本連載では、確定した最新の基準にのっとって「何が変わるのか」の基礎から紹介した上で、Excelで対応できる/できない企業の特徴や、システム検討の考え方についても解説していきます。

 2024年9月9月に公表された新リース会計基準(以下、新リース基準)。原則全てのリース契約についてオンバランス計上が義務付けられ、リース会計処理の前提が大きく変わります。今回は経理部門の負担増が懸念される中、システムの導入は必須なのか、「Microsoft Excel」(以下、Excel)での対応は難しいのかについて考察していきます。

第一選択肢に挙がる「Excel」対応

 新リース会計基準では、今までは「支払」をするだけだった賃借不動産契約なども原則的にオンバランス化されるため、資産や債務の計上や償却計算、割引率に基づいた利息計算などが求められます。

 しかし、こうした計算自体は、Excelで実施することが難しいわけではありません。リース期間定額法に基づいた償却計算は単純な四則演算で求められますし、利息の計算もNPV関数(割引現在価値を求める専用関数)を使えば、そこまで難なく実現が可能です。

 実際に、当社でも新リース会計による「影響額」を算出する企業向けにExcelで計算ができるExcelツールを無償で提供しています。オンバランス件数が少なく、影響の少ない企業様であれば、「これで実務できる」というお声もいただくこともあるため、計算だけであればExcelでも十分かと思います。

新リース会計基準案対応 影響額試算ツールの画面(出典:ワークスアプリケーションズ)

Excelだと「詰んでしまう」3つの問題

 では、Excel管理だと何に困りやすいのか、なぜシステムを入れなければならないのか。理由は下記の3つに集約されると考えられます。

1.再見積の発生時の計算が複雑

 最も論点として挙がりやすいのは「再見積」の対応かと思います。「再見積」とは、リース期間やリース料が変化した場合に、それに合わせて負債と資産を見積もりなおすことを指します。不動産賃借契約であれば、「周辺の市況に合わせて賃料が改定になる」といったケースは容易に想像できますが、そうした際に対応が必要な処理です。

 Excelによるリース会計の計算は、単純な契約情報に応じた計算となりがちで、再見積のような「変化」「変更履歴」を加味するのは非常に難易度が上がります。その結果、変更時に「別の行として残高を計算しなおして追加」のような処理をせざるを得なくなり、ミスの可能性が非常に高くなります。

Excel再見積がうまくいかない理由(出典:ワークスアプリケーションズ)

2.注記の作成に手間がかかる

 また、「注記」の作成の難易度が高くなるのも重要なポイントです。IFRS16号の適用時には、下記のような広範な情報が注記として求められました。

注記内容は広範にわたる(出典:ワークスアプリケーションズ)

 単純な特定期間の情報集計であればExcelでも集計はできますが、例えば期間内の増減を出すような項目はExcel集計の難易度が高く、システムによる支援が求められやすいといえるでしょう。

3.会計と税務の差額管理が困難

 さらに、会計上と税務上の差額の管理もポイントになります。例えば、現行リース基準でも減損損失の計上対象となった場合は、「会計上は価値が減った前提で償却」「税務上はそのまま」といった形式で、異なる計算をし、差分を「別表十六(四)」にてまとめる必要がありました。

 これまではファイナンスリースが少なくExcelでなんとか別表をまとめられていた企業でも、不動産なども含めて多くの契約がオンバランス化されると、事務処理の手間が看過できなくなる可能性があります。

会計・税務の自動化は必須。業務フローにも配慮を

 以上のように、Excelで計算処理をする際は、見落としがちなポイントが多数発生し、経理実務上の処理が肥大化し「詰んでしまう」ことを確認してきました。

 このように、契約件数がある程度見込まれる企業においては、会計・税務処理で増えてくる負担を理解し、適切なシステムの導入を検討する必要があります。

 では、今回触れたような会計・税務処理が自動化できれば、本当に実務上の問題は全て解消されるのでしょうか。次回は、もう一つの見落としがちな点である「どのような業務フローによって情報を収集し、処理を進めるのが適切なのか」について、実例を交えながら説明いたします。

著者プロフィール詳細:藤原誠明(ERP事業本部 HUEエヴァンジェリスト)

2013年にワークスアプリケーションズに入社し、会計システム開発エンジニアとしてキャリアを開始。製品の企画・開発の傍ら、さまざまな業種や規模での導入・業務改善プロジェクトに参画。

23年1月に国産フラッグシップERP「HUE」の魅力やDXの必要性を広めていくエヴァンジェリストの第1号に認定される。現在は、年間350件以上のシステム検討商談に参加し、元エンジニアの視点を生かしつつシステム選定に関するコンサルティング・製品紹介・講演活動などを担う。


Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

アイティメディアからのお知らせ

注目のテーマ

あなたにおすすめの記事PR