「信用できなかった顧客」の中からAIで優良顧客を発見する方法CFO Dive

資金調達をはじめとした金融サービスは全ての企業に平等に与えられるとは言い難い。その背景には、社会的弱者を偏って判断する従来のリスク評価システムがある。不平等を解消し、バイアスのない金融アクセスを実現することはできるのか。

» 2025年01月15日 10時00分 公開
[Jin HanCFO Dive]

この記事は会員限定です。会員登録すると全てご覧いただけます。

CFO Dive

 各業界や規制当局は企業への公平な事業資金の調達を実現しようと取り組んできたが、女性やマイノリティー、移民が経営する企業においては依然として大きな格差が存在している。

 こうした格差の多くは、現行のリスク評価システムの構造的な偏りの結果である。評価するのが人間であろうとアルゴリズムであろうと(AI搭載か否かも関係なく)、信用力やリスクを評価する引受プロセスで生じる偏りによって格差がより悪化している。

 支援が十分行き届いていないコミュニティーの資金調達を拡大するためには単に法律に従うだけでは不十分であり、彼らが抱える構造的不利を解消する必要がある。

 AIや機械学習が引受プロセスを公平なものにすると主張する多くの意見は、希望的観測にすぎない。いかなるアルゴリズムによるプロセスも、分析するデータに偏りがある場合は公平を保つことはできず、それ以前の引受プロセスの方針を慎重に考慮することでしか変えられない。

大事なのはAIではなく

 金融包摂(経済活動に必要な金融サービスを全ての人々が平等に利用できるようにする取り組み)を体系的に実現する方法についての議論が今こそ必要とされている。AIや機械学習技術の進歩が不平等な資金調達に対する特効薬のように宣伝されることが多いが、必要なのは金融アクセスを向上させるための努力をこうした技術に任せ切りにするのではなく、実際にどのように活用して支援できるかという具体的な計画である。

 AI技術はデータを正確に取り込んで分析し、公正かつ適切に設計された引受方針の実施を自動化する優れたツールである。最近の技術革新による効率性の向上と、十分な金融サービスを受けられていないコミュニティーのメンバーに利益をもたらすリスクデータを人間の判断で慎重に選択するアプローチを組み合わせることが、成功への戦略であると信じている。ここからは、この問題をどのように考えているかを説明する。

従来の引受手法の限界

 主にFICOスコアやVantageスコア(信用情報の一種)に依存する従来のリスク評価モデルは、資金提供者にとって明確なメリットがある。信用履歴(クレジットヒストリー)は事業主の責任感や経営手腕を証明し、義務を果たそうとする姿勢を判断する指標となる。また、信用情報機関のデータを参照することで、引受担当者の審査時間が短縮し、引受プロセスの自動化が容易になる傾向がある。高い信用スコアは事業主の責任感を示す信頼できる指標であり、手間のかかる調査や面談の代わりにもなる。

 このような利点がある一方で、従来の引受モデルは「資金調達における不平等を助長している」として長い間批判されてきた。米連邦準備制度理事会(FRB)の中小企業信用調査(Small Business Credit Survey)のデータによると、2023年の時点で女性やマイノリティーが経営する企業は資金調達を拒否されたり、申請額よりも少額で承認されたりする傾向が高いという(注1)。

 この格差の理由は明白だ。女性やマイノリティー、あるいは近年移住してきた移民グループのメンバーは新規の起業家である傾向が高く、利益率の低い実店舗型の小売業を営んでいることが多い。また、近年の移民の中には負債を好まない人もおり、支払い履歴や信用履歴の構築をあまり重視しない場合もある。

 このような歴史的文化的要因から、信用スコアに基づく引受モデルは金融サービスへのアクセス拡大には適していない。事業の運営履歴をリスク引受の判断材料とすることは中立的な価値基準のように思えるが、事業主として新規参入した人々にとってその影響は大きい。

 明確な予測力を持ち、明らかな差別的意図を示さないシステムで問題に対処するのは容易ではない。しかし、業界が信用スコアや事業履歴への依存を減らす方法を見つけない限り、不公平な金融アクセスの問題を解決することは不可能だ。

 これは大きな課題だが、AIを活用した魔法のような解決策に頼るべきではない。この問題に取り組むには、より体系的で慎重なアプローチが必要だ。われわれはPipe Technologiesでそれが機能するのを見てきており、これからも金融アクセスの拡大に寄与できると信じている。

金融アクセスを向上させる新たな引受アプローチ

 明確な利点を考慮すると、ほとんどのFinTech企業や銀行にとって引受プロセスから従来の要素を完全に排除するのは得策ではなく、現実的でもない。引受担当者が家賃や公共料金、公共記録、銀行データ、教育水準などの代わりとなるデータを参考にする場合でも、こうした追加のデータセットが金融包摂を促進するかどうかは不透明だ。代わりとなるデータの中には、それ自体長期間にわたる測定が必要なものもあり、教育や社会的なつながりに基づくデータセットはこれまで不利な扱いを受けてきた特定のグループにとって逆効果になるかもしれない。

 Pipe Technologiesのアプローチは、資金調達の検討に必要な事業履歴の長さを段階的に短縮しながら、主に収益や経費、資金フローの傾向といった価値中立的な代替データに基づいて引受を行うというものだ。AIによる新しく画期的な引受プロセスに頼るのではなく、AIと機械学習技術を併用し、データの完全性と信頼性、引受モデルの予測精度の向上に注力してきた。

 そのモデルが信頼できるものになったことで、われわれは引受プロセスの主要な要素として信用スコアに依存しないようになった。実際、現在では全ての申請者を収益ベースの引受モデルで審査している。クレジットスコアを要素に加える場合も、資金提供対象が増えるならば導入するというスタンスだ。

 Pipeは独自の信用方針を自動化するツールにも大きく投資しており、リスク判断のほぼ100%を自動プロセスで運用している。手動審査は、自動のコンプライアンスや本人確認、詐欺防止システムで追加情報が必要と判断された場合に限られる。

 これらの取り組みにより、Pipeはわずか3カ月の事業履歴しかない企業にも有意義な資金を提供できるようになった。業界に特化したリスクモデルも構築し、従来の評価システムではリスクが高く見積もられがちな店舗でも融資を可能にしている。この成果により、特に女性やマイノリティー経営者が多い美容・サービス・小売・レストラン業界などの中小企業の資金ニーズを満たすことに成功している。

地道な作業が不可欠

 AIなどのアルゴリズム技術が注目を集める一方、それによってのみ達成できるわけではない金融包摂の機会を見逃すべきではない。現行の技術水準やデータの利用可能性を踏まえると、AIとその他のアルゴリズムは、慎重に設計されたアンダーライティングやコンプライアンス、詐欺防止プロセスを効率化するためのツールとして最適である。要するに、AIは人間による重要な思考の結果を処理するための手段にすぎない。

 人間の引受担当者が注力すべきは、予測力があり、かつ「アンダーサーブドコミュニティ」とも呼ばれる、十分に(金融)サービスを受けられない人々に利益をもたらすリスク要素を体系的に洗い出すことだ。技術が追い付いたとき、現在の制約下で金融包摂を実現することに最も真剣に取り組んだ企業こそが、これらの技術を最大限に活用できる存在になると確信している。

 本記事は、カリフォルニア州サンフランシスコに拠点を構えるFinTech企業であり、中小企業向け資金プラットフォームを提供するPipe Technologiesの最高法務責任者、ジン・ハン氏によるものである。

(注1)2024 Firms in Focus chartbooks on small business data(Fed Small Business)

© Industry Dive. All rights reserved.

アイティメディアからのお知らせ

注目のテーマ

あなたにおすすめの記事PR