生成AIブームからAIエージェントブームに 現状の課題を理解してタイミングを見定めよCFO Dive

IT分野における話題が生成AIからAIエージェントへと注目が移りつつある。ただしAIエージェントにはまだ課題が多く、投資にはタイミングの見定めが必要だ。

» 2025年03月14日 10時00分 公開
[Alexei AlexisCFO Dive]
CFO Dive

 IT分野における話題が、「ChatGPT」のような生成AIチャットbotから人間の監督をほとんど受けずにタスクを完了するように設計されたAIエージェントへと注目が移りつつある。

AIエージェントの大々的な導入は時期尚早なのか

 Salesforceのマーク・ベニオフ氏(CEO)のようなソフトウェア企業の幹部は、AIエージェントを考慮に入れながら2025年以降の大規模な計画を打ち出しており、業界問わず職場のさまざまな重要な業務をAIエージェントが担う未来を想像している(注1)。

 ベニオフ氏は、Salesforceは2025年末までに10億ものAIエージェントを展開することを目指していると2024年秋の発表で述べた(注2)。

 AIエージェントは大きな話題を呼んでいるが、一部のアナリストは企業がその価値を享受するまでにはまだ時間がかかると予想している。なぜそう考えているのだろうか。

 アナリストによると、AIエージェントはビジネスリーダーに新たな機会をもたらす一方で、AIエージェントによる機密データ漏えいのリスクや、ハルシネーションやエラーに基づいて動作するリスクなど、潜在的な課題も数多く抱えているという。少なくとも現時点では、特に財務部門のような機密性の高い部門での導入は避けられるだろう。

 Gartnerのマーク・マクドナルド氏(シニアディレクターアナリスト)はインタビューで「財務部門がAIエージェントに慣れるには時間がかかるだろう」と述べ、2025年中に財務チームが急速に導入する可能性は低いと付け加えた。

「導入するかどうか」よりも「いつ導入するか」が重要

 コンサルティング会社のForrester Researchは2024年末のレポートで、AIエージェントは2024年最も有望な新興技術ではあるものの、実際には本格的に活用される準備が整っておらず、高まる自動化の期待に応えられるようになるまであと2年はかかるとしている(注3)。

 ニューヨークを拠点とするAI企業Aquantのアサフ・メロクナ氏(共同設立者)によると、複数のAIエージェントが協調して動作するプロジェクト運営の複雑さを甘く見ている人もいるという。

 「実験のために構築するのと、エラーを回避できる堅牢な企業向けシステムを構築するのとでは雲泥の差がある」(メロクナ氏)

 AIエージェントは当面の課題があるにもかかわらず、ビジネスリーダーがこの技術に関わる議論を完全に聞き流すのは危険かもしれないとアナリストは指摘する。

 Deloitte Touche Tohmatsuが2025年1月第4週に発表した2024年末のAIレポートでは、「AIエージェントの課題は、『導入するかどうか』ではなく『いつ導入するか』にある(注4)。この技術はまだ初期段階にあるが、急速に進化しており今後数年でますます高機能になるだろう」と述べられている。

 同レポートでは企業はこの1年間で技術インフラや戦略といった分野に関してはより広く生成AIに備えてきたが、リスクやガバナンス、人材などの他の重要な課題においてほとんど進展がないように見えるとも指摘されている。

AIエージェントなら生成AIで成功できなかった企業にもチャンスが

 テック業界がAIエージェントを推進する背景には、ビジネス界で生成AIに対する失望が広がっていることがある。多くの経営幹部がコストや投資対効果という現実的な課題に取り組んでいるとアナリストは指摘する。

 IBMのブログに寄稿しているライターのコール・ストライカー氏は2024年10月の記事で、生成AIの恩恵を享受できず苦戦している企業に対して「AIエージェントは具体的なビジネス価値を見いだす鍵」になり得ると述べた(注5)。

 「現在、一握りの巨大なLLM(大規模言語モデル)に投じられている莫大な資金が実際のユースケースで回収されるかどうかはまだ分からない。しかし、AIエージェントはLLMを実用レベルに引き上げ、AIをさらに活用できる未来への道を開く将来性ある概念だ」(ストライカー氏)

 また、Deloitte Touche Tohmatsuの技術・メディア・通信センターが2024年11月に発表した記事では次のように述べられている。

 「チャットbotは人間と直感的に対話し、複雑な情報を要約し、コンテンツを生成できる(注6)。しかし、AIエージェントが持つ代理性や自律性には及ばない。AIエージェントは単に対話するだけではなく、より効果的に推論し、ユーザーに代わって行動できる」(Deloitte Touche Tohmatsu)

 ChatGPTの類似ツールである「Microsoft 365 Copilot」は、ビジネスプロフェッショナルの創造的なプロジェクトを急激に促進させるパーソナルアシスタントとして機能する。一方で、AIエージェントはそれを上回る「仮想プロジェクトマネジャー」として行動したり、財務諸表を照合して決算を完了させるような複雑な業務に取り組んだりできると、Microsoftのオンラインコンテンツを制作する特集ライターのスザンナ・レイ氏は2024年11月のブログ投稿で書いている(注7)。

 「AIエージェントは生成AIの力をさらに一歩進めてユーザーを支援するだけでなく、ユーザーと共に、あるいはユーザーの代理として機能する。質問に対する回答をするのはもちろん、より複雑な多段階の課題に至るまでさまざまな業務を実行できる」(レイ氏)

 SAPの解説によると、AIエージェントは行動方針を選択し、計画を設計し、関連データを収集し、各ステップを完了するために複数のソフトウェアツールを活用できるという(注8)。

 SAPのウォルター・サン氏(グローバルAI責任者)は、AIエージェントを使用する際には常に人間が介在すべきというポリシーを支持している。SAPのAIエージェントはユーザーに幾つかの案を提供し、アクションを取るかどうかを決定するのはユーザーだ。

 パーディ&アソシエイツのマーク・パーディ氏(マネージングディレクター)によれば、AIエージェントは複雑な操作を実行するよう設計されているが完璧ではなく、人間と同様にミスを犯す可能性があるという。

 「AIエージェントの可能性は大きく、人間の労働力にとってより高い生産性、イノベーション、知見をもたらす可能性がある。しかし、バイアスやミス、不適切な使用の可能性など、リスクも同様に大きい」

 デロイトの年末レポートでは、組織は「戦略的ロードマップ」の開発やリスク軽減計画の策定などを通じて、AIエージェントに備えるよう助言している。

AIの「定着力」

 KPMGの調査によれば、導入に関する潜在的な課題やリスクがあるにもかかわらず、AIはリーダー層にとって最優先事項であり続けている。

 調査に回答した企業幹部の大多数は、AIが1〜2年以内に彼らのビジネスの性質を根本的に変えると予想している。回答者のほぼ7割が、今後12カ月で生成AIに5000万ドルから2億5000万ドルを投資する計画だと述べており、これは2024年第1四半期の調査結果の45%から大幅に増加している。「この結果はこの技術の定着力を示している」とKPMG米国アドバイザリー部門のトッド・ローア(エコシステム責任者)は述べた。

 KPMGの調査では、2025年は企業全体でAI機能を発展させるチャンスの1年であり、組織の半数以上(51%)がAIエージェントの利用を検討しており、37%が試験導入している段階だ。

 しかし、企業と経営者はAIのリスクと利益を慎重に評価する必要がある。特にCFOとCIOは、会社が適切なプロジェクトに投資することが重要だとメロクナ氏は述べている。

 「競合他社に後れを取らないための投資が求められる一方で、本当に価値あるものに投資していることを慎重に確認する必要がある」(メロクナ氏)

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