業界特化型「インダストリアルAI」でオペレーションを変える IFSのCEOに狙いを聞いた

IFSが日本の特定産業向けERPで攻勢をかける。来日したIFSのCEOのマーク・モファット氏に、同社の強みと新たに打ち出した「インダストリアルAI」の狙いを聞いた。

» 2025年03月17日 07時00分 公開
[谷井将人ITmedia]

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 SAP ERP(ECC6.0)のサポート終了をきっかけに、ERPの在り方を見直す企業が増える中、IFSが日本市場で攻勢をかけている。市場拡大に向けて2024年はワークスアプリケーションとの戦略的業務提携を発表し、日本国内の人員も増強中だ。

 もともとアセットマネジメント、サービスマネジメント領域に強く、欧州を中心にシェアを持つが、日本では「知る人ぞ知る」存在だった。だが直近は、会計ソリューションにおいて国内ベンダーとの提携を進め、日本の商習慣に即した会計業務への対応を強化している。一方で、業界別の「インダストリアルAI」に力を入れ、日本国内の販売パートナーを拡大、大企業だけでなく中堅規模の企業向けのアプローチも強化している。

 2025年2月4日、来日したIFSのCEO(最高経営責任者)マーク・モファット氏に取材する機会を得た。同社は日本の産業向けにどんなアプローチをとるつもりだろうか。

IFS マーク・モファット氏(出典:筆者撮影)

 モファット氏は「日本市場は最も重要な市場の一つ。グローバルの成長率と比較して4倍の成長スピードを遂げている」と、最重要マーケットと定めた日本市場での成長を説明する。

6産業に特化「25もの産業分野をカバーしていては実現しない深さ」

――ERPベンダーの中には標準プロセスを軸に多様な業界に対応するアプローチもあるが、IFSは業界特化型をうたっている。その意図は。

モファット氏: 現在、IFSが特に注力するのは製造、航空・防衛、建設業界だ。次いで通信、エネルギー、社会インフラ業界も視野に入れる。

 ERP市場の競合は25もの産業を対象にしてホリゾンタルなプラットフォームを展開しているところもあるが、私たちはあえてそうしない。6つの産業に絞り込んでより深くニーズに応えるべく、バーチカルなソリューション提供を目指している。

 そうすることで顧客のビジネスに関わる各プロセスにおいて、より深くアプローチすることが可能で、オペレーション改善のようなミクロな課題から経営全体に関わるマクロな課題まで対応できる。これこそが差別化要因だ。

――2024年の大きなトピックは「インダストリーAI」の発表だった。

モファット氏: 注力する産業領域ごとに「最も難しい課題」を見いだし、ソリューションを見つけていくことを考えている。

 この2年ほどを費やして、私たちは何十ものお客さまと会話し、バリューチェーン全体の中でどこに一番課題があるのかをヒアリングして理解する取り組みを進めてきた。その問題に対して、AIで解決できる部分がどこにあるのか、またROIの観点からお客さまが利益を生み出すためにAIをどのように使うべきかを理解することに尽力した。

 AIサービスやデータをどうオーケストレーションするか、データを一つにまとめていくというようなレイヤーに取り組んで、そこにきちんと資金も時間も投資もしてきたおかげで、私たちは既にインダストリーAIを活用した事例が40件ほどある。さらに、今後300件ほど実装していく予定もある。

インダストリーAIで各産業のオペレーションを変える

――AIを打ち出すITソリューションベンダーは多い。インダストリーAIは何が強みになるか。

モファット氏: インダストリーAIにつながる取り組みとして、スケジュール最適化エンジンをベースとしたアプリケーションソリューションの領域では、実はかなり前からマーケットリーディング的な立場にある。そういう意味ではもともと強みがあった。

 インダストリーAIは、通信や社会インフラ事業者のようにオペレーションの比重が大きく、フィールドエンジニアが数千人単位で稼働しているような状況で、技術者スキルやロケーション、輸送ルートなどを組み合わせて最適化できる。これらを総合的に戦略に落とし込むことも可能だ。膨大なオペレーションデータを基に「生産計画などをどう最適化するか」「アセットのアップタイムを高めるにはどうすべきか」「メンテナンス計画はどうするか」といったことも含まれる。

 日本は重要な分岐点に差し掛かっていると感じる。特にこの2〜3年、多くの日本企業でDXが進み、さまざまな領域で変革が起きている。DXが企画フェーズから実行フェーズに移ったことで各企業がDX投資に積極的な中、DXを推進するに当たっての課題は、人材やスキルの不足、そしてグローバル競争におけるプレッシャーだ。IFSが提供するインダストリーAIはこうした企業の方向性に合致したものだと考えている。

 成熟した市場においては、新しい技術をどんどん取り込めることが強みとなる。企業としてもしっかり新しい技術に投資をして実績を作らなければならない。いままさに各企業のCIO(最高情報責任者)やCTO(最高技術責任者)はAIで何をどう変えていくかを示すことがミッションになっている。

――IFSが日本市場での成長を目指す上で、日本企業との関係をどのように築いていくか。

モファット氏: 日本の強みは技術力とイノベーション力だ。AI時代に差し掛かった今、世界を舞台に日本も改めて「テクノロジーのリーダーである」「イノベーションのリーダーである」ということを改めて証明するチャンスだ。私たちのパートナーであるNECも、顔認証や指紋認証、バイオメトリクス、衛星画像等の領域ではマーケットリーダーとしての強いポジションにある。IFSの活用を通じてこの技術力の魅力を最大化し、より広く世界に示せるのではないかと考えている。

 われわれIFSだけが日本市場で成長しようと考えているのではない。日本企業の成功を支えたという実績を増やすことで、日本企業の成長とともに私たちも成長していきたい。そのためにも注力する産業領域における知名度を高めていく。

IFSジャパンが考える今後の展望

 いままではIFSと言っても「知る人ぞ知る存在」だった。だが、その状況は変わりつつあるという。

IFSジャパン 大熊裕幸氏(出典:筆者撮影)

 日本法人であるIFSジャパンの代表取締役社長、大熊裕幸氏は「現在は企業の皆さんから問い合わせを受けられるようになってきた。われわれの顧客企業から紹介を受けて問い合わせていただいたケースもある。産業ごとの企業コミュニティーで話題に上り、顧客獲得につながるケースは国内外で増えている。例えば、石油会社最大手のトータルエネジーは全世界のアセットマネジメントをIFSに統一することが決定した」と説明する。

 「こうした成果はIFSが6つの産業に特化した深い業務理解に基づくソリューションを提供できていることの表れだ。新規で問い合わせがある企業からも『IFSらしい提案がほしい』と要望されるケースが増えた」(大熊氏)

 金融やリテール、公共領域向けのソリューション拡大を期待する声もあるというが、同社はあくまでも6つの産業領域の深掘りにこだわる。大熊氏は「まだまだこの6つの産業領域に集中して提供できることがたくさんある」と語っており、インダストリーAIを軸に、各領域の機能強化をさらに推進していく意向を示した。

※「実際、モファット氏は日本の顧客や従業員との接点を重視しており、毎月1週間は日本に滞在する生活を送る」の一文が事実と異なる内容だったため、2025年3月17日に記事から削除した。

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