SAPグローバルが経営陣を再編 AIとクラウドの領域における変革を反映か

SAPグローバルの経営陣が再編され、セバスチャン・シュタイナウザー氏が戦略を統括することとなり、フィリップ・ヘルツィグ氏がCTO(最高技術責任者)に就任した。

» 2025年03月28日 07時00分 公開
[Jim O'DonnellTechTarget]

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 長年在籍していた経営者の退任が相次いだ激動の1年を経て、SAPのグローバル本体は現在もリーダーシップの再編を進めている。アナリストは「今回の人事はSAPの内部体制を安定させ、クラウド領域における成長を強調するものであり、顧客との関係にはほとんど影響を与えない」と述べた。

続く、SAP経営陣の再編

 SAPは2025年1月28日(現地時間、以下同)の決算発表に合わせて、セバスチャン・シュタイナウザー氏を取締役会のメンバーに任命し、新設された「Strategy and Operations(戦略およびオペレーション)」部門の責任者に据えた。同社によると、この新しい部門は、SAPの内部、外部においてビジネスと技術を変革するための戦略を推進することに注力するという。

 シュタイナウザー氏は2020年にSAPに入社し、CEOであるクリスチャン・クライン氏のチーフオブスタッフを務めた後、CSO(最高戦略責任者)に就任した。SAPに入社する前は、コンサルティングサービスを提供するThe Boston Consulting Groupでコンサルタントおよびパートナーとして活躍していた。

 現在のCAIO(最高AI責任者)であるフィリップ・ヘルツィグ氏は、グローバルCTO(最高技術責任者)の役職も務めることになった。これは、2024年9月に退任したユルゲン・ミュラー氏の役職を引き継ぐものだ。

 さらに、ヤン・ギルク氏とエマニュエル・ラプトポウロス氏が共同でCRO(最高収益責任者)に就任する。現在、SAPのクラウドERPのプレジデント兼CPO(最高プロダクト責任者)を務めるギルク氏は米国地域を統括することになる。一方、現在、SAP EMEAのプレジデントであるラプトポウロス氏は、自らの管轄に中東およびアジア太平洋地域を加える。また、アダ・アグレイト氏がCMO(最高マーケティング責任者)に任命され、2024年8月にジュリア・ホワイト氏が退任して空席となっていたポストを引き継ぐことになった。

 SAPは、新たに任命されたCTOおよび共同CRO、CMOを含むシニアリーダーで構成される「extended board(拡大取締役会)」を設立する。同社によると、この組織はAIに焦点を当てた変革戦略を推進するための戦略的な助言機関として機能するという。

 またSAPは、同社の取締役であるトーマス・ザウレッシグ氏の任期を2028年まで延長した。同氏は2024年4月から顧客サービスおよびデリバリー部門を統括しており、それ以前はクラウド製品に関するエンジニアリング部門の責任者を務めていた。

 取締役会の人事に関する変更は、2025年2月1日から適用される。

継続的なリーダーシップの再編

 戦略アドバイザリーサービスを提供するConstellation Researchのホルガー・ミュラー氏(バイスプレジデント兼プリンシパルアナリスト)によると、シュタイナウザー氏を取締役に任命したことは、CEOであるクライン氏がSAPにおける戦略的な地位を確立しようとする動きの表れだという。

 「SAPにはこれまでCSOが存在しなかった。しかし、今後数年間で顧客基盤を『SAP S/4HANA Cloud』(以下、S/4HANA Cloud)へ移行させるためには、多くの戦略が必要になることは誰もが理解している」(ミュラー氏)

 ミュラー氏は、AIが社内戦略の実現を支援し、顧客に対してその価値を証明する上でのワイルドカード(予測不能な要素)になると指摘した。また、「フィリップ・ヘルツィグ氏がCTOに昇進した動きも、同様の流れに沿ったものだ」とも述べた。

 企業向けアプリケーションに関するコンサルティングサービスを提供するEnterprise Applications Consultingのジョシュア・グリーンバウム氏(プリンシパルアナリスト)によると、SAPは長年にわたって継続的な組織再編をしており、その複雑さと分かりにくさが批判されてきたという。しかし、同氏は「SAPが優れた業績を実現している限り、一定程度の批判を免れられるだろう」と付け加えた。

 グリーンバウム氏は「シュタイナウザー氏を取締役会に加えることは優れた判断であり、新設されたStrategy and Operations部門の責任者の地位を引き上げることは理にかなっている」と述べた。

 「戦略を独立した機能として確立することはビジネスにおいて重要な要素であり、複雑さが増し続ける環境の中でSAPが経営の課題に対処する上で役立つだろう」(グリーンバウム氏)

 グリーンバウム氏によると、戦略を担当するシュタイナウザー氏の役割は、SAPの複雑な組織と多岐にわたる事業を社内向けに整理し、合理化することだという。

 また、グリーンバウム氏は「シュタイナウザー氏のもう一つの使命はオペレーションの統括だ」と述べ、「大企業によるオペレーションの合理化は、一般的に良いことだ。SAPがここ数年取り組んできたように有機的な成長とM&Aによる成長の両方が進む場合、組織は拡大し、管理が難しくなることは避けられない」と付け加えた。

 グリーンバウム氏は、ギルク氏の共同CROへの昇進を含む今回の人事変更は、SAPが豊富な人材を内部で育成していることを示していると指摘した。また、長年にわたりS/4HANA Cloudの開発と販売に携わってきたギルク氏は、これまで以上に営業面での役割を担うことになるだろうとのことだ。

 テクノロジー情報などを扱うオンラインメディアであるDiginomicaのジョン・リード氏(共同設立者兼アナリスト)によると、SAPの顧客や業界関係者は、頻繁に実施されるリーダーシップの変更を重く捉えるべきではないという。

 「ある程度のところでは、人事の入れ替えそのものよりも、それがどのように成果につながるかが重要だ。SAPは組織を頻繁に再編しているように見えるが、それが最終的に顧客にどれほどの影響を与えるのかは分からない」(リード氏)

 リード氏によると、2024年の再編によりSAPの社内で混乱が生じたという。その結果、同社の世界的な“優良雇用主”としての地位が低下した。

 「SAPは依然としてトップクラスのグローバル企業だが、度重なる組織再編が社内に影響を及ぼしてきた。最終的にはその状況を乗り越え、従業員のスキルをいかに向上させ、優秀な人材をいかに維持するかを考える段階に進む必要がある」(リード氏)

CTOの先見性

 リード氏によると、今回の人事の幾つかは、今後の1年間でSAPが進む方向性を示しているという。ザウレッシグ氏の任期の延長は、同氏が顧客のクラウド移行を推進する上で重要な役割を果たすことを示しており、ヘルツィグ氏は、SAPにとって久しぶりに真の先見性を持つCTOとなる可能性がある。

 「ヘルツィグ氏がSAPのAI戦略を扱ってきた方法は印象的だ。SaaSやパブリッククラウドの提供において新しいAI機能を優先する方針などについて、顧客と透明性の高いコミュニケーションを図ってきた点は評価できる」(リード氏)

 リード氏は「新しいリーダーシップチームの評価はその業績によって決まる。一方、SAPの方向性に生じる大きな変化について、顧客が過度に懸念する必要はない」と述べた。

 「結局のところ、市場における大きな変化を認識し、それに対応するために最も強力な布陣を整えようとしているだけなのだ」(リード氏)

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