SAP Business Data CloudとDatabricksが統合 データの一元化でAIエージェントはどう変わる?

SAPはBusiness Data CloudとDatabricksの連携を発表し、顧客のAIプロジェクトをサポートすることを明らかにした。アナリストは、データ管理の分野における重要な進化だと述べている。

» 2025年04月30日 07時00分 公開
[Jim O'DonnellTechTarget]

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 「SAP Business Data Cloud」(以下、SAP BDC)は、データファブリックプラットフォームである「SAP Datasphere」の進化版のSaaSだ。SAPデータのガバナンスと構造を統一し、外部データに接続してAIアプリケーションのためのより包括的なデータを提供するよう設計された。

 SAP BDCの提供の背景には、ERPにおけるAIの実装と価値創出において直面する課題を解決しようとするSAPの意志がある。

SAP data cloudとDatabricksの統合の狙い

 SAPはデータ分析プラットフォームを提供するDatabricksとのパートナーシップを開始した。これらは、AI活用する企業におけるデータの準備を支援するためのものだ。

 SAP BDCにDatabricksのデータ管理技術が組み込まれ、外部データをプラットフォームに取り込むのに役立つ。この新しいサービスとパートナーシップは、2025年2月13日(現地時間)に開催されたバーチャルイベント「SAP Business Unleashed」で紹介された。

 SAPでプロダクトエンジニアリングの責任者を務めるムハンマド・アラム氏は、メディアブリーフィングで「SAP BDCとDatabricksとのパートナーシップは、AI技術の実装と価値創出における顧客の課題解決を目指す」と述べた。

 「このAIを活用するためには信頼性が高く高品質なデータセットが必要だが、それらを得るのは難しい。多くの企業が数百のPoCを実施してきたが本格的な稼働に至らず、移行しても価値を実現するために求められている導入には至らなかった」(アラム氏)

 SAP BDCには、「SAP S/4HANA」や「SAP Ariba」の財務および調達、サプライチェーンに関するデータ、「SAP SuccessFactors」の人材管理データをはじめするSAPのアプリケーション群にまたがる構築済みデータ製品が含まれている。

 アラム氏によると、これらのデータ製品には、顧客がすぐに使用できるよう、元のビジネスコンテキストとデータの意味を保持するSAPアプリケーションに基づくデータが含まれているという。

Databricksによる外部データの導入

 アラム氏によると、パートナーシップによりSAP BDCにDatabricksの機能を組み込むことができ、顧客はSAPのデータに外部データを組み合わせられるようになる。

 「SAPとDatabricksがあれば、最も重要なデータセットと世界をリードするデータプラットフォームの機能が手に入る」(アラム氏)

 Databricksでプロダクトマネジメント業務を担当するシャンク・ニヨギ氏(バイスプレジデント)によると、本件の目的は、SAPの顧客がデータサイエンスおよびAI、機械学習、SQLのために組み合わせたデータセットでアプリケーションを実行できるようにすることだという。

 「つまり、統合されたデータAIガバナンスのメリットを享受したり、『Mosaic AI』のスタックを使用してインテリジェントなアプリケーションを構築したり、Databricksのノートブックを使用して異なるソースのデータを組み合わせたり、派生的なデータ製品を作成したりできるということだ。Databricksを使用する顧客は、SAPのデータにより容易にアクセスできるようになり、それを自社のレイクハウスデータと組み合わせて分析し、データ製品やAIアプリケーションを構築できるようになる」(ニヨギ氏)

 アラム氏によると、SAPはクレーム処理および紛争解決の迅速化、顧客による問い合わせへの応答など、SAPのビジネスアプリケーション全体のタスクに対応する生成AIエージェント「Joule」を発表した。

 さらにSAPは、顧客がJouleを拡張し、独自のエージェントを構築できるエージェントビルダー機能を試験運用している。エージェントビルダーは、SAP Datasphereのデータ管理機能である「SAP Knowledge Graph」を使用し、システム間の関係やコンテキストをマッピングし、関連付けるものだ。

SAPの重要な開発

 テクノロジーに関するリサーチサービスを提供するConstellation Researchのホルガー・ミュラー氏(バイスプレジデント兼プリンシパルアナリスト)は「SAPの過去20年間において、SAP BDCはプラットフォームにおける最も重要な革新だ」と述べた。

 「『SAP HANA』(以下、HANA)のインメモリデータベースは重要な革新と見なされていたが、HANAはSAPのERPにおける基盤データベースの代替として開発されたものであり、21世紀のビジネスアプリケーションを構築するSAPの能力を拡張するものではなかった」(ミュラー氏)

 ミュラー氏は、さらに次のように述べる。

 「SAP BDCにより、SAPはプラットフォームのためにパートナーシップを再び締結する。今回の相手はDatabricksだ。これはSAPの顧客にも大きな影響がある。なぜなら、これにより顧客は非構造化データの課題に対処できるためだ」

 ミュラー氏によると、SAP BDCは、SAPが次世代型のERPを構築するためのデータ基盤を作成し、SAPの顧客に対して、クラウド移行を進めるインセンティブと理由を提供する可能性があるという。

 「SAP BDCは、長らく待ち望まれていた必要性の高いSAPのデータ拡張だ。これにより、顧客は自らデータレイクハウスを構築する代わりに、SAPが提供するオプションを利用できるようになる。顧客に選択肢がある点が優れている」(ミュラー氏)

 エンタープライズ業界に対する分析サービスを提供するDiginomicaのジョン・リード氏(共同創設者)によると、SAP BDCは顧客に対してその価値を示す必要があるが、効果的な企業向けAIには一貫したデータプラットフォームが必要であるというSAPの主張は基本的に正しいという。

 「AIがデータを収集して役割に基づいたパラメータを出力するだけでは不十分だ。全ての情報が含まれており、統一されたデータプラットフォームを持っているほど、より優れた結果を得られる。SAPは、AI用のデータを通じて顧客により適切にサービスを提供する方法を進化させている。これは、SAPが単なるアプリケーションプロバイダーであるだけでなく、顧客の負担を軽減し、自身を差別化するデータプロバイダーとして自己を位置付けることを意味している」(リード氏)

 またリード氏は、次のようにも述べた。

 「なぜCohereのようなサードパーティーの大規模言語モデル(LLM)プロバイダーがSAPの顧客基盤に参入し、LLMを設置し、全てのデータの供給を開始できないのだろうか。これこそSAPが直面している課題だ」

 それでも、新サービスを導入するかどうかの最終決定権は顧客にあり、結果の正確さや全体的な価値、コストなど、全てを考慮するだろう、とリード氏は述べた。

 「SAPが顧客のためにこれらのデータに関する課題を引き受けようとしているのは良いことだが、どれだけうまくいくかはまだ分からない」(リード氏)

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