クラウド予算のオーバーは収益アップの条件? 企業を悩ます“クラウドのジレンマ”CIO Dive

企業はクラウドに想定以上のコストをかけているが、それでも最終的なコストの削減にはつながっているという。企業を悩ます“クラウドのジレンマ”とは。

» 2025年05月09日 07時00分 公開
[Matt AshareCIO Dive]

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 Azulが発表した調査によると、クラウドの利用料が増加しているにもかかわらず、顧客のクラウドに対する評価は低下していない。この調査は、Javaプラットフォームを提供するAzulが、調査企業のCensuswideに委託して、CIO(最高情報責任者)300人を対象に実施した(注1)。

 同調査によると、回答者の8割以上が「クラウドインフラストラクチャとアプリケーションへの支出が、予想を平均30%上回った」とコストの課題を示した。予算内に収まったと回答した企業は、わずか2%にとどまった。

 予算を超過しているにもかかわらず、クラウドが評価されている理由とは。

クラウド支出が増加する理由はどこにあるのか

 クラウドへの支出が増加しているにもかかわらず、技術部門のリーダーたちはクラウド技術に依然として価値を見いだしている。回答者の5人に4人はクラウドに関連するコストの削減を報告し、半数以上は「CEOは現在の支出レベルを維持しており、さらなる支出の増加も容認するだろう」と答えた。

 企業はクラウド支出の無駄をなくしたいと考えている。しかし、大半の企業は、ハイパースケーラーによるインフラおよびプラットフォーム、ソフトウェアサービスへの投資拡大を受け入れている。効率向上や将来的なコスト削減の可能性が、予算に対する影響を正当化しているためだ。

 クラウドソリューションを提供するFlexeraの調査によると、2023年における企業のクラウドに関する最大の関心事はコスト管理であり(注2)(注3)、セキュリティを上回った。そして、2025年もコスト管理が最優先事項となっている。クラウド予算の拡大に伴い、支出への監視も厳しくなり、一部のワークロードをオンプレミスに戻す動きさえ見られている。

 Azulのスコット・セラーズ氏(CEO)は「企業は当初の計画以上にクラウドを活用している。その理由は俊敏性や柔軟性、売上向上といったメリットがあるからだ」と述べた。Azulの調査では、回答者のほぼ全員である98%が「クラウドへの支出が収益の増加につながっている」と自信を示したものの、それを裏付けるデータを持っていると答えたのは71%にとどまった。

 企業は既存のクラウド環境をより適切に管理し、支出と価値の関連性を把握するために、FinOps(フィナンシャルオペレーションズ)やその他のコスト管理手法を活用している。一方で、同時に新たなワークロードを立ち上げたり、追加のアプリケーションを移行したりすることで、クラウドの利用量をさらに増やしている。

 多くの企業は、クラウドの導入を円滑にし、推進するための手段としてFinOpsを捉えている。

 FlexeraでクラウドおよびFinOpsに関連する業務を担当するシニアバイスプレジデントであり、FinOps Foundationの理事でもあるジェイ・リトキー氏は次のように語った(注4)。

 「FinOpsの役割は単にコストを削減することではない。正しく運用できていれば、クラウド支出が増えることも十分あり得る。なぜなら、その支出が生産的であることを証明できるためだ」

 セラーズ氏は「このような消費の増加は『ジェボンズのパラドックス』と一致している」と述べた。これは、2025年の初めにMicrosoftのサティア・ナデラ氏(CEO)が生成AIの文脈で言及した経済的な概念である。

 ナデラ氏は、2025年1月XのXへの投稿で「AIが効率的で利用しやすいものになるにつれて、利用が急増し、私たちが満足に手に入れることのできない存在となるだろう」と述べた(注5)。

 セラーズ氏によると、クラウドにも同じ原則が当てはまるという。

 「クラウドがコスト効率に優れているという事実が利用を促進し、結果としてさらに多くの利用を生み出し、最終的には予算超過を引き起こしているのだ」(セラーズ氏)

 企業が承認できる追加支出には限界がある。回答者の5人中2人以上は「自社のCEOがクラウド予算の増加に懸念を示している」と認めており、27%は「クラウドの利用拡大には、市場環境が良好であることを条件とする取締役会の承認が必要だ」と答えている。

 セラーズ氏は、コストと価値のバランスを取る難しさをよく理解している。

 「CIOたちと同様に、私たちも“モグラたたき”のようなことをやっている。クラウドの支出が急に増えると、エンジニアリングやオペレーションの責任者が対応に追われ、何が起きたのかを突き止めて、支出を抑え込もうとするのだ」

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