CelonisはERPのデータに対するアクセスを巡ってSAPを提訴した。本訴訟は、来たるべきデータ戦争の分野における重要な意味を持つだろう。
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プロセスマイニングの先駆者であるCelonisがSAPを提訴している。2025年3月13日(現地時間、以下同)にカリフォルニア州北部地区の連邦地方裁判所に提出された61ページにわたる訴状の中で、Celonisは、「SAPがERP内のデータに対するサードパーティーベンダーのアクセスを排除し、反競争的な行為に及んでいる」と主張した。
CelonisにとってSAPのデータへのアクセスは極めて重要だ。なぜならば、同社のプロセスマイニングアプリケーションは、企業のIT環境や業務プロセスを分析し、実際にそれらのプロセスがどのように機能しているかを可視化するためだ。顧客はこれらの情報を基にプロセスのどこにギャップや不具合、非効率があるのかを把握し、それを修正および改善している。
SAPとCelonisは、技術およびビジネスの領域で長年にわたってパートナーシップを構築してきた。Celonisは、ミュンヘン工科大学出身のアレクサンダー・リンケ氏およびバスティアン・ノミナッハー氏、マルティン・クレンク氏によって2011年に設立された。2012年にCelonisは、技術に特化したスタートアップ企業に対するSAPの投資プログラム「SAP Startup Focus」に参加した。
「ERP Central Component」(ECC)や「SAP S/4HANA」(以下、S/4HANA)をはじめとするSAPのERPは、Celonisが最初に対応を進めたシステムだったが、その後、CelonisはOracleやMicrosoft、Salesforceなどの主要なERPおよびCRMにもプロセスマイニングアプリケーションを拡大していった。プロセスマイニングの分野におけるCelonisの競合他社には、ベルリンに拠点を置くスタートアップ企業のSignavioがある。同社は、SAPの共同創業者であるハッソ・プラットナー氏が設立したドイツ・ポツダムの情報科学系研究大学のハッソ・プラットナー研究所から生まれた企業だ。
Celonisの顧客は、レガシーなERPからS/4HANAへの移行などのSAPに関連するプロジェクトにおいて、同社のプロセスマイニングソフトウェアを不可欠なものとして活用している。例えば、ドイツの電気機器サービスプロバイダーであるHager Groupは、「SAP ECC 6.0」からS/4HANAへの移行にCelonisを活用し、大幅なコスト削減と時間短縮を実現した。
しかし、SAPが2021年にSignavioを買収した際、同社はSignavioのプロセスマイニング機能を「Rise with SAP」に統合し、レガシーなSAPシステムから「SAP S/4HANA Cloud」(以下、S/4HANA Cloud)への移行を支援するサービスの一部とした。
訴状の中でCelonisは、SAPが自社のERPエコシステムに対する支配力を利用し、他のプロセスマイニングベンダーや、同エコシステムのデータにアクセスする必要のあるサードパーティーベンダーを締め出していると主張している。Celonisによると、SAPがより優れた製品を提供しているのではなく、顧客によるSAP以外のプロセスマイニングアプリケーションの使用を事実上不可能にしているという。
訴状によると、SAPは自社のERPエコシステムに対する支配力と、顧客に迫るクラウド型ERPソリューションS/4HANA Cloudへの強制的な移行を利用し、Celonisを含むサードパーティープロバイダーに顧客自身のデータを共有することに対し、非常に高額な料金を課し、これを実質的に妨げようとしているという。
Celonisは同社とSAPがこれまで互いに利益をもたらす関係を築いてきたことを認めている。しかし、Celonisの主張によると、Signavioを買収した際にSAPが「自社製品を優遇しない」と約束したにもかかわらず、その約束が破られたようだ。Celonisは、「SAPは他社製品を使用した場合に高額なデータ抽出料金を課すと迫ることで顧客にSignavioの使用を強要している。Signavioを割安で提供したり、CelonisのようなSAP以外のアプリケーションを使用することのリスクについて虚偽または誤解を招く説明を行ったりしている」と主張した。
「Informa TechTarget」に対する声明の中で、SAPは「提訴された件を把握しており、現在その主張内容を精査している」と述べた。なお、同社は進行中の法的問題についてはコメントを発していない。
Celonisも「Informa TechTarget」に対し、「進行中の訴訟についてはコメントしない」と述べている。
アナリストたちによると、データを巡る法的な小競り合いは目新しいものではなく、関係する企業が和解することで顧客に対してより優れたサービスを提供できるという。
テクノロジー分野に特化した調査企業であるConstellation Researchのホルガー・ミューラー氏(プリンシパルアナリスト兼バイスプレジデント)によると、SAPもOracleも過去に、サードパーティーベンダーによる自社システムからのデータを取り出しを制限しようとしたことがあるという。
ミューラー氏は「しかし、現在はAIの時代である。過去と比較して、データの重要性が高まっている点が違う」と述べた。重要なのは、サードパーティーベンダーがデータにどのようにアクセスできるかだ。例えば、最小限の計算コストをかけるだけでアクセスできるのか、もしくは、継続的なITコストをかけなければアクセスできないのかといった点が鍵になる。
「コストが最小限であれば、顧客はそれらのコストをSaaSのライセンスの一部として支払うことになる。しかし、継続的にコストが発生する場合は難しい問題がある。それは、そのコストをSaaSベンダーが負担すべきなのか、それとも顧客が負担すべきなのかという問題だ。裁判における判決は、AI戦争に先立つデータ戦争において重要な意味を持つだろう」(ミューラー氏)
エンタープライズ業界に特化した調査企業であるDiginomicaのジョン・リード氏(共同設立者)は「AIによって企業データの重要性が高まる中、ベンダーのビジネスモデルに圧力がかかっており、今後も法廷の内外で『データ戦争』の小競り合いが増える可能性が高い」と同意した。
「しかし、顧客は間違いなくデータへのオープンなアクセスを望んでいるため、最終的にはベンダー側が妥協せざるを得ず、何らかの形でサードパーティーベンダーによるデータアクセスを許容することになるだろう」(リード氏)
また、リード氏は次のように述べた。
「SAPの顧客は、S/4HANAへの移行においてプロセスマイニングや自動化に価値を見いだしている。そのため、Celonisを含むベンダー全体と強固なパートナーシップを築くことは、SAPにとっても利益になるはずだ。一般的にエンタープライズベンダーはデータアクセスに対して障壁を設けていると見なされることを嫌う。SAPとしては、そのような印象を避けたいはずだ。この訴訟は始まったばかりであり、まだ不透明な部分が多いが、SAPとCelonisは問題を早期に解決し、顧客の変革を支援する方向に進むべきだ」(リード氏)
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