AIと自動化で進化する業界特化型ERP ボート製造メーカーはどう活用する?

「ERPにデータを入れること、操作すること」は実は価値を生み出す仕事ではない。この部分の徹底的な効率化に挑む企業の地味だが効果的な取り組みを見ていこう。

» 2025年05月22日 07時00分 公開
[Jim O'DonnellTechTarget]

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 Inforが提供するクラウドベースのERPに新たな機能が追加され、業務プロセスにおいて自動化やAIが活用できるようになった。これは2024年10月に発表され、2025年4月10日に正式リリースされた拡張機能「Infor Velocity Suite」によるもので、プロセスマイニングと自動化、そして生成AIによる最適化を一つにまとめたパッケージであり、現在はCloudSuiteで利用可能だ。

 この機能アップデートによって、業界特化型ERPはどのように変わるのか。ボート製造メーカーの事例を交えて解説する。

業界特化型のERRはどのように進化していくのか

 この製品の目的は、顧客がプロセスマイニングを活用して業務プロセスの実態を把握し、業界特有のベストプラクティスに基づいて自動化し、さらに生成AIをによってそれらを改善することだ。

 Inforのケビン・サミュエルソン氏(CEO)によると、Velocity Suiteは、業界特化型のERPであるCloudSuiteのアプリケーション向けに同社が開発してきた機能や技術を集約したものだという。

 新機能が加わったとしても、顧客は依然として業界のプロセスにおけるベストプラクティスを求めている。同氏によると、Velocity Suiteは、自動化やAI技術の活用に意欲的でありながら価値を見いだすのに苦労している顧客に対して、ワンストップでソリューションを提供するという。

 「機能や特徴がいくら優れていても、それらが実行されるプロセス自体が適切なものでなければ意味がない」(サミュエルソン氏)

 サミュエルソン氏によると、導入をよりシンプルにし、早期に価値を実現する鍵は、あらかじめ用意された業界別のプロセスを集約したライブラリ「Infor Value+」を活用することだ。これによって業界ごとに異なる請求処理などのプロセスを特定し、自動化できる。

 「業界別、さらには業界のサブカテゴリー別にプロセスを事前構築しておくことで、顧客は迅速に機会を見つけ、導入し、短期間で効果を実感できるようになる」(サミュエルソン氏)

 Velocity Suiteを活用すれば、顧客はライブラリであるValue+にアクセスでき、プロセスマイニングによって業務を診断した後、自動化されたプロセスを導入できる。

 サミュエルソン氏は「プロセスマイニングおよび自動化、生成AIの機能をInforのシステムに開発することにより、サードパーティー製アプリケーションに対する優位性を獲得できる」と述べた。

 「これらの製品をサードパーティーから購入すると、データベースのログを引き出したり画面をスクレイピングしたりしなければならない。プロセスや自動化にアクセスする上で非効率的な方法になってしまう」(サミュエルソン氏)

 Velocity Suiteは、InforのCloudSuiteの顧客向けに提供されている。現在のライセンスコストによって決まる3階層構造に基づいて、一律の固定価格で利用可能だ。

ボートメーカーにおける業務プロセスの効率化

 米国アーカンソー州ホットスプリングスに本拠を置くXpress Boatsは、社内プロセスにおける課題解決と改善のために、Infor Velocity Suiteを活用している初期導入企業の一つだ。同社は釣りや狩猟用のボートの製造メーカーで、2000年からInforのERPを利用しており、現在は「SyteLine」や「Factory Track」「Configure Price Quote」などのソフトウェアを使用している。

 Xpress Boatsのジェニファー・テリー氏(情報システムマネジャー)によると、同社は最近、在庫の精度や調達から支払いまでのプロセス、受注から入金までのプロセスといった社内の課題に対応するために、Velocity Suiteのプロセスマイニング機能の活用を開始した。

 また、Xpress BoatsはRPAを活用して、経理チームのための返品承認プロセスの自動化に取り組んでいる。テリー氏によると、今後は仕入先の価格改定や請求書発行、買掛金処理のプロセスもRPAで自動化する予定だ。

 「この取り組みが当社にもたらすメリットに大きな期待を寄せている。私たちは小規模な組織だ。業務プロセスの効率化を通じて、従業員が他の重要な業務に集中できる環境を構築したい」(テリー氏)

 テリー氏によると、プロセスマイニングおよび自動化、生成AIはいずれもXpress Boatsにとって初めての取り組みであり、これらのツールは同社のような小規模メーカーに新たな可能性をもたらすという。

 「未来がどのようなものになるのかを本当の意味で実感できた」(テリー氏)

 ITリサーチ企業であるTechnology Evaluation Centersのプレドラグ・ヤコブレヴィッチ氏(プリンシパル・インダストリーアナリスト)によると、Infor Velocity Suiteは、製造業に特化したAIおよびRPAツールである「Epicor Prism」と似ている。

 「一般的な観点から、InforやEpicorが採用したアプローチは理にかなっている。ERPを新規で販売できる機会は決して多くない。また、レガシーなERPを活用している既存の顧客は、NetSuiteのような新しいクラウドベンダーに乗り換える可能性がある。そのため、これらのAIソリューションをアドオンで提供することが新たな収益につながるのだ」(ヤコブレヴィッチ氏)

 ヤコブレヴィッチ氏によると、一律の価格設定もInforの顧客にメリットを提供するという。

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