新リース会計基準で原則全てのリース契約についてオンバランス計上が義務付けられますが、対象の契約はどのように洗い出せばよいのでしょうか。事業部門の担当者に正確かつスムーズに契約情報を収集してもらうための方法を解説します。
2024年の9月13日に「新リース会計基準」の確定版が発表されました。本連載では、確定した最新の基準にのっとって「何が変わるのか」の基礎から紹介した上で、「Microsoft Excel」で対応できる/できない企業の特徴や、システム検討の考え方についても解説していきます。
2024年9月に公表された新リース会計基準(以下、新リース基準)。原則全てのリース契約についてオンバランス計上が義務付けられますが、対象の契約はどのように洗い出せばよいのでしょうか。
今回は、新リース基準適用に向けた契約の洗い出しを効率的に進めるために、現場への説明会で押さえるべきポイントと、事業部門の担当者に正確かつスムーズに契約情報を収集してもらうための具体的なノウハウを解説します。
まず、新リース基準における「リース」の対象について振り返りましょう。新リース基準では「使用権モデル」を採用するため、「リース会社経由の契約だけ洗い出せばよい」というわけではなく、「定期払いで特定資産を独占使用しているかどうか」といった基準であらゆる契約の判定の判定をする必要があります。
その結果、オンバランスになる可能性がある契約は多岐にわたります。よく議論される不動産の賃借契約はもちろんですが、その他の動産や、一見リースには見えない「実質リース」も網羅的に拾い上げないと、オンバランスの対象漏れが起こり得ます。具体的に見るべき契約は下記の3つに大別されます。
コピー機やPC、営業車、フォークリフトなどはリース料が比較的少額でも件数が膨大になりやすいのが特徴です。
総務部門で管轄しているケースが多い傾向がありますが、現場に分散している可能性がないかどうかを早めに確認した上で、漏れなく洗い出しを進める必要があります。
店舗や事務所、倉庫、借上社宅などは金額インパクトが大きく、契約条項も複雑です。
オフィスビルの賃貸などは本社総務の管轄になっているのとが多いものの、社宅は人事、店舗は店舗開発、各地の事務所は現場事務で管理といったように、管理部門が分散しているケースが多いため注意しましょう。
会計上はサービス契約でも、特定資産を顧客が占有、指図している場合はリースに該当します(専用回線、専用製造ライン、オフィスの自販機など)。
契約の種類によってどこで管理しているかはまちまちなので、まずは自社でどういった契約が想定し得るかを洗い出し、それに応じて進めるのが重要になるかと思います。
では、上記のような多岐にわたる「リース」を洗い出すにはどうすればよいでしょうか。
新リース基準は2027年4月1日以後開始事業年度から適用されるため、契約収集は早期に完了させないと対応が間に合いません。事業部門の協力を得るには、部門長レイヤーから調整して役職者を集めた説明会などを開き、そこでの説明によって「自分事化」してもらうための工夫が必要です。ポイントとしては、下記のような点が挙げられます。
多くの参加者は新リース基準がどういったものなのか分からないケースが多いでしょう。そのため、新基準で「何が変わるのか、なぜ変わるのか」といった基本的な項目をかみ砕いて説明するのが重要です。
オンバランスの処理が必要になると言ってもピンと来ない部門も多いので、例えば「未来の家賃をいったん借金として載せる必要がある」と比喩を使いながら、どんな対応がどうして必要なのかを腹落ちしてもらうとよいでしょう。
制度の概略を理解してもらえたら、実際に契約を集めてもらう必要があります。
ここでは、要望を分かりやすく伝えるのはもちろんですが、「ちゃんとやらないとどうなるのか」にフォーカスして説明すると良いでしょう。
例えば、新リース基準が経営数値やKPIに与える影響などにも言及しながら、監査指摘などにつながる可能性について説明し、その上で依頼事項の重要性を強調します。そうすれば、「ちゃんとやらなければ問題が起きる」という認識を持ってもらいやすいかと思います。
上記のような説明が終わったら、実際に「Microsoft Excel」(以下、Excel)などで作ったシートを配布して契約情報を収集していきます。ここで重要なのはExcelシートの中でどんな項目でどのように情報を集めるかです。
「必要な情報は網羅されている」けれども「事業部門が迷わない」を実現するためのバランスは極めて難しいかと思います。バランスが欠けてしまうと、作業してもらったのに後から手戻りが多数出てしまう結果になりかねません。ここでは、当社が無償公開している「契約収集シート」を例に、こうしたギャップを埋めるためにどのような考え方が必要かを紹介します。
最も重要なのは、新リース基準で求められている内容をあれもこれも網羅しようとせず、シンプルで業務部門が判断できる項目に絞ることです。
契約名や賃料、期間、更新予定などは確認しますが、例えば「延長オプションの行使予定はあるか」とは聞きません。概略を集め、詳細は金額規模が大きいところから確認するのも重要かと思います。
業務部門向けの入力シートの行頭には「例)コピー機」「例)専用回線」といった、よくある契約のパターンを並べるのが効果的です。
ゼロからシートに記入してもらうと、「どれから、何を書こうか」という心理になり、筆が止まってしまいます。業務部門の担当者が“自分の案件に近い例”を起点にシートを入力できるようにすることで、より正確に、漏れなく情報を収集できるようになります。
洗い出しが終われば、各部門でどのような契約があるのかが明確になってきます。各部門で持つ契約の種類や数が明確になれば、「どんな業務フローで運用するのがよいか」も見えてくるでしょう。各部門から都度申請を上げてもらうのか、稟議などを起点に経理部門で作業をするのか、定期的に棚卸をするかどうかなど、契約の種類によって最適なプロセスは異なることも多いため、区分して整理するとよいかと思います。
当社ワークスアプリケーションズでは、今回のご説明の中でも触れた新リース基準に向けた契約の洗い出し票を無償で公開しております。公認会計士で「新リース会計の実務対応と勘所」著者の井上雅彦先生の監修を受けた内容になっていますので、ご不安のある企業はぜひ活用ください。
次回は、最後に触れた「どのような業務フローによって情報を収集し、処理を進めるのが適切なのか」について、実例を交えながら説明します。
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