Gartnerのアナリストによると、OT環境におけるサイバーリスクは非常に高まっているという。これに対して製造業におけるOTセキュリティの現在地はどうなっているのか。
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産業オートメーションサービスを提供するRockwell Automationが2025年8月13日(現地時間、以下同)に発表した報告書によると(注1)、製造業を営む企業はサイバーセキュリティを3番目に重大なリスクと位置付けているという。これはインフレと経済成長に次ぐ順位だ。
Rockwell Automationの報告書は、調査企業であるSapio Researchとの共同調査に基づくもので、製造業が盛んな主要17カ国から1560人の回答を集めている。調査対象となった企業は、食品および飲料、包装製品、自動車、エネルギーなどの業界を代表する企業だった。
製造業者の半数以上が、OTに関連する資産の保護を技術投資における最も重要な要素の一つとして挙げている。さらに製造業者のおよそ3分の2は、OT向けのセキュリティプラットフォームを導入済みで、残りの約3分の1も今後5年以内に同様の仕組みを導入する予定だという。
報告書では、製造業者におけるサイバーセキュリティ担当者やIT担当者の10人中6人以上が、セキュリティを強化するために今後12カ月以内にML(機械学習)を含めたAIを導入する計画を立てていることが示された。
報告書は、製造業者がサイバーリスクを事業全体の重要課題としてこれまで以上に重視し始めていることを示している。こうした姿勢の変化の背景には、ランサムウェアの巧妙化や、重要な製造企業を狙う国家レベルの重大な脅威の増大がある。
2021年に発生した石油パイプラインを運営するColonial Pipelineへのランサムウェア攻撃や(注2)、2023年に発生した日用品および消費財の大手メーカーであるCloroxへのソーシャルエンジニアリング攻撃は、このようなリスクが数十億ドル規模の大企業に深刻な影響を及ぼす可能性があることを示すものだった。
Colonial Pipelineへの攻撃では、米国南東部で約1週間にわたり燃料供給が停止した。また、Cloroxへの攻撃にはサイバー犯罪グループ「Scattered Spider」が関与しており、攻撃の結果、Cloroxは同社にITサービスを提供していた事業者に対して3億8000万ドルの訴訟を提起した(注3)。
Gartnerのバイスプレジデントであり、著名なアナリストでもあるカテル・ティエルマン氏は『Cybersecurity Dive』に対して次のように語っている。
「OT環境におけるサイバーリスクは間違いなく高まっている。OT環境ではサイバー領域の要素と物理的な要素が結び付いており、この特性が被害を一層深刻なものにしている。地政学的な野心を持つ国家の存在や、製造業を狙うランサムウェア攻撃、産業用制御システムに特化して設計されたマルウェア、米国サイバーセキュリティ・インフラストラクチャセキュリティ庁(CISA)によって次々とリストに掲載される産業システムの脆弱(ぜいじゃく)性など、OTやサイバーフィジカルシステム(CPS)におけるサイバーリスクは拡大する一方だ」
OTに特化したサイバーセキュリティサービスを提供するDragosが2025年8月14日に発表した報告書によると(注4)、第2四半期に最も多くのランサムウェア攻撃を受けた業界は製造業界だった。同期間中にDragosは、世界の産業分野を標的とした657件のランサムウェア攻撃を確認しており、そのうちの3分の2で製造業者が被害を受けていた。
(注1)OT Cybersecurity 2026: Six DataDriven Trends from the State of Smart Manufacturing Report(Rockwell Automation)
(注2)Colonial Pipeline faces nearly $1M in penalties as federal regulator discloses violations(Cybersecurity Dive)
(注3)Clorox files $380 million suit blaming Cognizant for 2023 cyberattack(Cybersecurity Dive)
(注4)Dragos Industrial Ransomware Analysis: Q2 2025(DRAGOS)
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