「2025年の崖はさらに高くなった」 レガシー、製品リスク、AIを乗り越えるロードマップを解説

2025年の崖はさらに高くなっている。いまだに多くの組織がレガシーシステムを使用している中、製品体系の変更リスクやAIの台頭があるためだ。本記事では2025年の崖に対処するためのモダナイゼーションについて解説する。

» 2025年10月06日 07時00分 公開
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 2025年の崖はさらに高くなっている。いまだに多くの組織がレガシーシステムを活用しており、製品体系の変更リスクやAIの台頭があるためだ。

 アイ・ティ・アールの入谷光浩氏(シニア・アナリスト)の講演を基に、AI時代のモダナイゼーション・ジャーニーをまとめる。提唱されて久しい2025年の崖を越えるためのロードマップとは。

本稿はアイティメディアが主催したイベント「Enterprise IT Summit Vol.2」(8月19〜22日)でアイ・ティ・アールの入谷光浩氏が「DX・AI時代に向けたモダナイゼーション・ジャーニー」といったテーマで講演した内容を編集部で再構成したものだ。

2025年の崖は越えられたのか

 「2025年の崖」という概念は、経済産業省が2018年に発表したDXレポートによって提起されたものだ。これは、企業がデジタル変革(DX)を進めない場合に、2025年以降に直面する深刻な経済的、技術的なリスクを指している。この危機の背景には、以下の要素が複雑に絡み合っている。

  • レガシーシステム(技術的負債)の継続
  • 複雑化、ブラックボックス化し新技術の活用が困難
  • 運用保守にかかるコストと人員の負担増加
  • サイバーセキュリティや障害のリスクが高まる
  • ベンダーへの委託(丸投げ)から脱却できない
  • DX人材の確保ができない

 企業がこれらの課題を解決できない場合、2025年以降、1年当たり最大12兆円の損失が生じる可能性があると指摘された。入谷氏は、レガシーシステムの状況、製品体系の変更リスク、AIという3つの観点から2025年の崖が現在どうなっているのかについて示した。

レガシーシステムの状況

 はじめにレガシーシステムの状況を整理してみよう。2024年度に実施されたIPAによる調査「DX動向2025」によると、60%以上の企業でレガシーシステムが稼働しているという。米国やドイツと比較すると、日本は「ほとんどがレガシーである」という回答比率が高い。

 その結果、レガシーシステムの維持管理がIT部門を苦しめている。ITRの調査「システム運用管理の実態調査2024」では、次のようなIT部門の三重苦が明らかにされた。

  • 運用業務負担が3年間増加し続けている企業は66%: 人手不足の苦しみ
  • 運用コストが3年間増加し続けている企業は55%: コスト増の苦しみ
  • 外部事業者に運用業務を委託している企業は57%: スキル空洞化の苦しみ

 「私の感覚だと、IT部門の三重苦は年々深刻化している」と入谷氏は話す。

製品体系の変更リスク

 次に、近い将来サポートが終了する製品に関連するリスクも高まっている。

 図1 製品のサポート終了に関するリスク(出典:入谷氏の講演資料)

 「Windows 10」や「SAP ERP」だけでなく、富士通によるメインフレームからの撤退は大きな影響を与えている。金融機関や大手製造業では、いまだに富士通のメインフレームが使われている。また、Broadcomによる買収を契機に発生した「VMware」のライセンス変更も大きな混乱につながっている。

 このように製品のサポート終了や値上げが相次ぎ、企業は慌てて移行や刷新の選択肢を検討している状況だ。しかし、綿密な戦略に基づかずに移行および刷新に取り組むと、技術的負債の解消はできず、将来再び同じような問題に振り回されるだけになる可能性が高い。

 「古い製品はベンダーによる突然の開発終了や戦略転換による影響を受けやすい。そのため、日頃から新しい製品に更新するための検討を続けるべきだ」(入谷氏)

AIの台頭

 最後に、AIの台頭も企業のリスクにつながっているという。現在、DXの実現にAIは不可欠なものとなっている。しかし、AIを導入するためにはAIのためのインフラが必要だ。さらにAI活用に向けたデータ基盤の整備やAI人材の育成も求められる。AIの台頭は2025年の崖をさらに高いものにしたといって過言ではないだろう。

モダナイゼーションのアプローチ

 ここまで整理してきた通り、2025年の崖を越えた組織は決して多くない。むしろ、2025年の崖がさらに高くなっているという見方もできる。そうした状況を踏まえ、入谷氏はモダナイゼーションのアプローチについて解説した。

モダナイゼーションが重視されている

 主要なIT動向の重要度指数と現在および今後の実施率予想についてITRが実施した調査「IT投資動向調査2025」では、モダナイゼーションに関連する項目「基幹系システムのクラウド化の実践」(2位)、「レガシーシステムのモダナイゼーション」(7位)、「マルチクラウド環境の採用」(8位)、「システム開発の内製化の推進」(10位)が上位にラインクインした。

 「モダナイゼーションを推進する上で、クラウド移行やDX推進は非常に重要だ。つまりモダナイゼーションの実現とは、クラウド移行をはじめとするDXの実現だ。DXの観点で考えたとき、オンプレミス中心のレガシーシステムは俊敏性や拡張性が求められるDXの推進には不向きな場合が多い」(入谷氏)

モダナイゼーションのアプローチ: 5R

 入谷氏は「5R」(リホスト、リプラットフォーム、リアーキテクト、リビルド、リプレース)の手法に基づくモダナイゼーションのアプローチを紹介した。5Rのアプローチが進むに従って、クラウドで得られるケイパビリティも向上させられる。

 図2 モダナイゼーションのアプローチ: 5R(出典:入谷氏の講演資料)

 5Rのアプローチが進むに従って、クラウドで得られるケイパビリティも向上するという。ITRが実施した調査「ITインフラ動向調査」では、クラウドへのモダナイゼーションで得られた効果として以下が挙がった。

  • セキュリティの強化
  • 可用性や事業継続性の向上
  • 運用管理負担の軽減
  • 最新技術(AIやIoTなど)の活用拡大
  • アプリケーションの迅速な導入と展開
  • ビジネスアジリティの向上
  • パフォーマンスの向上
  • TCO(総保有コスト)の削減
  • グローバル展開の容易化
  • スケーラビリティの向上

 「この結果をまとめると、クラウドによってレジリエンスおよびオペレーション、アジリティ、パフォーマンス、スケーラビリティ、イノベーションの領域で効果を得られる。特にイノベーションは重要で、昨今はAIをはじめとする最新技術を早期に実装し、業務に変革を起こす姿勢が求められている」(入谷氏)

モダナイゼーション・ジャーニー

 入谷氏はレガシーシステムをモダナイゼーションするための道筋として、次の図を示した。

 図3 モダナイゼーション・ジャーニー(出典:入谷氏の講演資料)

 「イノベーションは一足飛びで実現できない。レガシーシステムを活用しているのであれば、リホスト、リプラットフォーム、リアーキテクトの手順を段階的に踏んでイノベーションを実現しなければならない」(入谷氏)

 レガシーシステムを直接クラウドネイティブアーキテクチャへリビルドすることは期間とコストが大きくなるので注意が必要だ。

モダナイゼーションとAI

 講演の後半では、モダナイゼーションとAIの関係についての説明がされた。

モダナイゼーションプロジェクトの課題

 入谷氏によると、モダナイゼーションプロジェクトの現場では次のような課題がありがちだという。

  • システムの構造や設計がドキュメント化されておらず(もしくは古い)、現状把握に時間がかかる
  • 長年の改修や拡張で機能やモジュール間の依存関係が複雑化し、ブラックボックス化している
  • 変換したコードがモダンアーキテクチャに適しておらず、メンテナンス性と開発生産性が低下する
  • COBOLなどのレガシー言語やシステムのアーキテクチャを理解できる人材が不足している
  • 網羅的なテストの設計と実行、テストデータの準備に多くの時間を要する
  • モダナイゼーション後の運用技術、体制がレガシーのままで変わらず、運用効率が低下する

 同氏は、これらの課題を解決するために生成AIを活用できるかどうかを検討することを勧めた。

モダナイゼーションのプロセス別生成AI活用方法と留意点

 モダナイゼーションのプロセスにおいて、生成AIを活用できる領域は多い。入谷氏は、生成AIの活用方法と留意点をまとめた図で説明した。特に現状分析や設計、移行、モダナイズ、運用の各プロセスで生成AIの活用が期待されている。

 図4 モダナイゼーションのプロセス別生成AI活用方法と留意点

 「モダナイゼーションを推進する際は、AIの能力を高めるAIインフラの構築も重要だ。AIモデルの学習や推論を高速かつ大量に処理できるリソースの搭載などの要件にインフラを構築し、AIの差別化戦略に生かしていこう」(入谷氏)

モダナイゼーション・ジャーニーに向けて

 講演の最後に、入谷氏はモダナイゼーション・ジャーニーに向けて重要なポイントとして、「イノベーションの創出を見据えたモダナイゼーション戦略を策定する」「クラウドとAIを活用し、速度と品質の向上を図る」「モダナイゼーションの旅を終わらせない」の3点を挙げた。

 技術だけでなく人材やスキルのモダナイゼーションも忘れてはならない。不足スキルの洗い出しとリスキリングから着手し、スキル習得、文化およびマインドの醸成を経て、DXやAI活用を主導する組織を形成することが重要だ。

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