25ドルで見つかったWordPressの脆弱性 生成AIが変えた攻防の時間軸半径300メートルのIT

脆弱性が公表されてから攻撃が始まるまで、これまでは相応の時間がありました。その前提が、生成AIによって崩れつつあります。では、防御側に残された選択肢には何があるのでしょうか。

» 2026年08月04日 07時00分 公開
[宮田健ITmedia]

この記事は会員限定です。会員登録すると全てご覧いただけます。

 前回、WordPressの脆弱(ぜいじゃく)性「wp2shell」を取り上げました。プラグインではなくCMS本体に残っていた脆弱性で、外部から認証を必要とせずに管理権限奪取やリモート実行を可能とするため、緊急度の高い対応が必要となるものでした。

 皆さんの組織でも対応に追われていたのではないかと思います。WordPressを導入していないと思っている組織も、念のため部署レベルでの導入がないか、いま一度再確認をお願いします。これは、自社で管理しているドメインにおけるアタックサーフェイス管理になります。その文脈からも、本脆弱性の影響を受けないかを確認しましょう。 

 今回はこの脆弱性が明らかになったときに、どのような動きがあったのかをチェックしたいと思います。キーワードは「生成AI」です。

生成AIの力で「攻撃手法」を想定する

 脆弱性wp2shellを振り返ります。これはWordPressにおける「Critical(緊急)」な脆弱性CVE-2026-63030、および「High(高)」な脆弱性CVE-2026-60137の組み合わせで発生します。2つを組み合わせたwp2shell全体としてはCVSS 9.8の「緊急」に達します。Searchlight CyberのAdam Kues氏により報告され、wp2shellと名付けられました。

 WordPressは、スクリプト言語であるPHPによって作られています。もちろん、オープンソースとして、(ソースの中身)[https://github.com/wordpress]は誰もが見ることができるようになっています。

 通常、脆弱性修正を含むアップデートが公開された場合、脆弱性の番号が付けられ、影響のあるバージョン、修正されたバージョンなどの情報が一般公開されます。しかし、その詳細な修正内容は公開されません。これは、修正内容を知ることが攻撃手法の確立につながり、攻撃コードが野に放たれてしまうからです。それなりのスキルのあるエンジニアであれば、修正されたパッチを読み解き、実際にどのように修正され、何が攻撃の糸口になっていたのかを把握できました。しかし、ハードルは高かったため、そう簡単ではない作業でした。

 ですが、今回は可読性の高いPHPスクリプトでした。修正された部分から、実際の問題点が把握できたものの、2つの脆弱性をどう組み合わせればリモートで不正なコードを実行できるのか、SNS上でもさまざまな意見が飛び交っていました。

 そこに、生成AIの力が加わります。今回の脆弱性の影響は大きいということに気が付いた人たちは、世界各所で生成AIの力を借りつつ、今回の問題はどんなものかを調査し始めました。攻撃に使えるチェーンの作り方をそこから導き出せたという投稿も増え、影響が非常に大きいことも伝わってきます。

 コードそのものを公開するような人はいませんでしたが、生成AIの力を使い、スキルを持つ人がさらに高いスキルに至り、非常に複雑な攻撃を検証できるようになったといえるでしょう。

もはやゼロデイ以上に深刻な「パッチリリース後の振る舞い」

 修正プログラムを読み解き、その裏にある脆弱性情報を基に「攻撃コード」を作る。これが、生成AIの力でこれまで以上に短い時間で、スキルを補助する形で実現できてしまうようになりました。これは、ゼロデイ攻撃ならぬ「Nデイ攻撃」の問題が、さらに現実的になったことを示します。

 Nデイ攻撃とは、脆弱性が公表されパッチが提供された後に、その既知の脆弱性を狙って実行される攻撃を指します。かつては脆弱性が明らかになってパッチが公開されたとしても、そのパッチを解析して攻撃コードにするためにはそれなりのスキルが必要であり、時間がかかるものでした。その間にパッチを適用することで、Nデイ攻撃を防ぐことができました。

 しかし、生成AIを使えば、攻撃に至るシナリオを作れる人は増えます。パッチが公開されて適用をするまでの猶予は短くなり、今回のwp2shellを見る限り、パッチ公開から24時間以内に適用できるかどうかが分かれ目だったように思えます。

 もはや、パッチを吟味している時間は与えられず、「自動適用する」以外の選択肢はないように思えました。WordPressに関してはこのような重要なアップデートを自動適用する仕組みがありました。かつては脆弱性が大きな課題だったWebブラウザも、自動アップデートの仕組みが登場してからは利用者の混乱もなく、仕組みが有効に働いているといえます。もはや、これこそが受け入れるべきスタンダードになるでしょう。

さらに驚きの事実、wp2shellは「25ドル」で見つけられた?

 さらに驚きの事実が、wp2shell公開直後に発表されています。発見者であるSearchlight CyberのAdam Kues氏は、3日後の2026年7月20日に「Exploit brokers pay $500,000 for a WordPress RCE. I found one with GPT5.6 Sol Ultra and $25」(エクスプロイトブローカーはWordPressのRCEに50万ドルを支払う。私はGPT5.6 Sol Ultraと25ドルでそれを見つけた)という、衝撃的な記事を公開します。つまり、この攻撃手法もわずかな費用で、生成AIにより見つけられたということです。

「エクスプロイトブローカーはWordPressのRCEに50万ドルを支払う。私はGPT5.6 Sol Ultraと25ドルでそれを見つけた」という記事(出典: Exploit brokers pay $500,000 for a WordPress RCE. I found one with GPT5.6 Sol Ultra and $25 > Searchlight Cyber >Searchlight Cyber

 たった実質25ドル分で、世界を震撼させるような脆弱性が見つかってしまったというのは本当に驚くべき事態です。このレベルであれば、これまでならば攻撃者グループは50万ドルを支払っていただろうと予想されています。もはや生成AIのリスクは軽視できず、同じようなことが、全てのソフトウェアで明日にでも起き得ることを意味します。

 実はもう一つ、セキュリティ業界を震撼させた事件がありました。Hugging Faceがサイバー攻撃を受けたというインシデントを調べていくと、実はそれはあのOpenAIによるものです。生成AIモデルがまるで高度な標的型攻撃をするかのように、サイバー攻撃を仕掛けていたという事件でした。OpenAI自身もそれをリアルタイムでは把握できておらず、まさに生成AIが得意な、マシンスピードでの攻撃を実現していたといいます。詳細は下記の記事を参照してください。

 生成AIがセキュリティに使われるのは限定的、と筆者は考えていましたが、WordPressにおけるwp2shell発見の経緯と、Hugging Faceへのサイバー攻撃を知ると、そんなことも言っていられない時代になってしまったと痛感します。それでも、基本的なセキュリティ対策こそが重要です。加えて、ソフトウェアやサービスを提供するエンジニアは、設計段階から脆弱性を作り込まぬよう、また初期設定の時点で安全を作り込む「シフトレフト」や「セキュア・バイ・デフォルト」を考えていきましょう。

 生成AIは強力です。すぐにこれが防御側でもその力を発揮できることを、筆者は信じています。

著者紹介:宮田健(みやた・たけし)

『Q&Aで考えるセキュリティ入門「木曜日のフルット」と学ぼう!〈漫画キャラで学ぶ大人のビジネス教養シリーズ〉』

元@ITの編集者としてセキュリティ分野を担当。現在はフリーライターとして、ITやエンターテインメント情報を追いかけている。自分の生活を変える新しいデジタルガジェットを求め、趣味と仕事を公私混同しつつ日々試行錯誤中。

2019年2月1日に2冊目の本『Q&Aで考えるセキュリティ入門 「木曜日のフルット」と学ぼう!〈漫画キャラで学ぶ大人のビジネス教養シリーズ〉』(エムディエヌコーポレーション)が発売。スマートフォンやPCにある大切なデータや個人情報を、インターネット上の「悪意ある攻撃」などから守るための基本知識をQ&Aのクイズ形式で楽しく学べる。


Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

アイティメディアからのお知らせ

注目のテーマ

あなたにおすすめの記事PR