業界の大勢が共同利用とベンダー依存にとどまる中、北國銀行は、内製の次期勘定系システム「BankWill」をマルチクラウドで2027年1月に稼働させる予定だ。この決断に至った背景と、内製化に消極的な現場を変えた“5つの理由”に迫る。
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銀行の“心臓部”とも呼ばれ、口座管理や取引処理を担う勘定系システムの内製化に取り組んでいる北國銀行。日本銀行が2024年1月に公表したレポート「金融機関におけるクラウドサービスの利用状況と利用上の課題について」(注1)によると、勘定系システムのクラウド移行が進まない背景には、オンプレミスで整備してきた既存資産を放棄しにくいことと、地域銀行では勘定系システムの共同利用が進んでいることという2つの要因がある。
北國銀行は1943年12月に石川県内の加能合同銀行、加州銀行、能和銀行の3行が合併して設立された地方銀行で、石川県金沢市に本店を置く。2021年10月に持株会社体制へ移行し、持株会社は2025年10月に北國フィナンシャルホールディングスからCCIグループに名称を変更した。店舗数は104店(出張所を含む。2025年12月1日時点)だ。
同行は2015年1月に勘定系システムを従来のメインフレームからオープン勘定系システム「BankVision」(日本ユニシス〈現BIPROGY〉製)に移行し、2021年5月には「Microsoft Azure」(以下、Azure)で稼働させた。北國銀行や日本ユニシス、日本マイクロソフトの3社によると、全ての銀行業務を担うフルバンキングシステムのパブリッククラウド(事業者が提供する共有型のクラウド環境)での稼働は国内初だという。2027年1月には次期勘定系システム「BankWill」を、複数のクラウド基盤を組み合わせるマルチクラウド構成で稼働させる予定で、開発は自行で手掛ける。
業界全体が勘定系システムのクラウド移行をためらう中で、なぜ中堅の地方銀行が勘定系システムを内製し、クラウドで稼働させる決断をしたのか。その原点は約20年前、システムの開発と運用を外部委託していた時代に、新谷敦志氏(常務執行役員 システム部長)が出向先で抱いた「ある危機感」にある。
新谷氏は1995年に北國銀行に入り、3年間の支店勤務を経て1998年からシステム部門でキャリアを積んだ。ただし、当時の北國銀行にはITシステムを運用する専任部署がなく、総合事務部のシステム担当とシステム企画課がシステム業務を担う体制だった。
「2000年頃は『餅は餅屋』ということで、金融機関ではアウトソーシングがよく行われていました。当行も開発や運用をアウトソーシングしていました」と、新谷氏は当時を振り返る。
システム部門に所属していた新谷氏も、システム開発と運用を委託している日本IBMとの共同出資会社に出向することになった。出向先で新谷氏が懸念したのは外部委託によって自社に技術やノウハウが蓄積されず、価格交渉の術がなくなることだった。
「外部委託を続ければ、自分たちでは開発できなくなる。約10年後の契約更新時には先方の言い値を支払うしかなくなる、と危機感を覚えました」
アウトソーシングから脱却する決断には、当時、企画部門長だった杖村修司氏(現・CCIグループ代表取締役社長)が関わった。「経営層にもやはり同じ危機感を持っていたということで、アウトソーシングをやめる決断ができました」(新谷氏)
こうして、北國銀行は2007年にシステム開発部門を新設し、開発の内製に踏み出した。2015年には運用も北國銀行自身が担う体制になった。
北國銀行はシステムのオープン化やクラウド移行にもいち早く取り組んできた。その理由について新谷氏は、「中規模の地方銀行であるわれわれが顧客に選ばれるには、差別化が必要だからです」と語る。
差別化ポイントの一つとして同行が考えているのが、災害発生時もサービスを途切れさせずに提供することだ。同行はそのための災害対策として、システムのオープン化とクラウド移行を位置付けている。
メインフレーム時代の災害対策は、磁気テープによるバックアップデータを別拠点へ輸送する「なんちゃって災害対策」(新谷氏)にとどまっていたという。新技術の適用が難しいというメインフレームの特性への懸念もあり、「いつまでメインフレームでいくのか」という行内の声が、2015年のオープン化を後押ししたという。BankVisionへの移行に合わせ、同行は東京と大阪を回線で結ぶ災害対策構成に切り替えた。
以上が2015年のオープン化の経緯だ。その6年後の2021年、同行はBankVisionの稼働基盤をクラウドに移す。新谷氏によると、同行がクラウドを選んだ理由は3つある。
「誰ともつながらないから安心だ、という世界はもう存在しないと思いました」と新谷氏は語る。こうして同行は2021年5月、BankVisionをAzure環境に移行した。
ただし、全てがスムーズに進んだわけではない。
同じクラウド環境を共有する他社の負荷が自行の処理に影響する「流れ弾」や、共有ディスクの不調によるタイムアウトが課題として浮上した。北國銀行はシステム資源の増強とチューニング(性能最適化の調整)で問題を解消した。こうして先行事例として洗い出された問題は製品にも反映された。後に続いたBankVisionのユーザーはクラウドに最適化された版で移行しており、障害が少ないという。
「われわれが人柱となって、そこを開拓しました」(新谷氏)
2021年のクラウド移行と同時に、同行は次のマルチクラウド化を視野にパートナーとの協議を始めた。決め手はITガバナンス、つまりITシステムを自行で統制できるかどうかだった。Azureに障害が起きれば、Microsoftの復旧を待つしかない。復旧を自行で判断できない状態を、新谷氏は問題だと捉えた。BankWillでは、Azureに障害が起きた際、自行の判断で30分以内に「Google Cloud」に切り替える。障害時は顧客に謝罪した上で、復旧までにかかる時間を示すことが重要だと新谷氏は話す。
「30分待っていただければサービスは復旧します、と自信を持って言えることが大事です」
クラウド環境で動くBankVisionを利用しながら、なぜ次期勘定系システムを自行で開発するのか。新谷氏が挙げる理由は次の5点だ。
ただし、勘定系システムの内製開発とクラウドネイティブ化を新谷氏が打ち出した当初、現場はすぐには受け入れなかったという。
「『また訳の分からないことを言っている』『そんなのできるわけない』といった声が挙がりました」
内製化に対して表立って反対する従業員こそいないものの、こうした否定的な受け止め方に対し、新谷氏は「クラウド化そのものが目的ではない」として、前述の5つの理由を説明し続けた。
勘定系に踏み出す前には、サブシステムであるインターネットバンキングの内製化を成し遂げた実績もあったが、規模の違いから抵抗感は強かった。「一歩一歩進めていこう」(新谷氏)という説得と並行して、マルチクラウド間のデータ同期といった技術的なテーマは小規模なデータベースを使ったPoC(概念実証)で検証し、段階的に規模を広げた。
それでも半年〜1年ほどは、「勘定系システムを自行で作れるのか」と疑う空気が残っていたが、技術的な課題を一つずつ解消し、2027年1月の本番稼働が見えてくるにつれ、現場の士気は上がっていった。
新谷氏は内製化を「従業員だけで全てのシステムを開発すること」とは定義していない。
「自行の従業員だけで全て開発するのは、正直ほぼ不可能です。私は内製化について、自行の従業員が案件をコントロールできていて、自らの采配で開発できる体制を整えるのが重要だと考えています」
2000年頃に約70人だった同行のシステム部門は、現在は従業員とパートナー企業を合わせて通常時で約380人の体制だという。BankWillのPM(プロジェクトマネジャー)は、アプリケーション開発とインフラ構築でそれぞれキャリアを積んだ課長クラスの従業員2人が務めている。
大規模なシステム刷新では、開発のピークに向けて要員が膨らみ、リリース後に減少する。この人員の増減の波は、通常時の380人で吸収する。足りないスキルとマンパワーだけをプロジェクト要員とオフショア(海外企業への開発委託)で一時的に補う。リリース後にプロジェクトは解散し、外部要員の契約は終了する。保守と運用は約380人で担う前提の体制だ。
高度な技術を持つ「尖った人材」を確保するための手立ても講じている。2019年11月に設立した東京のIT子会社デジタルバリューは、全従業員がフルリモートで開発する開発専門会社だ。「新卒でいきなり年俸1000万〜2000万円といった給与を銀行で出すことは難しい」(新谷氏)ため、異なる給与体系で柔軟に採用するために立ち上げた。主にインターネットバンキングやスマートフォンアプリの開発を担当する。
北國銀行が2007年にアウトソーシングを脱却してから、運用まで自行で担う体制に移行するまでには8年かかった。ただし、新谷氏は、「今なら同じ道のりはずっと短い」とみている。生成AIが現状分析やプログラミングの方法をある程度の精度で回答できるからだ。
「あくまで私見ですが、内製するエリアをきちんと定義すれば、10年もかからない。3年くらいあれば組織が成熟して自前で回せるようになると思います」
具体的な順序としては、最初は開発工程はプロに任せつつ、自社の業務を熟知している従業員が要求定義を握る。そこからプログラミングを含めて自社で担う領域を徐々に広げていく。約380人を一度に集める必要はない。
新谷氏が「最もまずい」と指摘するのが、逆のケースだ。何を作るかを自社で定義できないままSIerに丸投げすれば、社内にノウハウが蓄積されず、SIerの言い値で支払うしかなくなる。これは、約20年前に新谷氏が出向先で抱いた危機感そのものだ。
「われわれのアウトソーシング時代のような、マイナスのスパイラルが始まります」
最後に、ユーザー企業の経営層に向けたメッセージを尋ねたところ、「現在の経営においてITシステムを使わずに実現できることはありませんが、日本では今でもシステムを単なるコストセンターと見る意識が根強い。また、成功している米国企業の多くはITシステムを内製しています」との言葉が返ってきた。
脱ゼロ金利政策により、銀行業界には業績への追い風が吹いている。新谷氏はこうした楽観的な雰囲気に釘を刺す。「レガシーな資産を持っていればいるほど、自分の時代はよくても、次の世代に大きな負債を残すことになりませんか。やらなければいけないことがあるのに先送りするのは、避けるべきだと思います」
(注1)日本銀行「金融機関におけるクラウドサービスの利用状況と利用上の課題について」(2024年1月30日)
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本記事は制作段階でChatGPT等の生成系AIサービスを利用していますが、文責は編集部に帰属します。