「使いやすさあってこそのセキュリティ」という思いを込めたプリンタ開発:高速低コスト、小型軽量だけじゃない
カシオ計算機のカラーページプリンタ「SPEEDIA N3500/N3000」は、A3対応機で世界最小・最軽量クラスを実現しているだけでなく、非接触ICカードを用いて手軽にセキュア印刷を実現できる。開発を担当した、カシオ八王子技術センターの3人の技術者に話を聞いた。
オフィスでのカラー印刷が一般的になってくるにつれ、カラーページプリンタを選ぶポイントが「高速」「高画質」といった印刷性能から、「小型」「軽量」といった設置のしやすさに関連したものへと変わってきた。特にA3対応のカラーページプリンタでは、しっかりしたラックに設置するのが基本で、気軽にデスクサイドに置くようなものでないと言われてきたが、最近では小型軽量化が進みつつある状況だ。
カシオが2006年6月に発売した「SPEEDIA N3500/N3000」は、A3対応カラーページプリンタでありながら設置面積0.318u・重量45kgと世界トップクラスの小ささ・軽さを実現し、その競争をリードしてきた。さらに、フロントオペレーションを実現したことによってメンテナンス時の作業スペースも削減されており、より狭い場所にも設置が可能となっている。
N3500では、オフィスでの新たな印刷ニーズに対応する機能として、セキュリティ印刷が強化されている点も大きな特徴だ。ICカードによる認証を行わない限りスプールされた印刷ジョブが出力されない、というセキュア印刷ソリューションを容易に実現できる。
なお、カシオのカラーページプリンタには小型軽量シリーズと、高速シリーズの2ラインアップが用意されており、小型軽量シリーズであるN3500の評価を受けて、高速シリーズにも改良が加えられた。2007年6月に発売された「SPEEDIA N6100」がそれだ。
これらのプリンタ開発に携わったのは、カシオ八王子技術センター 開発本部 システム統轄部 第四開発部の技術者たちだ。今回は、企画を担当する41企画室の齋藤亨室長と平林宏行氏、そしてメカ開発を担当する43開発室の沼津俊彦室長、以上の3人に話を聞いた。
38%もの“ダイエット”に成功した秘訣
――まずは、N3500/N3000の小型軽量という特徴について聞かせてください。
齋藤 軽さといえば、N3500/N3000は約45kg。以前の機種は約72kgありましたので、およそ38%のダイエットに成功しましたね。
沼津 小型化、軽量化は、企画チームから強いリクエストがあったものです。メカ的にもさまざまな工夫をしましたが、軽くするために全体の部品構成を大きく変更しています。これまで板金で作っていた部品をできるだけ樹脂化、複合化するようにしました。部品点数の比率でいえば、樹脂部品が35%だったのを、約50%にまで引き上げています。
――そうすると、複雑な形状の部品が増えたということになりそうですね。でも、軽くなってもコストが高くつくようでは困るでしょう?
沼津 コストダウンに関しては、中国で生産を立ち上げ、さらに部品の現地調達を増やすことで対応しています。以前のモデルでは、日本で金型を起こしてから中国で生産したケースがありましたが、今回は初めて、当初から中国での生産を立ち上げました。現地調達部品の比率は60〜70%から、90%以上へと高まっています。感光体回りなど、画像を作る心臓部は中国での調達がなかなか難しいのですが、それ以外のほとんどは現地調達にできましたね。
――N3500/N3000も発売から1年が経過し、小ささに関しては他社も徐々に追いついてきました。設置のしやすさに関して、他にどのようなアドバンテージがあるでしょうか。
齋藤 他社のA3対応小型カラーページプリンタでは、まだフロントオペレーションができていないものが多いですね。ですから、机の下に置いたりすると消耗品の交換ができないなど、狭い場所では扱いが不便です。
それに対し、N3500/N3000はフロントオペレーションを実現しており、前面にだけ余裕があれば済みます。机の下の空間に置いたり、空いた棚の中に置いたりと、自由度の高い設置が可能となっています。
タッチ1秒の印刷術
N3500の最大の特徴とも言えるのが、「セキュア印刷機能」だ。プリンタ本体にスプール用HDDとICカードリーダーを装着しておき、セキュリティソフト「SECUREGATE CD」と組み合わせて利用する。FeliCa、Mifare、I-CODE SLIの3種類のカードに対応しており、おサイフケータイでの利用も可能だ。社員証ICカードに使われることの多いMifare、低コストで使い捨ても可能なI-CODE SLIにも対応したことで、多様なシチュエーションに対応できるようになっている。
使い方は簡単。PC上で印刷指示を行う際に、ICカードをかざしておくと、プリンタ側でICカードをかざさない限り、出力されない。
――このセキュリティ機能は、どのような経緯で企画されたのでしょうか。
齋藤 かつて、プリンタといえば単なる出力装置でしかなく、「安く」「速く」というニーズが強かったと思いますが、個人情報保護法やSOX法などの動向を見ていて、セキュリティが大きなポイントになるだろうと考えたのです。実際、紙媒体での情報漏洩が50%にもなるというデータもあるほどです。そこで、安く速くという基本を満たした上で、さらに高度なセキュリティ機能を、何らかの形で製品に入れていこうと企画を進めています。
N3500の企画がスタートしたのは、2003年の夏から秋にかけての頃でした。これまでの製品でも、プリントアウトすると地紋が浮き上がる「コピーガード印刷機能」などをいち早く搭載してきましたが、N3500ではより積極的なセキュリティを可能にしていこうと考えていました。そして、セキュリティを強化すると、とかく使いにくくなりがちですが、そこをより簡単にしていくことも重要だと考えています。
平林 「エコロジー」と並んで「セキュリティ」は、N3500の企画初期から大きなコンセプトの柱となっていましたね。
問題は、どのようにセキュリティを実現していくかという点でした。以前の機種では、ICカードの代わりにパスワードを用いてセキュア印刷を実現したのですが、プリンタ側のオペレーションパネルでパスワードを入力するのが面倒だったようで、なかなか使ってもらえないという課題がありました。
ちょうどN3500の企画をやっている頃、ここ八王子技術センターに新しいビルができ、我々はそこに移ってきました。このビルでは、非接触ICカードになっている社員証を入退室管理に利用しています。このカード入退室が、慣れるとなかなか使いやすいではないですか。そこで、プリンタでも同じように手軽にセキュア印刷ができないかと考えたのです。
使いやすくしてこそセキュリティもエコロジーも役に立つ
――最近ではカードホルダーも工夫されていますよね。例えばカードをすぐ取り出せるようになっていたり、リールがついていて伸ばせるようになっていたり……。
平林 N3500用のカードリーダーは少し傾いています。これは、まさに首から提げたカードを引っ張って、プリンタの上に乗せたリーダーにタッチさせるという想定で、使いやすい角度になっています。
しかし、ICカードを使えるようにするには、いろいろ大変でした。企画のかなり後の方になってから決まったためです。例えば、カードリーダーを接続するためのUSBホスト機能をどうやって搭載するか。省スペース化のため、拡張ボードを搭載するスペースも削ってしまったのですが、なんとか小さな拡張ボードを作って搭載できるようにしました。
齋藤 他社のセキュア印刷ソリューションといえば、認証サーバを立てて管理するのが一般的ですが、我々のN3500/SECUREGATE CDでは、それを使わず、プリンタで認証処理を行うようにしたことも大きな特徴です。余計なサーバを追加せずに済むので、既存環境への構築が容易であり、ソリューション全体のコストを抑えることもできます。
平林 プリンタで認証すると同時にプリンタ内部にスプールしたデータからの出力を開始しますので、カードをかざした後の処理が速いというのもメリットになります。しかし、コントローラのプログラムに後から手を加えてICカードリーダーの制御や認証機能を追加するのも、また大変な作業となりました(笑)。
――しかし、苦労したおかげで、かなり使いやすくなりましたね。
平林 セキュリティという、大上段に構えた話ではなく、もっと身近なところで考えてもらいたいですね。例えば、プリントしっぱなしで紙がいつまでも出力トレイに溜まっていたり、出力した紙が他人のプリントアウトに紛れて紛失してしまったり、そのせいで印刷したはずの紙が見当たらないのでもう一度印刷したり……。そういった無駄をなくすことにも役立つのです。
齋藤 とかくセキュリティというと、面倒だという印象がありますが、今回のセキュア印刷機能は、むしろオフィス環境の効率化に役立つ機能になったと思います。自分のプリントアウトが行方不明になるような事態をなくしてこそ、トナーセーブ機能をはじめとするエコロジー面も引き立つはずです。
今後も、こういった考えから、ユーザーの立場に立ったものを追求していきたいと考えています。そして同時に、よりカシオらしい付加価値をつけていきたいですね。
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提供:カシオ計算機株式会社
企画:アイティメディア営業本部/制作:ITmedia エンタープライズ編集部/掲載内容有効期限:2007年8月5日
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