IT業界の産業革命――クラウドがすべてのビジネスパーソンに与えるメリット:クラウドコンピューティングの実際(2/2 ページ)
「クラウドコンピューティング」はあちこちで聞かれる言葉だが、その意味するところは情報源によって異なるケースも少なくない。本当のメリットを享受するため、クラウドで何ができるかを考えよう。
クラウドコンピューティングはビジネスパーソンに刺さる
Amazon EC2、Google Appsなど、クラウドサービスにはいくつかのメジャーなサービスが出てきていますが、利用者側から見ると、個々のサービス自体には目立つ新技術が使われていない点もクラウドサービスの特徴です。それは、新技術を売り込みたいベンダー視点で生まれた概念(いわゆるシーズ指向、バズワードの元凶)ではなく、市場のニーズから生まれた概念でありサービスである証拠ともいえます。
また、経営者目線で財務的に考えると、クラウドの本質的なメリットが次のように見えてきます。
- 固定費や管理コストを完全に削減できる
- システム部門の負荷が下がる(=人を減らせる)
経営者にとってクラウドコンピューティングの最大のメリットは、設備投資のような固定費を、電気料金のように変動費化して、財務状況を改善できることなのです。ハードウェアを購入してシステムを一度作ってしまったら、投資対効果を上げるにはシステムを使い続けるしか選択肢はありませんが、クラウドなら簡単にシステムの規模を変えられるので、業務処理の生産調整を簡単に実現できます。あまり使わなくなったシステムに、無駄な維持費を払い続ける必要はなくなるのです。
例えば、過去に業界で流行したグリッドやSOAというキーワードは、技術に関心がない人には響きませんでした。しかしクラウドコンピューティングには、上で説明したような「固定費の削減」というすべてのビジネスパーソンに理解できるメリットがあります。分かりやすさはマーケットの大きさにつながり、この点がクラウドの普及に一役買っているといえます。
技術者には「新しい技術に触れる」という楽しみがある
では技術者にとってのメリットがないかというと、そうではありません。例えばAmazonの管理インタフェースで有名なのはElasticfox(Firefoxアドオン)ですが、最近では「Eclipse AWS Tools」のようなEclipseベースの管理インタフェースも出てきており、技術的に熱いジャンルである事は確かです。私もいち技術者として興味を持たずにはいられません。EclipseのGUIからインスタンス(仮想サーバ)がボコボコと生まれてくる様は、なかなか痛快です。統合運用管理や自動化技術、解析ツールなど、今まで大規模システムでしか導入できなかった技術を、中小規模のシステムでも使える(可能性がある)のも魅力的です。
手作業をなくすための技術やツールは今までも存在しましたが、コストメリットを考えると、中小規模のシステム開発では導入できなかったのではないでしょうか。ツールによる自動管理や自動運用により、管理工数が大幅に削減され、現場はかなり楽ができるようになるはずです。
特に次のような運用管理ツールは、導入にあたってのコスト的なハードルが下がり、グッと使いやすくなることが期待されます。
- 運用監視ツール
- 構成管理ツール
- ソフトウェア配布/データ収集
- 性能管理/分析ツール
例えば環境が異なる10サーバの定義を確認するだけで、何時間かかるのでしょう? 1万台の端末ソフトウェアをアップデートするのに何日かかるのでしょう? これらのツールは、ライセンス価格はもちろんですが、構成検討やインストールといった初期導入の負荷を軽減するという視点が重要です。
まとめ
ここまで、エンタープライズクラウドへの期待を記してきました。しかし、想像ばかりでは現実味がありません。次回は、Amazon EC2/3を題材に、エンタープライズクラウドにかかるコストを試算してみましょう。
著者紹介:岡安 一将(おかやす かずまさ)
株式会社NTTデータ 基盤システム事業本部所属。ミッションクリティカルシステム開発を経て、現在はシステム基盤のコンサルティング業務に従事。得意分野は性能評価、得意技は平易な説明と育児。
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