富士通が考えるクラウド・イノベーション:Weekly Memo(2/2 ページ)
クラウドがもたらすイノベーションとは――。富士通が先週、クラウドサービスの概要を発表した際、この点について見解を示した。利用する側にも参考になりそうだ。
クラウドサービスで提供される価値とは
では、トラステッドなクラウドサービスで提供される価値とはどのようなものか。ここは利用する側も押さえておきたいポイントである。
富田氏はこれに対し、「一言でいえば、イノベーションを支える価値創造型のICT基盤を活用できること」としたうえで、次の4点に紐解いて説明した。
まず1つ目は、自社でICTインフラを極力、所有・運用することなく、必要な時に必要な分だけのICTを活用できることだ。仮想化プラットフォームによって、例えば開発環境は小規模で始めて、本番環境では実際の規模にシームレスに拡大していくといったことが、容易に可能となる。料金は利用した分だけ支払えばよく、コスト削減につながる。
2つ目は、新規開発、業務改善のためのアプリケーション開発を迅速・低コストに行えることだ。この点について富士通は、ユーザーの開発に必要な機能を標準部品化し、仮想アプライアンス(VA)またはサービスとして提供していくとしている。これによって、ユーザーは開発工数を大幅に削減し、競争力を生み出すアプリケーション開発に集中することができるようになる。
3つ目は、意識しなくても安心・安全に使え、グリーン化に対応し、運用状況の見える化ができることだ。安心・安全では、セキュアな仮想マシン(VM)、統合監視、端末の認証・認可、ファシリティのセキュリティ対策、仮想環境下での性能の見える化を行うダッシュボード、またグリーン化では、シミュレーション技術によるデータセンター冷却の効率化などにおいて、富士通の技術やノウハウを生かすことができるという。
そして4つ目は、企業ユーザーや現場とのコミュニケーション・コラボレーションを容易にし、フィールド・イノベーションを加速することだ。富田氏によると、トラステッドなクラウド上には金融、製造、流通、医療、行政、放送、通信、交通、教育、防犯など、あらゆるフィールドが存在し、それらがアプリケーションやセンサー・デバイスの連携によってさまざまなコミュニケーション・コラボレーションを起こすことで、フィールド・イノベーションを一層加速することができるというのが、富士通の考え方である。
つまり、クラウド化がフィールド・イノベーションを加速する。富士通の立場で言い換えれば「トラステッドなクラウドサービスを提供することで、フィールド・イノベーションを一層推進することができる」(富田氏)わけだ。これは同社ならではのクラウドに対するビジョンといえる。
フィールド・イノベーションは、富士通が一昨年から本格的に展開している戦略事業である。狙いは、フィールドの構成要素である人とプロセスとICTを「見える化」することによって、改善のさまざまなアイデアを引き出し、改善を続けていくことでビジネスにイノベーションを起こしていくことにある。
その背景には、「ビジネスはICTだけではなく、人やプロセスが一体となって支えている。したがって、ICTの機能や性能だけをいくら追求しても、ビジネスの課題は解決しない」(黒川博昭前社長)という基本認識がある。
富士通は今回、このフィールド・イノベーションとクラウドサービスの関連性を明確にした。ここをさらに「深耕」すれば、もっと斬新なアイデアが生まれそうな気がする。単純な掛け合わせの言葉で恐縮だが、同社の今後の「クラウド・イノベーション」に大いに期待したい。
プロフィール
まつおか・いさお ITジャーナリストとしてビジネス誌やメディアサイトなどに執筆中。1957年生まれ、大阪府出身。電波新聞社、日刊工業新聞社、コンピュータ・ニュース社(現BCN)などを経てフリーに。2003年10月より3年間、『月刊アイティセレクト』(アイティメディア発行)編集長を務める。(有)松岡編集企画 代表。主な著書は『サン・マイクロシステムズの戦略』(日刊工業新聞社、共著)、『新企業集団・NECグループ』(日本実業出版社)、『NTTドコモ リアルタイム・マネジメントへの挑戦』(日刊工業新聞社、共著)など。
関連記事
- 富士通の企業向けクラウドは中小も狙う 3年3000億円規模に
富士通が企業向けクラウドサービスを発表した。数十万台規模の仮想サーバからサーバなどの機能を提供する。関連するシステムインテグレーション事業も強化し、3年で3000億円の売り上げを目指す。 - 富士通、急速な市況悪化受け減収減益――2010年度見据えた手当て進める
富士通は4月30日、2008年度決算を発表した。 - 富士通 黒川社長が「フィールド・イノベーション」を説く理由
今回は、富士通の黒川博昭社長が5月15日に「富士通フォーラム2008」で行った基調講演から、同氏が最重点戦略に掲げる「フィールド・イノベーション」の真髄に迫ってみたい。 - 富士通、SaaS事業を強化 4年で3000億円狙う
富士通はSaaS事業を強化する。柱となるのは、顧客が特定の範囲でSaaSを使えるようにする「プライベートSaaS」への取り組みと、業務アプリケーションの拡充だ。 - プライベートクラウドはコスト削減をもたらす「魔法の杖」――IBM
企業内の情報システムをクラウド化する「プライベートクラウド」を推し進めるサービスを日本IBMが発表した。情報システムの基盤となるITインフラをクラウド環境にすることはコスト削減に効くとアピールし、迫り来るクラウド時代に備えたシステム構築を支援する。
関連リンク
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.