プライベートクラウド構築に向けて――踏むべき手順と外せない要点:システム構築の新標準(2/2 ページ)
プライベートクラウドを実際に構築する場合、ITリソースの統合や運用プロセスの標準化、業務プロセスの共有化など、乗り越えるべき課題は多い。本稿ではプライベートクラウドを整備する際に踏むべきステップと外せないポイントを紹介する。
プライベートクラウドの構築、運用におけるポイント
次はステップ1〜3を実践するに当たり、克服しておくべきポイントを説明する。
ポイント1――リソース全般の仮想化が必要
ITリソースの統合と共有(ステップ1)の対象は、サーバだけではない。単にサーバを仮想化しただけでは、ITリソースの効果的な統合と共有は実現しない。
特にネットワークについては、真剣に考えておきたい。さまざまなITリソースが仮想化された状態で、負荷分散を実施したり障害が起きたりすると、仮想化されたITリソースが物理筐体上を移動する。それに伴い、ITリソース間のネットワーク経路にも変化がおよぶ。そのため、ネットワーク機器には、物理的な筐体や配線を変えずに接続経路を変更できる仕組みが求められる。
プライベートクラウドを構築するための最初の一歩はサーバの仮想化だが、初期の段階でストレージやネットワークなどの仮想化を視野に入れておくことが肝要だ。
ポイント2――仮想化環境に対応した統合的な運用管理の仕組みを整える
サイロ化が進んだ情報システムは、部門ごとに個別で運用管理される場合が多い。この「分散管理状態」を放置したままでITリソースを仮想化すると、仮想化レイヤーが加わった分、運用管理が繁雑になる恐れがある。物理的なITリソースを必要以上に意識せずに、仮想化環境を統合的に管理できる仕組みを整えることが重要だ。
運用管理の統合アプリケーションを提供するベンダーは、仮想化環境への対応を強化している。こうしたアプリケーションを既に導入している、もしくは導入を検討している企業は、それが仮想化環境に対応しているかを調べておくといいだろう。
ポイント3――業務プロセスの共通/共有化に取り組む
業務プロセスの共通/共有化は、最も重要でありながらも、意外に見落とされがちだ。プライベートクラウドの標準化(ステップ2)や自動化(ステップ3)を進めるには、情報システム側の整備だけでは不十分だ。実際に情報システムを利用するユーザー側の業務プロセスの整備が欠かせない。
パブリッククラウドが柔軟なスケールメリットを提供できるのは、利用者に一定の制限を設けることで、クラウド提供側が一貫した運用管理のプロセスを維持しているからだ(制限の多くは、ITリソースを抽象化し、直接操作できなくすることで実現している)。
これはプライベートクラウドにも当てはまる。各部署や拠点が業務プロセスをバラバラに定義し、それぞれのルールで勝手に運用しても、統合化/共有化されたITリソースを有効に活用できない。そればかりか、ITリソースの活用において不整合を起こすことにもなりかねない。業務プロセスの共通/共有化は、情報システムを利用する各部門を巻き込むため、実現の難易度は非常に高い。
だが、ガバナンスの維持を放置したまま情報システム面だけを整備するのは危険だ。システムの運用管理における問題や苦悩を、仮想化環境の上でも再び味わう可能性が高くなるので注意が必要だ。
本稿では、プライベートクラウド構築において踏むべきステップと考えておくべきポイントを紹介した。プライベートクラウドでは仮想化などの技術的な側面に注目が集まりやすいが、運用管理の仕組みや業務プロセスの共通化までもきちんと考えておくことが必要だといえる。
著者紹介:岩上 由高(いわかみ ゆたか)
ノークリサーチのシニアアナリスト。早稲田大学理工学部大学院数理科学専攻卒。ジャストシステム、ソニー・システム・デザイン、フィードパスなどを経て現職を務める。豊富な知識と技術的な実績を生かし、各種リサーチ、執筆、コンサルティング業務に従事。著書は「クラウド大全」など。
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