日本オラクルは7月16日、企業の情報システム構築における新たな手法として注目されているプライベートクラウドへの取り組みを紹介する記者ブリーフィングを開催した。仮想化やグリッドといった技術を用いてデータセンターを構築することの利点を強調した。
日本オラクルの常務執行役員でシステム事業統括本部長を務める三澤智光氏は「大規模集中化した情報システムをシェアして使いたい――こういったITへのニーズを象徴的に表現したものがクラウドコンピューティングだ」と話す。
クラウドコンピューティングという言葉は次世代の情報システムが進む方向性を示しているに過ぎないという。今後やってくるクラウド時代には、情報システムはさらに大規模化する見通しであり、それを共有して効率良く使う新たな利用形態が望まれる。クラウド時代の情報システムを支えるのが、次世代データセンターで必要となる技術だとする。
この次世代データセンターを実現していく上で1つの重要なキーワードとなるのが「仮想化」である。しかしながら、現状で仮想化というと、ほとんどの場合はサーバレイヤーの仮想化ばかりが話題となり、それだけではじつはクラウドコンピューティングは実現できないと三澤氏は断言する。
「サーバ仮想化などの物理層の上にある論理層の仮想化まで取り組んでいるベンダーはOracleしかいない」(三澤氏)
サーバやストレージ、ネットワークなどのハードウェア部分の仮想化だけでなく、その上の論理的レイヤー、つまりはデータベース、ストレージ、アプリケーション実行環境、アプリケーションに至る部分まで仮想化する。これをOracleではグリッドと呼んでおり、クラウドコンピューティングを実現するにはこのグリッドの技術が必須だと主張する。
クラウドコンピューティングでコストや運用管理の手間削減の利点を生み出す考え方に「マルチテナント」がある。
「マルチテナントを実現するために、複数サービスの展開を1つのデータベースで利用できるのはOracle Databaseしかない。これも次世代データセンターを支える上では他社にない大きな優位性だ」と三澤氏は強調している。
次世代データセンターの10の要件
日本オラクル システム事業統括本部 データベース製品ビジネス推進本部 プラットフォーム・ビジネス推進部 シニアディレクターの入江宏志氏は「現状、クラウドコンピューティングの定義は人によって異なる」と指摘する。クラウドはこのように人によって定義もバラバラで、まだまだ混沌とした世界だと説明する。
とはいえ、クラウドコンピューティングにアジリティ(俊敏性)というメリットがあることは共通認識とのこと。ハードウェアやネットワークを自ら用意してシステムを作り上げるよりも、クラウドコンピューティングならばはるかにすばやくシステムを利用できる。サービスを利用し始めるときだけでなく、利用を止めるときにもこの俊敏性というメリットは発揮されるのである。
もう1つがコストメリットだ。特に、初期導入時のコストがはるかに小さく抑えられるのがクラウドコンピューティングの特徴だ。だが、最近では、セキュリティ面での不安などのデメリットも指摘されている。
QoS(Quality of Service)と表現されるサービス品質の問題もある。既存のSaaS(サービスとしてのソフトウェア)などのサービスでは、可用性に関する保証規定はあっても「パフォーマンスの保証まで規定しているサービスはほとんどない」と、入江氏は指摘する。クラウドサービスが自社のビジネスに適合するかとどうかといった懸念もある。
クラウドのデメリットを克服するために、最近では新たにプライベートクラウドという形態も出てきている。重要なのは「自社運営かアウトソーシングかを問わず、大規模なデータセンターに基幹系システムなどのプラットフォームが集約されていく」こと。それをいかに安全かつ効率的に運用できるかが、クラウド時代の次世代データセンターに求められていると入江氏は言う。
入江氏はいわゆるアウトソーシング型のクラウドコンピューティング、言い換えればパブリッククラウド実現に必要な要件として、Scalability(拡張性)、Availability(可用性)、Consistency(一貫性)、Cost(コスト)、Agility(俊敏性)の5つを挙げる。ASPやSaaSのサービスならば、この5つの要件を満たせればなんとかなる。
ところが、実際に企業のITシステムを運用するには、これに加えQoS(サービスの品質)、SecurityとCompliance、Consolidation(統合)、Monitoring(監視し可視化する)、Automation(自動化による運用の負荷軽減)という新たな5つの要件も満足できなければならないという。これらを満足させるにはプライベートクラウドを採用するしかなくなってくる。この10の要件すべてを満足することが次世代データセンターの技術であり、すべて提供できるのがOracleのソリューションだと入江氏は主張する。
逆に言えば、これらの要件を満たしていれば情報システムの形態はどれでもいいということになる。オンプレミスでもクラウドでも、あるいはアウトソーシングでもかまわない。どれかだけに集約するのではなく、ポートフォリオを考慮し環境や要望の変化に応じ形態は選べばいいのだ。
むしろ重要なのはポータビリティ。移行が容易に行えるかどうかだ。「例えば、利用するSaaSの事業者の永続性に不安はないだろうか」と入江氏。仮に事業者がサービスを止めてしまった場合、そこで利用していたシステムはどうすればいいのか。簡単に移行できるのか。ポータビリティは、クラウドのサービスを選ぶ際の重要なポイントだと指摘する。
Oracleでは、CRMやBeehiveなど自身がクラウドのサービスも一部提供はしているが、基本的には「Oracle自身がクラウドのサービスを提供するというよりも、顧客のクラウドコンピューティングを支援する立場だ」と入江氏。そのために次世代データセンターに必要な10の要件すべてに対応できる製品やサービスをすでに提供している。例えば、いち早くAmazon EC2のクラウドサービス上でOracleデータベースを利用できるようにするといった活動も行っている。
論理層までグリッド化
日本市場のように成熟した企業が多い場合、既存システムを一足飛びにプライベートクラウドや、パブリッククラウドに移行することは不可能だろう。まずは散在しているシステムを、仮想化などを用い統合し、標準化して初めてクラウドへとステップアップできる。いずれにしても、一部はオンプレミスのまま残る。効率を考えパブリックとプライベートを使い分けるという運用形態になるかもしれない。
大規模化し、集約して効率を上げる際にも、臨機応変にシステムインフラを使い分ける――日本オラクルはこれが次世代データセンターの運用の姿だと主張した。
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