米IBM、ビジネス分析機能をクラウド化
IBMは、ビジネス分析用のプライベートクラウドコンピューティング環境と、顧客企業が自社用のプライベートクラウド環境を構築するためのソリューション「IBM Smart Analytics Cloud」を発表した。
ビジネス分析用の米IBMの新しいプライベートクラウド環境は、分析技術をめぐるIBMの総合的戦略の現時点での頂点とみなすことができる。
IBMは11月16日、ビジネス分析用のプライベートクラウドコンピューティング環境を発表した。これは同社内に構築され、1ペタバイト以上の情報を扱える。この情報量は、4つの引き出しに書類が詰まったファイリングキャビネットで2000万台分(積み重ねると地球1周分の長さになる)に相当するという。社内プロジェクトの成功モデルを顧客と共有すべく、IBMはこのアーキテクチャをベースとして、顧客企業が自社用のプライベートクラウド環境を構築するためのソリューション「IBM Smart Analytics Cloud」も発表した。
IBMの説明によると、IBM Smart Analytics Cloudは、簡単に利用できるビジネスインテリジェンス(BI)サービス、システムおよびソフトウェアで構成され、共有BIサービスを個別業務および各部署に効率的に提供するための環境を構築できるという。IBM社内に配備されたAnalytics Cloudが、このソリューションのテンプレートとなっている。IBM Smart Analytics Cloudの主要な機能は以下の通り。
- IBMサービス――顧客企業がBI戦略を転換し、投資利益を素早く実現することを可能にする。プランニング・戦略セッション、Smart Analyticsクラウドソリューションの導入と実装、企業用クラウドの最適化などの手段を活用する
- IBM Cognos 8 BI――クラウド用のBI機能を提供することにより、業務実績の監視、トレンドの分析、成果の測定のためのリポート、分析、ダッシュボード、スコアカードなど広範なBIサービスを実現する
- IBM System z――クラウドの基盤を支えるシステム。業界をリードする仮想化技術のz/VMを利用する。効率的な“スペシャリティエンジン”上でLinuxを動作させ、復元性に優れたセキュアなマルチテナントオペレーションが可能な大規模システムを実現する
IBM幹部の中には、同社の分析戦略における分析クラウド技術の位置付けとして“頂点”という表現を用いるのをいやがる人もいる。この分野では、IBMはほかにも計画していることがたくさんあるからだ。
「“頂点”という言い方は、ほかに何もないように聞こえる。来年の前半には、この分野で多くの技術が登場する。とはいえ、今回の発表が最近の一連の企業買収の成果であることは確かだ」とIBMの広報担当者は語る。
実際、IBMがCognos、RedPill Solutions、SPSSなどの企業を買収したことで、同社のビジネス分析技術のポートフォリオが強化された。だが同社の取り組みはまだ終わってはいない。IBM幹部によると、同社は今後も買収と自社開発を通じて、この急成長中の市場セグメントで優位を確保するつもりだという。
IBMソフトウェア部門でビジネス分析とプロセス最適化を担当するジェネラルマネジャー、アンブジュ・ゴヤール氏は「これは当社の方向性だ。単なる発表ではない。われわれにとって、これは旅なのだ」と話す。
ゴヤール氏は、IBMでBIと分析関連の買収の責任者を務める。「これは、60億ドルに上るIBMの研究開発予算を結集して当社の総合的なミッションを推進するという取り組みの実例だ」と同氏は説明する。
ゴヤール氏によると、例えばSPSSは、IBMに買収される前は、予測分析の分野で20年の経験を持つグローバルリーダーだったという。
IBMで情報管理製品のワールドワイドマーケティングを担当するデイブ・ラバーティー副社長は、「顧客企業が情報を軸とした改革を推進するのを支援するために、IBMは全社を挙げて取り組んできた」と話す。同氏によると、IBMは情報管理ソフトウェアの分野に100億ドル以上の資金を投入し、全世界で4000人以上のビジネスサービス分析コンサルタントを抱えているという。
「IBMが分析技術に投入している時間、労力、人材、資金は圧倒的だ」とゴヤール氏は話す。IBMによると、同社が分析技術をクラウドに対応させることができたのは、IBMリサーチ部門の功績も大きいという。
IBMソフトウェア部門の上級副社長兼グループエグゼクティブを務めるスティーブ・ミルズ氏は「当社の顧客の間では、業務最適化プロジェクトへの投資が業務自動化のための投資の2倍を上回るペースで伸びている」と話す。分析技術は、IBMの業務最適化の取り組みで重要な役割を果たしているという。
ミルズ氏によると、IBMの取り組みに3つの方向性があるのに気付いたという。ワークロード最適化コンピューティング、ワークロード最適化システム、そして簡素化された統合型インフラストラクチャだ。さらに同氏によると、分析ワークロードには、検索とクエリ、予測分析、リスク分析などの要素が含まれる。
一方、IBMの顧客は、分析技術をめぐる同社の取り組みを歓迎しているようだ。
米Blue Cross and Blue Shield Associationで業務情報と医療情報を担当するシャーリー・レディー副社長によると、医療業界が抱えている2つの大きな課題は、医療コストを抑制することと医療の質を維持することだという。
「分析機能は両方の課題の解決に役立つ」と同氏は話す。
「われわれは設備利用率や病気の流行など、さまざまな傾向に注目している」とレディー氏は話す。「当社ではADAMと呼ぶ分析データマートを利用している。分析機能を追加した後で、不正検出機能をシステムに組み込み、不正なデータを見抜けるようにした」
米デパートチェーンのDillard'sのデータマイニングアーキテクトでエンタープライズソリューション部門のマネジャーを務めるメロディー・プレイフォード氏によると、Dillard'sでは分析機能が必要なプロジェクトを幾つか抱えているという。「今日の経済状況では、業績不振の店舗の閉鎖を検討する必要がある。どの店舗を閉鎖すれば会社と顧客ベースに与える影響が最も少ないかを判断するために、われわれは各店舗の業績に注目する一方で、顧客がほかの店で購入しているかどうかに注目した」と同氏は話す。
「ユーザーは将来に何をすべきかを見極めるために履歴データを分析している」とゴヤール氏は話す。
クラウド戦略と分析機能に関して、IBMのミルズ氏は「われわれは、顧客企業にとって機密を要する重要な情報を保存するプライベートクラウドモデルを構築している。しかし、パブリッククラウドとプライベートクラウドの情報を組み合わせる一種の複合方式にも可能性がある」と話す。
ゴヤール氏は分析技術に対するIBMの取り組みについて、「情報からビジネス価値を引き出すことが目的だ」と説明する。「情報を戦略的資産として扱うためには、業務改革プロジェクトを実施する必要がある。それを支援するために、われわれはコンサルティングに基づくサービス製品を構築する必要があった」
IBMは2009年4月に、分析コンサルティングサービスを発表した。
このサービスの発表会で、IBMグローバルビジネスサービス部門のフランク・カーン上級副社長は「当社の顧客は、これまで以上に俊敏性に加えて的確性が求められる厳しい競争環境にいることを理解している。この状況に対応するためには、“察知して対応する”という従来のコンセプトを超えたものが必要だ。ビジネスの意思決定を迅速化し、意思決定がもたらす影響を把握し、結果を正確に予測する必要性が高まっているのだ。つまり、新たなレベルのエンタープライズインテリジェンスに移行するということだ」と語った。
さらにIBMは分析技術の利用を促進するために、先進的な分析センターを世界各地に開設している。最近では、ワシントンD.C.に分析センターを開設した。同社はこのセンターについて次のように述べている。
「ワシントンD.C.に開設された新しいIBM分析ソリューションセンターは、400人以上のIBMプロフェッショナルの専門知識によって支えられる。これらのスタッフには、IBM研究者や先進的ソフトウェアプラットフォームのエキスパートに加え、運輸、公共サービス、公衆安全、顧客管理、税関・国境管理、売り上げ管理、防衛、物流、医療、教育などの分野で深い専門知識を持ったコンサルタントが含まれる。IBMでは、需要の拡大に伴い、再訓練あるいは新規雇用を通じて、さらに100名のプロフェッショナルを追加する予定だ」
ワシントンのIBM分析ソリューションセンターのほかに、IBMはこれまでに5カ所(ニューヨーク、ダラス、ベルリン、北京、東京)に分析ソリューションセンターを開設した。
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