クラウドコンピューティングの本質:伴大作の木漏れ日(3/3 ページ)
クラウドは、過去に何度か登場したシステムとは完全に別次元のものだ。情報システム部門が生き残る唯一の方法は、クラウドに積極的に取り組むことである。
コンシューマーコンピューティングは企業の情報システムをしのぐ
「エンタープライズクラウドのように、クラウドを高性能で安価なコンピュータの1つとして定義するマスコミや企業の情報システム部門の意識が問題だ」。僕の指摘について、多くの経営者もこれに気付いている。
情報システム部門の多くは依然として、SNSやブログ、公的機関の情報開示、iTunes Store、Google、Amazon、Twitterなどのサービスを「Web2.0症候群」ととらえており、コンシューマー向けサービスだと考えている。
しかし現在は、多くのサービスがクラウド上で動いている。クラウドはトランザクション処理のコストを劇的に引き下げている。サービスの遮断やセキュリティの細かな事故はあるものの、情報漏えいのような大きな出来事は今まで聞こえてこない。
クラウドの実力は情報システム部門が考えているより頑健であり、コスト削減効果も大きい。IT戦略を考えるべき経営者は、この事実を認めなければ失格だ。クラウドに疑問を抱いている情報システム部門には、「クラウドの現実を直視しなさい」というメッセージを送らざるを得ない。
老化する企業システムを救うクラウド
企業システムはおよそ50年の歴史を重ねており、基幹系/情報系/OA系/Web系/製造系/物流系/技術系/開発系などに細分化されている。これらのシステムの多くは、増築を重ねた温泉旅館や無秩序にスプロール化したスラム街のようになっている。
仮に、スパゲティ化した情報システムをアプリケーションごとに再構築する場合、情報システム部門や経営者は、新たに構築したシステムに費やす時間や費用に加え、正常に稼働するかどうかも考えなければならない。再構築について足踏みするのは当然だ。
一方、企業システムやアプリケーションの多くは、業種ごとにどれも似たり寄ったりである。つまり、ほとんどの企業は幾つかのテンプレートを作れば、業務を当てはめることができる(自分自身、SOAの概念と同じだと驚いている)。つまり、SaaS(サービスとしてのソフトウェア)によるサービス化やクラウド化が可能なのだ。
実用的な「業種クラウド」があれば、そこに組み込める部分はクラウドに任せ、それ以外の部分だけを再構築する。これがシステム構築における最も賢明かつ現実的な解決手段になりうる。
情報システム部門の生き残る道
多くの経営者は、売り上げの伸び悩みに苦悩している。あらゆる経費を削減対象とする中で、自社の情報システムの必要性に疑問を持ちはじめている。
以前、ある企業から「どうしてわが社のシステムはGoogleのようにさくっと動かないのでしょうかね」という相談を受けたことがある。彼は、大枚をはたいて構築した自社システムより、無料サービスを活用したシステムの方がパフォーマンスが明らかに勝っていることに気付いている。
クラウドは、情報システムに対する疑問を打開する切り札になりうる。情報システム部門は「先輩達が組んだシステムなので、われわれが下手にいじったらシステムが動かなくなるかもしれません」と本音を言った瞬間に、経営者からの信頼を失うだろう。
情報システム部門の予算は一般に売上高の2%程度と言われている。売り上げが伸びない今、経営者にとって情報システム予算の圧縮も視野に入れざるをえない。よほど特殊なアプリケーションやニッチで誰もSaaS化しないシステムでない限り、クラウドに積極的に取り組むことは、情報システム部門が生き残る唯一の方法なのだ。
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