JP1、アジアでの10年、そしてこれから:海外進出する日系企業に向けて
アジア各国の急伸によりグローバル市場が新たな局面を迎える折、日系企業が海外展開を加速させている。企業がグローバル化を進める上で常に課題となるのが海外拠点でのシステム運用管理だ。日立JP1のアジア市場における取り組みを聞いた。
(このコンテンツは日立「Open Middleware Report vol.52」をもとに構成しています)
グローバル化を差し迫った課題と考える日本企業
国際協力銀行(JBIC)が発表した「わが国製造業企業の海外事業展開に関する調査報告」によると、海外事業を強化・拡大するとしている国内の企業は66%で、その有望国として中国(74%)、インド(58%)、ベトナム(31%)などを挙げている。また、国際競争力維持・強化のために重要な国内外での取り組みに関する設問では、新製品の開発(52%)、調達部品・原材料などの原価低減(43%)に続き、海外生産の拡大(41%)が3位に上昇するなど、さらなるグローバル化推進を検討する企業が多いことが明らかとなっている。
このようにグローバル化が年々進む中、日立製作所(日立)は海外進出する日系企業を長きにわたり「JP1」によってサポートし続けている。
アジアで10年目を迎えたJP1
日立はアジア地域でのJP1販売・サポートのため、1989年にHAS(Hitachi Asia Ltd.)シンガポールに、マレーシア、タイ、フィリピン、インドネシア、ベトナムを販売地域とした東南アジア拠点を開設。そして中国には2002年からHISS(Hitachi Information Systems(Shanghai)Co., Ltd.)にJP1専門部隊となる「SBD」(SoftwareBusiness Development Division)を置き、上海(SBD-SH)、北京(SBDBJ)、深セン(SBD-SZ)と、次々と沿岸部の経済圏をカバーしてきた。
「JP1がアジアに本格展開し始めたのは2000年からで、今年で10年目を迎えます。東南アジア、中国、そして2009年にはインドと順次拡大し、日系企業の海外展開に合わせて現地でJP1の販売・サポートを進めてきました。現在までの海外での利用企業はおよそ1300社、数千台以上の規模で利用されているお客さまもいます」と語るのは、ソフトウェア事業部システム管理ソフトウェア本部でJP1グローバルビジネスセンタのセンタ長を務める鈴木友峰氏だ。
JP1拡大のきっかけとなったのは、J-SOX対応だった。「海外現地法人にも本社同様のコンプライアンス対応が求められるようになったことで、2007年ごろから情報資産管理ソフトウェアとしてのJP1の商談が急増しました。時期的には金融危機と重なっているにもかかわらず、2010年前半には過去最高の売上を達成するまでになっています」と鈴木氏はその変化を説明する。IFRS(国際財務報告標準)適用の動きとも相まって、コンプライアンス対応は日系企業でも現地企業でもますます本格化していく見込みだという。
生産拠点から販売マーケットへと変貌する中国
今、中国は米国をはじめとした主要各国からの人民元の切り上げ圧力と政府による内需拡大振興策によって、世界最大の生産拠点から販売やサービスの一大マーケットへと変わりつつある。
携帯電話人口だけを考えても中国には7億ユーザーが存在すると言われ、今後は通話以外のさまざまなネットビジネスが展開されると考えられる。そこには、従来のような生産管理ではなく販売管理や顧客管理などの新たな需要が増加し、大規模なデータセンターの建設ラッシュや、企業のミッションクリティカルなプライベートクラウドの構築が急増していくと予測する鈴木氏は、「まさにこれからがJP1をさらに活用してもらうチャンス」と考えている。
海外版JP1は2010年初めにV9へのバージョンアップを完了している。実行性能や操作性を向上させたジョブ管理ツール「JP1/Automatic Job Management System 3(JP1/AJS3)」、仮想化環境への機能が強化されたサーバ稼働管理ツール「JP1/Performance Management(JP1/PFM)」などを、クラウド環境に混在する物理サーバと仮想サーバの管理に必要なツールとして提案していくという。
また、それと並行して、販売パートナー、テクニカルパートナー、ソリューションパートナーと協力し、JP1と連携するハードウェア/ソフトウェアやテクニカルサービスなどの提案も行うとしている。
「日本の国内市場は安定期へと移行し、ビジネス成長を加速させる道を海外に求めなければならない時代になっています。日立はJP1の海外専門担当者90人ほどで、世界各国で現地化したサービスを行っていますが、売るものがJP1だけではもったいない。現地で一緒に提案していけるパートナーの賛同もお待ちしています」と鈴木氏は言う。
JP1専門ラボ設置により現地化に対応
海外では価格、信頼性、スピード、使用環境などへの要望が日本と必ずしも同じではないため、現地のニーズに合わせた(現地化した)状態でJP1を利用できるようにすることが不可欠。そのためには現地のニーズを直接把握しやすい場所でローカライズやソリューション開発を実施することが重要である。
その布石の1つが、中国・北京で運用を年々強化しているJP1専門のラボである。日立の研究開発組織をベースに現地の優秀な人材を採用し、日系企業・中国企業へのさらなる普及や政府系機関への浸透もめざす。「中国ではIT市場が成熟しておらず、海外からの玉石混淆の製品が流入し、必要十分な機能で安く提供しなければならない場合もあります。JP1を活用していただくために、現地にラボを設置して、独特の商習慣や法制度を考慮してソリューションを提案していける体制を整えています」(鈴木氏)
同様に、インドではサポートセンターを設立する計画もある。1997年から日立と協力関係にあるインド・ムンバイの大手ITサービス企業、パトゥニ・コンピュータ・システムズ・リミテッドと連携し、インドおよび中東地域に進出した日系企業やインド企業に対し、JP1を適用した運用管理システムの構築、オンサイトサポートを共同で推進する予定だという。
「JP1の部隊には海外提供当初からかかわっているベテランスタッフが多く、サポートに必要なスキルや経験の蓄積も豊富です。日立が世界に誇るサービス品質や改善のプロセスなど、サポートのノウハウを集中して教育しているので、安心してお任せください」と鈴木氏は自信を覗かせる。
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