【新春鼎談】この時代に働くということ:2012年 それぞれの「スタート」(5/5 ページ)
混沌とした社会において、われわれはどのように働き、生きていけばいいのか。リビングワールド代表で、働き方研究家の西村佳哲氏、「東京R不動産」の創業メンバーである馬場正尊氏および吉里裕也氏が、進むべき新たな方向性を示した。
ただ仕事をもらうだけのリスク
西村 会社辞めてデザイン事務所を始めたとき、デザインの請負だけではなく、メーカーポジションで商品を作って販売していこうとしたのは、クライアントから仕事をもらうという形でしかビジネスを成立させられないというのはまずいと思ったからです。
会社から仕事をもらうことしかできないリスクを何とかヘッジしたいという気持ちがあって、私は会社を辞めるという選択をとりました。その視点に立つと、会社勤めの人はリスクヘッジのしようがありません。お金を貯めるくらいしかない。ただ、お金はただの約束だから、いつ価値がなくなるか分かりません。そうした環境の中で、極端に強いアビリティを発揮していくしかなくなってしまう。
正直なところ、経済成長という点でいえば、大きな会社の大半は本来の目的を達成しているといえるでしょう。これまで企業が何をしてきたかというと、経済成長を通じて福利を達成しようとしてきました。福利=ウェルビーイング(well-being)とは、自分が生きていることをどれだけ肯定的に評価できるか、ということを示します。そのために経済成長が役に立った時代が確かにありました。しかし、これ以上の経済成長は求めようのない時代が来ています。
そうした中、生きてくために必要なこととは何でしょうか。僕らがより生きていくことを可能にする仕事が世の中にたくさんあればいいと思います。生きていくためにはお金が必要だという考え方をする人がいます。でも、お金というのは、希少性があることで価値を担保しているので際限があるため、どうしても奪い合いになる。あるいは、ほかの人を出し抜く動きが生じやすい。大きな会社はそのようなことばかりやっている気がします。
生きてくためにお金が必要だという考え方はその通りなんだけど、それがすべてではありません。生きていくためには関係がいる、という考え方もあります。関係は際限なくいくらでも増えます。希少性によって担保されているわけではありません。将来の光は確実にそちらにあると思います。お金と関係の必要性のバランスを見事に実現しているのが、東京R不動産という組織の良さではないでしょうか。
馬場 僕らにもほかの選択肢は多くありました。過去には東京R不動産を売ってくれと言ってきた企業もありました。もっと企業規模を大きくしていくことも可能だと思いますが、積極的に行っていません。他人を出し抜こうと思ってないし、競争しようとも思いません。それはメンバー全員に共有されていて、問題になったこともありません。
では、何のためにこの組織が存在しているのかというと、社会のルールに正当に従いながら新しいチャレンジをして、面白いことを成し遂げることをモチベーションにしているからです。
吉里 僕らにとって経済成長というのは売り上げです。売り上げの設定がゼロということはもちろんありませんが、倍々ゲームを目指すというのはとっくに放棄しています。売り上げを倍にするために、極端に言えば、やりたくないことをやるということはありません。
お金にまったく興味がないというわけではありませんが、ただ存続だけを目指すのは面白くありません。まだやりたいことはたくさんあるし、働いているメンバーもいるのです。彼らが東京R不動産のエネルギーそのものなのです。当社は給料がいいというわけではないので、彼らのモチベーションを上げることとのバランスを常に考えています。
馬場 ただ、たくさんの人たちの幸せにかかわることを皆で話し合って、ああでもない、こうでもないと修正しながらバランスをとっていくような作業は楽しいものです。悩みを話し合いながら物事を決めていくという感覚は新鮮で、会社にいたときも、自分一人で設計事務所をやっているときにもありませんでした。毎回かなり大変だけど、後で振り返ると良い時間を過ごしているなと実感しています。
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