データ活用の本質が問われている 富士通・川妻常務:2013年新春特集 「負けない力」(2/2 ページ)
ソーシャルデータから新ビジネスを生み出せ――ビッグデータ活用例の1つだが、富士通の川妻庸男常務が着目するのは、より本質的な点であり、技術立国・ニッポンが負けないための源泉にもなり得るものだという。その「本質」とは何か?
人やモノの数だけ必要
―― 年始にSI事業での新方針も打ち出されました。
この方針は、ビッグデータ活用にみられるようなお客様の変化に対応していくためのものです。例えば、さまざまな家電製品が全てネットワークにつながるようになると、これをコントロールできる仕組みを入れなければなりません。製品ごとに担当者が個別に開発するわけにはいかないでしょう。企業のIT部門に新しい役割が生まれています。
当社の農業クラウドのサービスのケースでは野菜をどう美味しく作るというところからスタートして、次にミカンに挑戦しました。ミカンが美味しくできるコツは「水」でして、水が多すぎると甘くなく、やや少ない方が甘くなると、分析から分かりました。そう考えると、野菜だけでも相当な数の種類があり、果物も加えるとさらに膨大になります。美味しく作るためのアプリケーションがその数だけが必要になってくるわけですね。
これから必要とされるアプリケーションの種類は、現在の1000倍から1万倍になるかもしれません。富士通は、以前からこういう方向性になるだろうと考えてきましたし、今はビッグデータがそれに当たります。ビッグデータは、その解析結果を人に接するアプリケーションにフィードバックすることで初めて役立つ存在になるので、人やモノの数だけアプリケーションのニーズがあるということです。
そのためには、今までのIT部門を中心としたお客様との関係に加えて、経営部門や業務部門といった方々ともこれまで以上に密な関係を築いていかなければならないと考えています。
―― 人材面ではどう強みを打ち出していきますか。
1つはキュレーション技術です。数学者にしかできない技術からスタートしますが、それをある程度体系化し、システムエンジニアのスキルとして広げていく取り組みを進めています。もう1つはコンサルティングであり、これまでは「フィールドイノベータ」と呼ばれる人材がお客様の中に入って課題解決の支援に当たってきました。従来はシステムエンジニアの領域と分かれていましたが、これを一体的にできるようにしていきます。お客様の企業内でも業務部門とIT部門が一体となって活動されるケースが増えていますので、富士通としても一体化して取り組まなければならないと考えています。
―― ビッグデータによって、人間の経験や知識といったものが次々と可視化、体系化されていくのでしょうか。
将棋ソフトのケースですが、実は2005年に将棋ソフトが非常に強くなりました。それまでは将棋に強い人がプログラムを作成していたのですが、その時のパラメータは約500種類です。ところが、コンピュータでプロ棋士の手法を解析すると、パラメータが9000万種も作成できてしまいました。人間が経験や勘、度胸でしていたことをコンピュータが変えてしまったわけですね。
お客様企業の業務システムにはプロフェッショナルな方がいます。その成果はプロフェッショナルをどれだけ抱えるかによって決まるでしょう。しかし人間は、自分がなぜそのようにしたかのを、全て説明できるわけではありません。企業は、ビジネスプロセスやモノづくりを客観的なデータに基づいてできるようにしたいと本質的に考えています。
日本の製造の現場には、後継者がいなくなるという恐怖感があります。ですから、一生懸命に後輩を育成しようと努力していますが、プロフェッショナルな人から見ると、自分の同じレベルに達することができると思える後継者はあまりいないと感じています。ビッグデータの活用は、「コンピュータで何とかできるんじゃないか」という期待でもあるわけです。
先ほどの「発注点」のケースで言えば、プロフェッショナルが発注点をどうやって決めるのかというアルゴリズムをコンピュータで計算し、プロフェッショナルに一歩でも近付けるように挑戦するという具合です。しかも、プロフェッショナルが現場で活躍されている間にこれを進めなくてはいけません。そうしなければ、計算したアルゴリズムが正しいものかを検証することすらできなくなってしまいます。
―― 川妻常務の負けない力は何でしょうか。
「忙中閑あり」という言葉を肝に銘じています。忙しい中にも落ち着けるタイミングが必ずありますので、その瞬間にお酒飲みに行くとか、心に余裕を与えるようにします。忙しい状況が続くと気持ちも忙しいままになってしまい、良い意味で気を抜くことができなければ心身ともに疲れきってしまいます。
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