第23回 あるSoftware-Defined商談の失敗例:テクノロジーエバンジェリスト 小川大地の「ここが変だよ!? 日本のITインフラ」(2/2 ページ)
SDSやNFVは破壊的イノベーション。日本のITマネージャーが頭を悩ませるTCOの削減、いや新しい価値の創造に貢献できる技術です。しかし現実は……?
Aさんは、取り急ぎこのエンジニアからメーカーの参考情報をもらい、「参考見積り」という形で顧客に提示します。
顧客 「なんかざっくりしていますが、この構成で本当に3万IOPSは出るのでしょうか? 不安ですし、障害時の挙動も気になります。実機検証させていただけませんか?」
サイジングが不安だったAさんとしては、これは渡りに船です。すぐにサーバメーカーに連絡を取ります。しかし、ここでも意外な答えが返ってきます。
サーバメーカー担当者 「ネットワークは10Gで、SSDとHDDが計5本、CPUはモデル指定。これを4セットですか!? いや……こんなピンポイントな構成、4台どころか、1台も貸出在庫にありませんよ。お手伝いしたいのですが、ご期待に添えません……」
性能要件を満たすことを実証するには、同じ構成でなくてはなりません。レンタル業者を駆け回ればどうにか1台は確保できるかもしれませんが、SDSはサーバを複数並べて性能強化していく「分散ストレージ」です。1台では意味がなく、本番環境となればサーバを7〜8台並べることも珍しくありません。
顧客 「検証は難しいですか。付き合いの長い御社を信じますが、弊社は初期コスト(CAPEX)と運用コスト(OPEX)を合わせた5年間の総額で判断するので、『不足したら足せばよい』みたいなやり方はできません。ご提案いただいた構成で性能が満たなかった場合、CPUやSSDなどをより速いモデルへ無償交換してくれますか?」
Aさんのように実際に提案する立場の方は「この顧客、モンスターナントカだな」と思われたかもしれません。
しかしながら、ベンダーに任せず、自分たちで検証すると言っています。また担当者の立場も考えてみましょう。
「スモールスタートで」という言葉は日本でもよく聞きますが、多くの日本企業は半期や年度単位できちんと予算計画します。「足りなくなったら追加すればよい」のように、例えるとインクトナーのノリで追加発注が許されるのは、ITそのものが主要事業となっている通信キャリアやサービス/コンテンツプロバイダーくらいでしょう。
NFVも同じです。「調査費」の名目で人員や最新機材やコンサルフィーなどの検証費用を捻出できるのは大手キャリア程度です。ITそのものが主要事業、ビジネスの柱である事業者だからです。他業種の情シス部門からすれば夢のような話です。
では、どうすればよい?
残念ながら2015年8月現在、私は検証費用の捻出について解を持ち合わせておりません。ただ、メーカーができることとして、何次元にもなっている選択肢を減らさなければと感じています。規模ごとに構成を定め、星の数あるモデルやパーツの選択肢を従来型のストレージ装置のように数種類に狭めれば、性能の目安もつき、サイジングもラクになるはずです。相性問題も防げます。リスクを冒してまでパーツ選びをがんばる必要はない、というのが私の持論です。
ある大手企業のITマネージャーは、次のように熱弁されていました。「日本にはSIベンダーがいる。彼らはプロなのだから、エンドユーザーが検証に時間も金もかける必要はない!」。
何が「ここが変」なのでしょう。私は、プロには対価を支払うべきと思っています。時間もお金もかかる検証作業を無償で請け負ってしまうベンダーがいる限り、これがおかしいことに気がついていただくことは難しいでしょう。
小川大地(おがわ・だいち)
日本ヒューレット・パッカード株式会社 仮想化・統合基盤テクノロジーエバンジェリスト。SANストレージの製品開発部門にてBCP/DRやデータベースバックアップに関するエンジニアリングを経験後、2006年より日本HPに入社。x86サーバー製品のプリセールス部門に所属し、WindowsやVMwareといったOS、仮想化レイヤーのソリューションアーキテクトを担当。2015年現在は、ハードウェアとソフトウェアの両方の知見を生かし、お客様の仮想化基盤やインフラ統合の導入プロジェクトをシステムデザインの視点から支援している。Microsoft MVPを5年連続、VMware vExpertを4年連続で個人受賞。
カバーエリアは、x86サーバー、仮想化基盤、インフラ統合(コンバージドインフラストラクチャ)、データセンターインフラ設計、サイジング、災害対策、Windows基盤、デスクトップ仮想化、シンクライアントソリューション
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