雪印「6Pチーズ」を1日に20万箱作る、巨大工場の舞台ウラ(3/3 ページ)
2015年に本稼働したばかりという雪印メグミルクの“最新チーズ工場”に潜入。高度にIT化されたシステムの裏には、5年越しの一大プロジェクトがあったという。
ITとOTを融合、全システムのリアルタイムでの連携が可能に
全てのシステムを連携させる上でカギとなったのは、情報系システム(IT)と工場内の設備、つまり制御系システム(OT)との融合だ。各システムの同期を取るタイミングなど、細かい部分を日立と雪印メグミルクのエンジニアが約2年かけて詰めていったという。
「生産とプロセスを管理する情報系の部分と、製造ラインや各種機器という制御系の部分をどう連動させるかがキモでした。ここは業務を理解している雪印メグミルクのエンジニアがしっかり入らないといけない部分です。フロー図を示しながら、こちらの要望を伝えてすり合わせる、といった会議を週に3回ぐらいのペースでやりました」(松本さん)
こうして5年越しにシステムが完成。新たな工場と新たなシステムによって、さまざまなメリットが生まれた。まずは工場の敷地内に倉庫を置いたり、作業を効率化することで億単位のコストを削減できたこと。そして、各システムの連携で、受注から製造、発送までリアルタイムで管理できる体制を構築できたことだ。
「製造後出荷までのリードタイムが2日ほど短くなりました。今までは各システム間が夜間のバッチ処理で連携していたのですが、これではどうしても初動が遅くなります。特にユーザーの方々のニーズに応えるためにも、なおさらリアルタイムで対応できることが重要になるのです。今まではスペシャリストがいないと判断や操作ができなかった部分もありましたが、システム化したことでより多くの人間が対応できるようになったことも大きな成果です」(松本さん)
安全を支える「トレーサビリティ」にこだわり
さらに新システムの仕様で最もこだわった点が「トレーサビリティ(追跡可能性)」だ。原料チーズから最終的な加工品ができ上がるまで、その全てがIDで管理されている。食品偽装や異物混入などの事件から、“食の安全”というテーマが叫ばれて久しいが、雪印メグミルクも過去にそういったトラブルがなかったわけではない。だからこそ、問題を検知したときに素早く対処できるシステムを最も重要な要件として設定したという。
「システムの構想段階から、徹底したトレーサビリティの実現を定めていました。問題を検知した際は、今までは人力で製品を特定していたため時間がかかり特定範囲が大きくなっていましたが、現在のシステムなら1ケース単位で製品を特定することができます」(松本さん)
新システムの効果も見え、阿見工場のプロジェクトは終了したものの、今後もシステムの改修や見直しを続けていく必要があると松本さんは話す。
「外部環境の変化という点では、今は海外も含めた動きを考える必要が出てきています。その都度、システムを最適化できることが大切です。システムの階層や役割を整理したことで、変化が必要な場所を可視化しやすくなったというのが、今後のことを考えると最も価値のある部分なのだと思います」(松本さん)
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