SAPが日本の公共事業に本腰、“外資の反転攻勢”なるか:Weekly Memo(2/2 ページ)
SAPが日本で公共事業に注力し始めた。グローバルでのノウハウを活用すると言うが、裏を返せば日本ではこれまで公共分野で苦戦を強いられてきたようだ。果たして“反転攻勢”なるか。
日本では苦戦を強いられてきた公共分野に注力
では、SAPジャパンはなぜ今、公共事業に注力し始めたのか。これには2つの理由がある。1つは、日本政府が電子行政の推進に注力していることだ。図3がその点に関する同社の理解である。
そしてもう1つは、3月に行われた「第4次産業革命に関する日独共同声明」(ハノーバー宣言)による日独協働強化の動きに基づくものだからだ。すなわち、ドイツが推進するIoT(Internet of Things)規格の国際標準化を目指した「Industrie 4.0(インダストリー4.0)」の知見や技術を日本でも活用することで、日独の首相が「協働」を宣言。これに基づいて、ドイツでIndustrie 4.0を推進する主要メンバーであるSAPが日本政府の支援に乗り出したという構図だ。
今回のSAPジャパンの取り組みを聞いて、筆者は2つの印象を持った。1つは、同社はこれまで公共分野で苦戦を強いられてきたとみられることだ。佐藤氏によると、今回新設された組織ができるまで、公共分野を担う専任組織はなく、数人の営業担当やプリセールス担当がいただけだった。従って、公共事業の実績も「独立行政法人ではあるが、官公庁ではほんの一部にとどまっている」のが現状だという。
振り返ってみると、20年以上前までは官公庁のIT案件を外資系が受注することは非常に困難だった。しかし、その後、オープンシステムやクライアント/サーバモデルが浸透して、SAPと同じソフトウェアでもMicrosoftのOSやOracleのデータベースは官公庁にも入り込んでいった印象がある。従って、SAPも同様にそれなりの実績があると勝手に思い込んでいたが、さにあらず。やはりアプリケーションというのは手組みも多く、国産ベンダーの存在感も大きいことから、SAPといえども苦戦を強いられてきたのだろう。
そしてもう1つは、そんなSAPジャパンが改めて注力する公共事業に、Industrie 4.0が追い風になる可能性が大いにあることだ。日本政府も2017年5月、人工知能(AI)やビッグデータで快適な社会をつくる構想「Society 5.0」を成長戦略の柱にすることを打ち出した。この構想は、狩猟、農耕、工業、情報に続く第5の社会を、技術革新を通じて実現しようというものだ。Society 5.0はIndustrie 4.0と張り合っているようにも見えるが、ハノーバー宣言に基づけば、今後は連携していく形になるだろう。
こうして見ていくと、日本ではこれまで公共分野で苦戦を強いられてきたSAPにとって、Industrie 4.0の追い風に乗っていよいよ“反転攻勢”に打って出るチャンスが到来したのは間違いない。果たして、官公庁に食い込んでいけるか。デザインシンキングによるアプローチも含めて、大いに注目しておきたい。
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