SAPジャパンの2023年事業戦略にみる「日本企業のDXの針路」:Weekly Memo(2/2 ページ)
2022年も早や12月。来るべき2023年に向けて日本企業はDXの針路をどうとればよいのか。SAPジャパンの鈴木洋史社長に「2022年の総括と2023年の戦略」を聞くとともに、その針路についてアドバイスをもらった。
「五味一体の改革」と呼ぶSAPのDXから学べ
S/4HANA Cloudのパブリッククラウド版の中堅・中小企業における利用拡大をめざし、SAPジャパンはパートナー企業との連携強化にも注力していく構えだ。
その取り組みとして鈴木氏が強調したのは「100%再販ビジネス」だ。つまり、完全にパートナーを経由したセールスモデルでビジネスを展開するということだ。とはいえ、同社はこれまでも中堅・中小企業向けビジネスにおいては再販ビジネスを主体としてきたものの、なかなか浸透せず苦労してきた印象が強い。そうした背景を踏まえて、今回は何が変わったのか。
「100%再販を打ち出したのは初めてだ。とはいえ、単にパートナーに委ねるのではなく、当社として支援策を強化して、パートナーとワンチームになって中堅・中小規模のお客さまの生産性向上に努めていく覚悟だ」
「ワンチーム」という言葉に力を込めたのが印象的だった。例えば、同社の法人営業部隊がこれまで蓄積してきたクラウドビジネスのノウハウをパートナーと共有しながら、新規顧客の開拓を図っていく構えだ。
パートナー支援策の一つとして鈴木氏が取り上げたのが、年商100億円以上の中堅企業を主な対象とした「All-in-Oneパートナーパッケージプログラム」だ。さまざまな業種に対応したS/4HANA Cloudの導入範囲や期間、費用のモデルケースを提示することで、パートナー各社と共にユーザー企業の投資効果の最大化を目指すという。
同プログラムの特徴に「対象業種が細部にわたって明確」「各業種の標準的業務が事前に定義済み」「導入プロジェクトが12カ月程度で完了可能」「導入費用が明確」などがある。これらにより、ユーザー企業は実現の範囲を正確に理解し、合意した上で導入プロジェクトを開始することができる。プロジェクト進行に伴う追加費用の発生を抑えられるので、低リスク型クラウドERP導入モデルの実現が可能になるという(図2)。
最後に、DXを進める日本企業に対して2023年以降へ向けたアドバイスをもらったところ、鈴木氏は次のように話した。
「DXについてはSAP自身もこれまでさまざまな取り組みを実施してきた。私たちはそれを『五味一体の改革』と呼んでいる。この改革は『システム』『プロセス』『データ』『人』『組織』の5つを推進力としている。DXに向けてどのようなシステムを活用するか。業務プロセス改善やデータ利用をどう最適化するか、人をどう生かすか。そしてこれら4つを集約した形の組織体制をどう構築していくか。S/4HANA CloudやRISE with SAPもこうした取り組みの中から生まれ、それをソリューションの形にしてお客さまに提供している。そのソリューションでは、DXのKPI(重要達成度指標)やマインドセット、組織の最適な設計、そしてチェンジマネジメントといった観点でも支援していく。こうしたSAPの経験やノウハウをお客さまにも生かしていただけるようにしたい」
「五味一体」とは「5種の味覚を使って極上の料理を提供する」といった意味合いだ。DXを「五味一体の改革」として推進するSAPの取り組みは、日本企業の針路を考える上でも参考になるだろう。ちなみに、五味一体という言葉は仏教に由来する。DXはすなわち「経営改革」だという認識は浸透しつつある中で、さらに「企業としての極上の在りよう」を追求することも必要ではないか。上記の鈴木氏の話から、そんなことを考えた。
著者紹介:ジャーナリスト 松岡 功
フリージャーナリストとして「ビジネス」「マネジメント」「IT/デジタル」の3分野をテーマに、複数のメディアで多様な見方を提供する記事を執筆している。電波新聞社、日刊工業新聞社などで記者およびITビジネス系月刊誌編集長を歴任後、フリーに。主な著書に『サン・マイクロシステムズの戦略』(日刊工業新聞社、共著)、『新企業集団・NECグループ』(日本実業出版社)、『NTTドコモ リアルタイム・マネジメントへの挑戦』(日刊工業新聞社、共著)など。1957年8月生まれ、大阪府出身。
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