スマートフォンやパソコンに関連して、Wi-Fi(無線LAN)と並んでよく耳にしたり目に入ったりする言葉が「Bluetooth(ブルートゥース)」です。「ワイヤレスのイヤフォンやヘッドフォンをつなぐための何かでしょ?」と、何となく分かっていても、その“正体”はよく分かっていないという人もいるはずです。
そもそも、Bluetoothとは一体何者なのでしょうか?
Bluetoothは2.4GHz帯の無線を使った近距離通信規格の1つで、最初のバージョン「Bluetooth 1.0」は1999年7月に策定されました……が、そのルーツはもう少しさかのぼることができます。
1994年、スウェーデンの通信機器メーカー「Ericsson(エリクソン)」がアンライセンスドバンド(※1)である2.4GHz帯の無線を用いた近距離無線通信技術の開発を本格化しました。ヘッドセットやモデム(データを変換する装置)といったデータ転送量が比較的少ない周辺機器の接続をワイヤレス化するための標準規格として確立することも目指していました。
(※1)国や地域の規制当局(日本では総務省)から免許(無線局を開設する許可)を取得せずに無線通信できる帯域。ただし、不要なのはあくまでも免許の取得で、無線機自体は規制当局による認証を得る必要がある
ただ、当たり前ですが“規格”となるには、その技術を採用してくれるパートナーの存在が重要です。そこで、Ericssonは1996年、米国のIntel(インテル)とフィンランドのNokia(ノキア)と共同で規格策定に向けた作業を開始。1998年10月、これら3社に米IBMと東芝を加えた5社が「Bluetooth Special Interest Group(Bluetooth SIG)」という標準化団体を発足させました。
Bluetoothは1999年7月に策定された「1.0」から、約10年間で「5.1」までバージョンを重ねてきました。互換性(機器の相互運用性)という面では「Bluetooth 1.0から3.0まで」と「Bluetooth 4.0以降」の2グループに大別されます。
最初期バージョンのBluetooth 1.0から2009年4月に策定された「Bluetooth 3.0」までは、「Bluetooth Classic」と呼ばれることもあります。
Bluetooth Classicは「マスター(主)」たるパソコン、スマホやタブレット)と、スレーブ(従者)たるBluetoot周辺機器を「ペアリング」(ひも付け)して使います。1台のマスターデバイスには、最大7台のスレーブデバイスを接続できます。
2009年12月に策定された「Bluetooth 4.0」以降のバージョンは、新しい通信方式「Bluetooth Low Energy(BLE)」を追加しています。その名の通り、BLEはBluetooth Classicの通信方式と比べると消費電力を抑えて通信できることが特徴です。
BLEでは、Bluetooth Classicから機器の定義が少し変わっています。マスターは「セントラル(中枢)」、スレーブは「ペリフェラル(周辺機器)」とされ、「ペリフェラルデバイスはセントラルデバイスを介して機能を提供する」ものと位置付けられています。
さらに、BLEは機器の接続方法も拡充しています。従来と同様に機器をペアリングして接続する方法に加えて、通信範囲内にあるデバイスにデータを一方的に送信する「ブロードキャスト」や複数のデバイスが相互に通信してネットワークを構築する「メッシュ接続」(※2)も利用できます。機器の接続台数も規格上は“上限なし”です(※3)
消費電力の削減と接続方法の多様化により、「スマートトラッカー(忘れ物防止タグ)」を始めとする新たな用途を持ったBluetooth機器が登場した他、通信圏内に入ったスマホ(のアプリ)にメッセージをプッシュ配信することを始めとする新たな使い方が生まれました。
(※2)メッシュ接続は、Bluetooth 5.0以降で利用できます
(※3)実際に接続できる台数は、通信チップとそれを制御するスタック(ソフトウェア)に依存します
Bluetoothには、デバイスの種類(あるいは通信内容)に応じた「プロファイル」が存在します。Bluetoothのバージョンが一致していても、互いが同じプロファイルを備えていないと機器を利用できません。見方を変えれば、同じプロファイルに対応していれば、Bluetoothのバージョンが異なっていても原則として利用できます(※4)。
ただし、同じプロファイルを利用していても、Bluetooth Classic“のみ”対応する機器とBLE“のみ”対応する機器は組み合わせられません。Bluetooth 3.0までに対応するパソコン、スマホやタブレットで使うことを目的として「Bluetooth 4.0(〜5.1)対応」とする機器の購入を検討する場合は、Bluetooth Classicの環境でも使えるかどうか事前に確認することをおすすめします。
ちなみに、Bluetooth 4.0以降に対応するセントラルデバイス(スマホ、タブレットやパソコン)は、特記がなければBluetooth ClassicとBLEの両方に対応しています。ただし、搭載しているスタックやアプリによって使えるプロファイルが異なるので、スペック表などで「対応プロファイル」をチェックしておきましょう。
(※4)特定のバージョンで実装された機能やプロファイルを用いるデバイスは、古いバージョンの機器では利用できなかったり、利用できる機能に制限が生じる場合があります
話は前後しますが、「Bluetooth」は日本語に直訳すると「青い歯」です。なぜ、このような規格名になったのでしょうか。
10世紀、デンマーク国王のハーラル一世(ハーラル・プロタン)はノルウェーとデンマークを無血統合しました。スカンジナビア半島の平和的な統一を果たした彼は死後、歯を青く染めていたことから歴史書で「青歯王」と呼ばれることになります。
時は進んで1996年。先述の通り、Ericsson、Intel、Nokiaの3社は共同で近距離無線通信規格の標準化を目指すことになりました。その過程で、Intelのジム・カダック(Jim Kardach)氏が、青歯王の故事になぞらえて、「近距離無線通信の標準化(≒平和的統合)」を目指すこのプロジェクトに「Bluetooth」というコード名を付けました。
「青い歯」を英語で直訳したBluetoothというコード名は、標準化団体の名前はもとより、通信規格名としても使われることになります。大本の規格を作ったEricssonがスカンジナビア半島に所在する会社であることと合わせて、「言い得て妙」なネーミングとなりました。
ちなみに、Bluetoothのロゴも、ハーラル一世のイニシャル(H.B)のルーン表記が由来です。単純に「B」を図案化したものではないのです。
バージョン5.1まで進化したBluetooth。先述の通り、最近でこそBLEを活用した新たな使い方が見いだされていますが、現在でも中心的な用途はスマホ、タブレットやパソコンの周辺機器のワイヤレス化にあります。
どのような機器があるのか、主な例を見ていきましょう。
スマホの通話やボイスチャットで使う「ワイヤレスヘッドセット」は、Bluetoothの用途的な“ルーツ”の1つ。スマホが少し離れた所にあっても電話に出たり通話したりできるので便利です。
最近では、オーディオ(通話以外の音声)もBluetoothで伝送する「ワイヤレスイヤフォン」「ワイヤレスヘッドフォン」も普及しています。ワイヤレスイヤフォンやワイヤレスヘッドフォンの多くは、ワイヤレスヘッドセットの機能も兼ね備えており、特にスマホでの利用時に便利に使えます。
主にパソコンで用いるキーボードやマウスにも、Bluetoothでワイヤレス化したものがあります。スマホやタブレットでも、キーボードやマウスを使うと文字入力やWebブラウジングの効率がアップします。
自宅に据え置いて使うものはもちろん、持ち運ぶことを前提にした構造を備えるものもあります。
Bluetooth 4.0以降のBLEの機能を生かした新しいBluetoothデバイスが「忘れ物防止タグ」です。カメラや財布など、なくしたら困るものにタグを取り付けて、あらかじめスマホなどとペアリングしておけば、自分の手元から離れた際にスマホがアラートを出してくれます。
これをより高機能し、なくしたものを“追跡”する機能を備えたものが「スマートトラッカー」です。同じトラッカーを使っているユーザーのスマホが、なくしたものに付いているトラッカーを検出すると「この辺にあるのではないか?」という推測を出してくれます。
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