スマートフォンやタブレット、パソコンのネット接続で「Wi-Fi(ワイファイ)」を使っている人も多いと思います。自宅に置く「Wi-Fiルーター」はもちろん、外出先での「フリーWi-Fi」「公衆Wi-Fi」、職場のWi-Fiなど、さまざまな場所にWi-Fiは存在しています。
そんなWi-Fiですが、最近は「Wi-Fi 6(ワイファイシックス)」という言葉を耳にする機会が多くなりました。Wi-Fi 6とは一体何者なのでしょうか?
少しスマホやパソコンに詳しい人の視点からすると、現在の「Wi-Fi」という言葉の使われ方に違和感を覚えることがあるそうです。Wi-Fiは元々、「Wi-Fi Alliance(ワイファイアライアンス)」という団体が行う、無線LANデバイスに対する認証プログラムのことを指していたからです。
その名の通り、自宅やオフィスのネットワークを無線通信化したものが「無線LAN」です。無線LANは、米IEEE(アイ・トリプル・イー:米国電気電子学会)という団体で標準化された規格を用いたものがほとんどです。さまざまなメーカーがIEEEの規格に従った無線LANデバイスを開発し、発売しています。
しかし、無線LANの黎明(れいめい)期ともいえる1990年代後半、同じ規格を使っているにも関わらず、異なるメーカーの無線LANデバイスを組み合わせるとうまく通信できないという問題が少なからず発生していました。いわゆる「相性問題」です。
同じ規格を使っている、異なるメーカーの無線LANデバイスの接続性を確保する――その目的を達するために1999年、米国で発足した団体が「Wireless Ethernet Compatibility Alliance」、現在のWi-Fi Allianceです。
Wi-Fi Allianceの主な業務は、無線LANデバイスの相互接続性の確認と認証です。同団体が相互接続性があると認めた無線LANデバイスに付与されるのが、「Wi-Fi CERTIFIED(ワイファイサーティファイド)」という認証です。
元々は、Wi-Fi CERTIFIEDを取得した無線LANデバイスだけが「Wi-Fi」を名乗れたのです。
時間の経過と共に、無線LANデバイスの相互接続性は高まっていきました。相性問題はゼロになった訳ではないものの、「全く接続できない」という致命的なものは、ほぼ発生しなくなりました。そのせいか、時がたつにつれて、安価な無線LANルーターを中心にWi-Fi CERTIFIEDを取得しない無線LANデバイスも増えました。
本来はルール上、Wi-Fi CERTIFIEDを取得していない無線LANデバイスはWi-Fiを名乗ることができません。しかし、無線LANを指す一般名詞として「Wi-Fi」が根付いたことから、未取得デバイスも「Wi-Fi」を名乗ることが多くなり、現在に至っています。
先ほども触れた通り、現在の無線LANの規格はIEEEで定められたものが標準です。IEEEでは、無線LANに関する規格は「IEEE 802.11シリーズ」にまとめられています。通信に関する最新の規格は、「IEEE 802.11ax」です。
IEEE 802.11axは「技術仕様案(ドラフト)」という状態で、正式な規格にはなっていません。ただし、2018年に定められた「ドラフト3.0」において技術的な要件(必要最低限満たすべき仕様)は確定しています。この技術仕様案は、まもなく「ドラフト6.0」となる予定で、現在のスケジュールでは11月に正式規格となる見込みです。
ドラフト3.0が策定されて以降、IEEE 802.11axに対応するルーター、スマホ、タブレットやパソコンの製品化が本格的に始まりました。スマホなら、AppleのiPhone 11シリーズやiPhone SE(第2世代)、サムスン電子の「Galaxy S10シリーズ」(※)や「Galaxy S20シリーズ」などが対応しています。
(※)Android 10へのOSバージョンアップが必要です
一方、無線LANの規格については「分かりづらい」「表記が長すぎる」という指摘がありました。確かに「IEEE 802.11ax」と聞いた時に、知識がある程度ないと、新しい(≒より高い通信速度を出せる)ものなのかどうか分からないと思います。
そういった声を受けて、Wi-Fi AllianceはIEEE 802.11axと過去2世代の規格(IEEE 802.11ac、IEEE 802.11n)に準拠したデバイスを「世代番号」で区分することにしました。具体的な区分番号は以下の通りです。
IEEE 802.11と、その改良版であるIEEE 802.11bを「第1世代」と見なした場合、IEEE 802.11axは「第6世代」に当たります。「第6世代のWi-Fi」ということで「Wi-Fi 6」と呼ぶことになったのです。
そんなWi-Fi 6こと、IEEE 802.11ax規格の無線LAN。従来のWi-Fiとは何が違うのでしょうか。箇条書きですごく簡単にまとめると、主に以下のような特徴があります。
これらのメリットの恩恵にあずかるには、ルーター(親機)と、スマホやパソコンといった子機の両方をWi-Fi 6対応にする必要があります。将来を見越して、少しずつWi-Fi 6対応デバイスをそろえていくと、少しずつ快適なWi-Fi環境に近づいていくと思います。
なお、無線LANデバイスは原則として「下位互換」機能を備えています。Wi-Fi 6対応デバイスは、Wi-Fi 5までに対応するデバイスとも通信できるので、安心して買い換えていけます。
先述の通り、Wi-Fi 6対応デバイスは2018年から本格的に姿を見せ始めました。2019年後半からはその動きがさらに加速しており、2020年はWi-Fi 6が本格的に普及し始める年となりそうです。
どのようなWi-Fi 6対応デバイスがあるのか、簡単に紹介します。
Wi-Fi 6環境を構築する場合、無線LANデバイスの“親機”となる「Wi-Fi(無線LAN)ルーター」が一番重要です。Wi-Fi 6ルーターは2万円超の中〜高価格帯のものが中心です が、最近では実売価格が1万円弱から1万円台半ばの低価格製品もあります。
選ぶ際に特に気を付けたいのは「有線LANの速度」です。とりわけ、インターネット(WAN)回線側の有線LANの速度はしっかりチェックしないと「せっかくWi-Fi 6に対応したのに、インターネット回線の速度を生かしきれない」といった問題が発生することがあります。
1万円台の製品としては、エレコムの「WRC-X3000GS」がおすすめです。Wi-Fi 6利用時の最高通信速度は約2.3Gbps(5GHz帯)または574Mbps(2.4GHz帯)ですが、有線LANは1Gbpsとなるので、特にインターネット回線の速度が1Gbps超の場合は注意が必要です。
2万円超の製品としては、バッファローの「WXR-5950AX12」(実売価格3万円台)がおすすめです。Wi-Fi 6利用時の最高通信速度は約4.7Gbps(5GHz帯)または1.1Gbps(2.4GHz帯)で、有線LANポートもインターネット側は10Gbps、自宅側は10Gbps×1+1Gbps×3という構成で、1Gbps超のインターネット回線をしっかり生かすことができます。
Wi-Fi 6対応スマホも、少しずつ出てきています。先述したiPhone 11シリーズやiPhone SE(第2世代)、Galaxy S10/S20シリーズの他、「Galaxy Note10+」も対応しています。
発売予定の機種では、ソニーモバイルコミュニケーションズの5Gスマホ「Xperia 1 II」や、富士通コネクテッドテクノロジーズの5Gスマホ「arrows 5G」などもWi-Fi 6に対応しています。
パソコンでは、Intel(インテル)の「第10世代Coreプロセッサ」を搭載するノートパソコンを中心にWi-Fi 6対応モデルが出てきています。
例えばLGエレクトロニクスのノートPC「gram(2020年モデル)」は、持ち運びに便利な超軽量ボディーにWi-Fi 6通信機能を備えています。デルのモバイルノートPC「Inspiron 14 7490」も一部モデルでWi-Fi 6通信機能を備えています。
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