Ubiquitous Computing / UbiComp
人間の生活環境の中にコンピュータチップとネットワークが組み込まれ、ユーザーはコンピュータの所在を意識することなく、コンピュータの機能を利用できる環境のこと。縮めて“UbiComp”ともいう。
ユビキタスとは、ラテン語の“ubique=あらゆるところで”という形容詞を基にした、「(神のごとく)遍在する」という意味で使われている英語で、米ゼロックス パロアルト研究所のマーク・ワイザー(Mark Weiser)が、メインフレーム(みんなで1台のコンピュータを使用)、パーソナル・コンピュータ(1人で1台を使用)に続く第3世代のコンピュータ利用形態として1988年ごろに提唱したコンセプトである。
この概念は、ワイザーらのHCI(human computer interaction)研究の中から生まれてきたもので、場所的な制約ばかりでなく、使いにくさという制約の解消がテーマとなっており、キーボード、アイコンとマウスといった伝統的なユーザー・インターフェイスに変わって、ペン入力や音声認識、そのほかのデバイスを活用したコンピュータ操作、さらにはコンピュータ・ネットワーク側が個人や現実環境の状況を把握・判断し、アクティブに働きかけるといったことまでが視野に入っている。例えば、正しいバッジを着用した者にのみに開くドア、名前によってあいさつする部屋、相手の場所に応じて自動的に転送される電話などが理想的に語られる。
またワイザーは、ユビキタス・コンピューティングを語る際に「見えない」(invisible)ことを強調しており、その究極的な姿は「区別がつかないほど日常生活に織り込まれる」と説明している。晩年は、そうした“さりげないコンピューティング”を強調して、「カーム・コンピューティング」(calm computing)という言葉を使いたいと主張するようになっていた。
このように「ユビキタス」は、もともとはこうしたコンピューティングの基礎的な研究プロジェクトの中におけるビジョンを表す言葉だったが、1990年代の終わりになって、日本では携帯電話を始めとした小型情報端末の進化・普及に伴い、「どこからでもコンピュータを利用できる」という意味、ないしはモバイルの同義語としてユビキタスが使われるようになった。「ユビキタス・ネットワーク」などは、基本的にこの用法である。
▼「The Computer for the 21st Century」 Mark Weiser=著/Scientific American, pp.94-100 Sep. 1991/1991年
▼『ユビキタス・ネットワーク』 野村総合研究所=著/野村総合研究所広報部/2000年12月
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