米SAS 「リアルタイムの意思決定を行う分析基盤が不可欠」超高速ビッグデータ分析「SAS High-Performance Analytics」発表

» 2011年10月26日 00時00分 公開
[ @IT 内野宏信,@IT]

 米SASは、10月26日(米国時間)から米オーランドで開催する年次イベント「THE PREMIER BUSINESS LEADERSHIP SERIES」に先立ち、25日にノースカロライナの本社で記者向け説明会を実施。同社CEO ジム・グッドナイト氏が登壇し、「ビッグデータ」をはじめとするITトレンドと、それに対する同社の対応状況を解説した。同氏は「データが加速度的に増大している今、リアルなタイムな意思決定を行うためには、スピーディに処理できるデータ分析基盤が不可欠」と力説。併せて、超高速ビッグデータ分析アプライアンス「SAS High-Performance Analytics」を12月中旬に提供開始(日本国内は未定)すると発表した。

「ハイパフォーマンスコンピューティング」環境が不可欠

 近年、大量データの有効活用を意味するビッグデータが多くの企業の注目を集めている。特に米ガートナーによると、「企業が蓄積するデータは、前年比で年間59%ずつ増えている」という調査結果もあるほか、データの種類も増えており、中でも電子メールやファイルデータ、ソーシャルメディア上を流れるデータなどの非構造化データに、次のアクションにつながる重要なビジネスの洞察が含まれていると指摘されている。

写真 米SAS CEO ジム・グッドナイト氏

 グッドナイト氏は、「データが加速度的に増大している今、企業が市場で勝ち残るためには、リアルタイムな意思決定が求められる。すなわち、大量のデータを迅速に処理、分析できるスピーディな分析基盤が強く求められている」と述べ、実際に“ビッグデータ”という概念の浸透を受けて、今多くの企業が自社の分析基盤の見直しに乗り出していることを指摘した。

 一方、2つ目の注目すべきトレンドとして、「In-Database Analytics」を紹介。これは、分析エンジン側で行うモデリングやスコアリングなどをデータベース内で行い、その結果を分析エンジン側に渡すことで、分析の高度化、高速化を両立する手法だ。

 グッドナイト氏は「数年前まで、企業は自社内のデータをDWHで管理して簡単なレポートを作っていた。だが現在は、有効なアクションにつながる洗練された分析結果を、よりスピーディに得ることを多くの企業が望んでいる」と解説。その点、In-Database Analyticsの仕組みなら、DWHから分析エンジンにデータを移動する必要がなくなるほか、レスポンスのネックになりがちなデータのI/Oの問題も回避できる。この点で、今求められている要件を満たし得ることをあらためて解説した。

写真 「今後は高度な分析を高速で行うための、ハイパフォーマンスコンピューティングがカギになる」と指摘するグッドナイト氏

 さらに、3つ目のトレンドして着目すべきは、高度な分析を高速で行うための「ハイパフォーマンスコンピューティング」だという。

 分析を高速化するための手法はIn-Database Analyticsだけではない。それ以外にも、複数のノードで並列分散処理を行う「グリッドコンピューティング」のほか、従来、複数のノードに分散しているデータを分析エンジン上に収集してから実行していた処理を、マルチスレッドで分散したまま、なおかつインメモリ上で処理を実行した上で、その結果だけを分析エンジンに取り込むことで処理を高速化する「In-Memory Analytics」というアプローチもある。

 この点について、グッドナイト氏は、「一般に、分析のための計算専用に用意した複数のブレードサーバで並列処理を行う方法は、高度な分析の高速化を図る上で非常に良い選択肢と言える」と解説。意思決定を迅速化する上で、大量データの“並列処理”が、技術面での重要なポイントとなることを指摘した。

 実際、同社では今年9月、ビッグデータに対応するための分析能力を10〜15倍に強化・最適化した分析プラットフォーム「SAS 9.3」を発表。その機能として、上記3つの手法を「SAS In-Database」「SAS Grid Computing」「SAS In-Memory Analytics」として実装している。その結果、従来18時間掛かっていた分析処理を12分に短縮できたシンガポールの銀行のケースなど、すでに多くの顧客の期待に応えているという。

30時間以上を要していた計算を2時間に短縮

 一方、今回発表した「SAS High-Performance Analytics」は、以上のような考えに基づいて、より多くの企業に、より効率的に高速分析基盤を提供するために、「In-Database Analytics」のテクノロジを、アプライアンス製品として提供するものだ。

 具体的には、Teradata、もしくはEMC Greenplumのデータベース・アプライアンス上で、テラバイト単位のデータをほぼリアルタイムに処理し、SASの分析エンジンに処理結果を渡すことで、分析処理を超高速化する仕組みとしている。これにより、従来のコンピューティング技術では数時間から数日を要していた分析タスクを、数分以内に完了させることが可能になるという。事実、アーリーアダプターの米国のある大手小売業では、毎週2億7000万件以上に及ぶ店舗別の価格設定を行っているが、同製品により、30時間以上を要していた計算を2時間に短縮できたという。

創業以来35年間、増益を記録。環境対策にも注力

 このほかグッドナイト氏は、注目すべきトレンドの1つとして「クラウドコンピューティング」も紹介。ただ、「クラウドというと非常にイノベーティブなものと思われているが、1960〜70年代のメインフレームにおいても“タイムシェアリング”という方法で数千人規模のユーザーのコンピューティング環境を1つのメインフレーム上で担ってきた。クラウドはこれと似ている」と、興味深い見解を披露。

 また、ある製薬会社がSASのデータセンターを使ってデータを共有し、日米欧の3拠点で臨床研究を協調して行っている事例を上げ、「拠点間のデータ共有・活用」というクラウドの1つのメリットにフォーカス。併せて、SASでは今年「クラウドコンピューティングファシリティ」というデータセンターを構築し、SaaS提供しているソーシャルメディア分析製品「SAS Social Media Analytics」など、同社のクラウドサービス提供基盤を一層強化したことをアピールした。

写真 記者向け説明会の会場となったエグゼクティブ ブリーフィング センターは、米国グリーンビルディング協会が定める環境対策認証 LEEDで最高の格付け「プラチナ」を与えられた

 なお、SASは今年で創立35年目となるが、この間、継続的に増益を記録。また、今年7月には米国グリーンビルディング協会が定める環境対策認証「LEED(Leadership Energy&Environment Design)」において、23棟ある本社ビルのうち、重要顧客の商談などを行う「エグゼクティブ ブリーフィング センター」のビルが最高の格付けである「プラチナ」を取得したという。

写真 エグゼクティブ ブリーフィング センターのインテリア。華美と言うより瀟洒で知的なデザインが同社の風土を象徴している

 さらに、米フォーチュン誌が毎年行っている「最も働きがいのある会社ベスト100」において、2010年度に続いて2年連続で第1位を獲得。グッドナイト氏は、分析を主軸としたソリューション提供だけではなく、環境保護や福利厚生面にも注力するなど、全方位的に「イノベーションの風土がある」ことをあらためてアピール。本格的なビッグデータ時代の到来に向けて、より多くの企業の分析基盤強化に向けたSASの方向性を力強く訴えた。

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