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システム稼働するも、安定運用できずに失敗ERP導入プロジェクト失敗の法則(5)(2/2 ページ)

ERPは業務に密接に結び付いたものなので、システム開発のカットオーバーをもって導入完了とはならず、稼働後でも“失敗”のリスクがある。よくあるケースと対策とは?

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ERP導入失敗事例――稼働直後の機能変更に対応できない

 構築を丸投げしたことからシステムがブラックボックス化してしまい、それが“失敗”につながるケースがあります。

事例E──システム稼動後の危機:ブラックボックス化した新システム

 「それでは、新システムが安定稼働したとはいえないじゃないか!」

 情報システム部長は、導入業者の営業担当とプロジェクトマネージャに対して怒りをあらわにした。

 E工業は大手自動車メーカーNの系列部品メーカーで、先月よりERP新システムの本番稼働を開始した。無事初回の月末締め処理を乗り切り、ようやくこれでERP導入プロジェクトも収束が見えたかというタイミングであった。景気回復により、E工業の業績は好調。新ERPシステム稼働により、これまででは考えられないレベルの質の高いきめ細かい情報をリアルタイムに活用できるようになった。さらに全社を挙げて業績対策を行った結果、新規大口顧客として海外大手自動車メーカーD社からの受注に成功した。ここで社長から、至急新ERPシステムにD社の発注処理に対応させろと指示があった。

 情報システム部長は早速、導入業者の営業担当とプロジェクトマネージャに相談したのだが、返ってきた答えは「現プロジェクトメンバーは、次のプロジェクト引き当て予定があり対応できない。要請されたシステムの改修も、今回のプロジェクトで適用したテンプレートとはまったく異なる受注処理であるため、開発工数、改修期間も即答できない」というものであった。

 社内のプロジェクトメンバーは新ERPシステムの運用管理はできるが、ERP導入はほぼ丸投げで導入業者のコンサルタントが開発したため、機能拡張には対応できない。ERPシステムは、柔軟性や拡張性が高く多様な業種業態に対応できるという話だったのだが、コンサルタントが確保できなければ対応できないではないか。


失敗の理由と新システムを使いこなすための対策

 最近よく見られるケースですが、ERP導入プロジェクトの導入費用を徹底的に抑制する目的から、自社のプロジェクトメンバーにパッケージベンダのトレーニングを受講させず、導入業者の導入テンプレート・ベースの教育だけで済ましてしまうことがあります。

 確かに、ERPシステム構築というポイントに限って短期間、低コストで高いパフォーマンスを出すことは間違いありませんが、システム稼働後の設定変更や改修といった活用度を向上する能力を社内に持っていないユーザー企業が増えています。『ERPは100%の適用を狙わず、稼働しながらフィット率を向上することが理想』といわれているのですが、自社内でこうした要員を同時に育成しておかなければ結局過去のシステムと同じように、ブラックボックス化してしまいます。

 この状況における解決策は、まず導入業者に対して最低限のコンサルタントを継続投入するべく交渉することです。大抵の導入業者は、売り上げ/収益の少ない保守運用フェイズの作業を嫌いますが、新システム稼働直後で現行メンバーが完全にリリースされた状況でもありませんから、2〜3名のコンサルタントを多少期間延長することは可能と考えてよいでしょう。粘り強い交渉が有効です。

 そして、至急で対策すべきは新ERPシステムをブラックボックス化させないための自社要員の育成を行うことです。

 もし、今回のプロジェクトで自社要員をちゃんとパッケージベンダのトレーニングで育成し、コンサルタントとしてのスキルを獲得していれば上記のような要件に対しても容易に自前で対応できたかもしれません。さらにERPパッケージは随時バージョンアップなどによる機能追加、新技術対応をしていますので、ERPを中心としたCRMBICPMといった拡張や将来のアップグレード──すなわち「次の経営・業務改革」を検討する際にも備えとなります。

攻めのヘルプデスクを

 ERP導入の成功と失敗の境目は、ERPシステム稼動後にあると考えてください。せっかくのERPシステムをブラックボックス化してしまい、導入業者のコンサルタントがいなければ身動きが取れないということでは、莫大な投資を回収できる見込みがあるとは思えません。

 ERPシステムの構築を説明する際、よく家を建てることになぞらえて話をするのですが、住み心地の良い家は常に間取りや水回り、設備や内装(インテリア)といったきめ細かいところをメンテしたり、リフォームしたりするものです。

 わたしは、こうした作業を“システムリフォーム”と呼んでいます。こうしたリフォームは、ユーザー自身で行うことが基本です。必要に応じてパッケージベンダや導入業者にスポット対応してもらうのがコツです。ERP活用度を向上する手段として、ユーザー会に参加したり業界団体のERP研究推進フォーラムのセミナーなどから日々、情報収集することをお勧めいたします

 さらにエンドユーザーの顧客満足(CS)を向上し、ERP投資を有意義なものとする姿勢として『攻めのヘルプデスク』を目指していただきたいと思います。


リンク

 これは、エンドユーザーからのリクエストに対する受け身のヘルプデスクではなく、エンドユーザーに対するシステム利用の提案を行うヘルプデスクを目指すものです。具体的には、ERP導入によって蓄積されていくきめ細かいデータを有効活用する提案を定期的に行うのです。エンドユーザーに対する積極的な情報発信が、その成功のポイントです。

【Keypoint】

  • 導入業者を有効活用する
  • しかし、あくまでも主役は“ユーザー企業”自身であり、導入業者は脇役である
  • 任せる範囲、役割を間違えないこと

[×]失敗の法則

自社の業務に精通しているのは自社の人間だけです。業務のあるべき姿や目標を外部に任せてシステム構築するケースがありますが、これは失敗する典型的なパターンといえます。特にERPのような、全社最適を狙いとしたシステムを導入する場合、その導入過程において、各業務プロセス/組織の形態や役割について、いままでとは変えられる点、変えざるを得ない点などが数多く出てきます。システム構築だからといって従来のように外部ベンダに全面的に任せてしまうと、要所で的確な判断ができずベンダの勝手な解釈によってプロジェクトが進んでいきます。結果としてERPパッケージ本来の機能を生かせずに、使えないシステムが出来上がるケースが見受けられます。


[○]成功への道しるべ

ERP導入プロジェクト成功のためには、導入経験が豊富なベンダなどの外部を有効に活用することが重要です。その際に留意しなければならないのが、「自社がプロジェクトにどこまで主体的に関与するのか」「外部にどの範囲をどこまで任せるのか」という関係各社の果たすべき役割の“切り分け”と“明確化”です。これらは、プロジェクトの期間/範囲/予算/体制によって変わってきますが、基本的に「自社主導」にてプロジェクトを進める覚悟で、重要な部分を外部任せにしないことが重要です。例えば、自社のプロジェクトメンバーが早い段階でトレーニングを受講してERPパッケージに関するある程度の知識を身に付けた場合、各業務プロセスに対してどの程度標準機能が適用可能なのか、有効活用できるのかという判断を速やかに行うことができます。このような発想・視点でプロジェクトを主導すること、つまり範囲/役割の分担が重要です。



 ひと昔前は、ERPはコスト削減の手段として脚光を浴びていましたが、現在では業務プロセス視点でERPをビジネス基盤とする傾向が強くなっています。「売り上げ向上に貢献する」「内部統制対応」といった要件に対してもERPは有効であり、事例も多数あります。“ERPの達人”を目指して、ぜひとも導入したERPシステムをすり切れるまで使いこなしてほしいと思っています。

 次回は、いよいよ最終回です。ERP導入に真の意味で「成功した」といえるのは、「アップグレードに成功した」企業だと思います。ERPを有効活用できずにアップグレード失敗となる事例とその対処方法をご紹介します。

profile

鍋野 敬一郎(なべの けいいちろう)

1989年に同志社大学工学部化学工学科(生化学研究室)卒業後、米国大手総合化学会社デュポン社の日本法人へ入社。農業用製品事業部に所属し事業部のマーケティング・広報を担当。1998年にERPベンダ最大手SAP社の日本法人SAPジャパンに転職し、マーケティング担当、広報担当、プリセールスコンサルタントを経験。アライアンス本部にて担当マネージャーとしてmySAP All-in-Oneソリューション(ERP導入テンプレート)を立ち上げた。2003年にSAPジャパンを退社し、現在はコンサルタントとしてERPの導入支援・提案活動に従事する。またERPやBPM、CPMなどのマーケティングやセミナー活動を行い、最近ではテクノブレーン株式会社が主催するキャリアラボラトリーでIT関連のセミナー講師も務める。


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