中堅・中小企業で導入できる程度に価格も下がってきたERPパッケージ。しかし、ERP導入には特有の難しさがあり、導入失敗の例も多いという。この連載では、ERP導入失敗に潜む“法則”や“パターン”を取り上げ、導入成功に導く処方せんを伝えていく
ERPという言葉が1990年代半ばごろに日本に登場して10年余り。ERPシステムも大手企業では広く採用されており、よく知られた分野として定着してきたのではないかと思います。ERPというコンセプトと市場は、ドイツのワルドルフに本社を置くSAPによって作られたといっていいでしょう。SAPのWebサイトによると同社の市場シェアは50%を超えており、日本においても売上額1000億円以上の大企業を対象とした市場では同様に高いシェアを占めています。
ERP導入というとこれまでは、数億円から数十億円もの費用が掛かる大掛かりなものが大半で、大企業によるものが中心でした。しかし、2003年ごろから中堅企業向けにテンプレートによるERP短期導入や、中堅・中小企業向けの低価格製品などが登場しており、SAPでも昨年から「SAP Business One」という2000万円程度で導入可能なERPパッケージを提供しています。
調査機関などのレポートによると、大手企業におけるERP導入はすでに一巡したといわれており、事実2004年度のライセンス売上額は前年度を下回ったと報告されています。今後ERP導入は中堅・中小企業を中心に2けた増の伸びが予想されているとのことですが、先行して導入している大手企業のERPに対する満足度はあまり高くないという報告もあります。
ERPが日本経済を支える中堅・中小企業に定着できるのか、あるいは限定的なものとして終わるのかは、ERPの効果を導入企業がどのように評価するかで決まるでしょう。すでに多数の事例がありますが、ERP導入はERPシステムが稼働すれば成功というわけではありません。こうすれば成功するという必勝パターンもないような気がします。しかし、「失敗」と呼ばれる事例には特定の要因がよく見られ、どうやら「失敗の法則」があるように思われるのです。
私は、幸運なことにERPユーザーとしての経験とERPベンダとしての経験があります。ERPが日本市場に登場したこの10年余りを当初はユーザーとして、後半はベンダ(SAP)側の視点で複数の事例を見る機会に恵まれました。そこで、今回「ERP導入プロジェクト失敗の法則」というテーマで私の経験や業界で聞いた実話などを基に、これからERP導入を検討される方や現時点でERPを使われている方々に対して、ERP導入のポイントやコツをご紹介したいと思います。
ERP導入は、システム導入プロジェクトの中でも非常に難易度の高いものだとよくいわれます。一般にシステム(単機能型業務システムなど)導入の失敗といえば、次のようなものが挙げられます。
しかしERP導入の場合には、この3点のほかにさらにいくつかのハードルが存在します。そのポイントは次のようなものです。
つまり、通常のシステム導入と比較してリスクとなるポイントが多いのです。そして、これに加えて歴史が浅いこともあり、ERP導入経験や実績を持った優れたベンダやコンサルタントが少ないことも失敗しやすい理由に挙げられるでしょう。
ERPはもともと欧米から持ち込まれたコンセプトです。グローバルレベルの業務には対応していても、日本固有の思想や歴史を背景としたビジネスにはズレが生じるケースが多いようです。こうしたことも失敗を生じる要因であると思われます。
ERP導入を失敗するチェックポイントを導入プロセスに沿って整理すると以下のようになります。
今回は、「1. ERP導入目的共有の失敗」という視点でよくある例を挙げて失敗のポイントをご紹介してみましょう。
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